Made in Bangladesh (Bangladesh)

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Made in Bangladesh
「Made in Bangladesh」

 バングラデシュのアパレル産業は中国に次ぎ世界第二の規模を誇っており、世界最貧国のひとつとされるバングラデシュにとってもGDPの13%を占める重要な産業になっている。日本で販売される衣類もバングラデシュで縫製が行われているものが多い。だが、我々が手にする衣類がどのような過程で出来上がって届けられているのか、なかなか想像できないものである。

 2019年9月6日にトロント国際映画祭でプレミア上映された「Made in Bangladesh」は、実話に基づき、バングラデシュの縫製産業の実態に迫った作品である。日本では2022年4月16日から「メイド・イン・バングラデシュ」の邦題と共に劇場一般公開された。同年5月21日に名古屋市の名演小劇場で鑑賞した。

 監督はルバイヤート・ホサイン。「Meherjaan」(2011年)でデビューしたバングラデシュ人女性映画監督である。キャストは、リキター・ナンディニー・シム、ノヴェラー・レヘマーン、ディーパーンウィター・マーティン、シャターブディー・ワドゥード、モスタファー・モーンワール、シャハーナー・ゴースワーミーなど。ほとんどはバングラデシュ人俳優だが、シャハーナー・ゴースワーミーだけはインド人女優で、「Rock On!!」(2008年)などに出演していた。最近はヒンディー語映画で滅多に見掛けなくなっていたところだった。

 ダッカの縫製工場モダンアパレルで働くシム(リキター・ナンディニー・シム)は、火災の発生や残業代の未払いなど、仕事に不満を抱えていた。夫のソヘール(モスタファー・モーンワール)は無職で、シムが家賃を支払っていた。

 シムは、女性団体のナスィーマー(シャハーナー・ゴースワーミー)と出会い、労働組合結成の指南を受ける。彼女は仲間から署名を集め、労務省に申請書を提出する。だが、労働組合の認可がなかなか下りない。その内、仲間の一人レーシュマー(ディーパーンウィター・マーティン)が労働組合に関与していることがばれて解雇されてしまう。やっと働き始めたソヘールからも、仕事を辞めるように圧力が掛かる。

 追い詰められたシムは労務省に乗り込み、係官を脅迫して、強引に労働組合の認可を取る。

 バングラデシュの縫製産業の実態に迫る映画と聞くと、まずはドキュメンタリー映画の作りを想像するが、この「Made in Bangladesh」は、実話に基づいているものの、一人の主人公を立ててストーリーを追うフィクション映画になっている。

 映し出される工場の様子はおそらく現実とそう変わらないものだろう。狭い空間に足踏みミシンがビッシリと置かれ、女性たちが一斉にミシンを動かす。労働組合がないために雇用主による搾取が深刻であり、労働条件は劣悪で、賃金も安い。月給は日本円にして1万円以下の計算になる。彼女たちは1日に1650枚のシャツを作っているが、彼女たちの月給は、そのシャツの末端価格2~3枚分である。もちろん、労働者の安全は二の次で、火災や怪我などの事故も頻発している。また、バングラデシュに縫製を外注している外国企業は、さらなるコストカットを要求してくるのである。

 「Made in Bangladesh」でひとつ感心したのは、そのような劣悪な環境を改善しようと内部の人間が立ち上がる様子を描いたことだった。よく南アジアが舞台の映画は、虐げられた人々の救済を外国人が行うというプロットに行き着く。しかしながら、この映画はバングラデシュ人監督の作品ということもあって、救世主を外部に求めることはしなかった。労働者の一人シムが、女性の地位向上のために活動をするバングラデシュ人女性ナスィーマーの助けを借りて、自らの地位向上のために立ち上がったのである。具体的な解決策は、労働組合を作ることだった。

 ただ、雇用主は何とか労働組合を作らせないように躍起になる。労働組合結成に関わっていることが分かった労働者は容赦なく解雇され、いざ申請が行われると、官僚に圧力を掛けて認可が下りないように画策する。だが、シムは折れず、最終的にはかなりの力技で労働組合結成を成功させる。

 職場に労働組合ができたことでどのような変化が起こったのかまで描かれているとよかったが、映画はシムが労働組合の認可を受けたところでエンディングを迎える。どちらかといえば、世界に向けてバングラデシュの縫製産業の窮状を訴えるというよりは、今正にバングラデシュの縫製工場で搾取されている労働者たちに、労働組合を結成して権利を守る術を教えようとする実用的な映画に感じた。

 必ずしも暗いだけの映画ではなく、大家さんの娘の結婚式でシムが楽しそうに踊ったり、友人たちとのゴシップに花を咲かせたりと、女性らしい華やかな場面も散見された。また、シムは肝の据わった女性であり、理不尽な抑圧に対して頑強に抵抗するシーンもいくつかあった。シムというキャラクターを多面的に描き出すことに成功していたといえる。

 「Made in Bangladesh」は、バングラデシュの国家経済を支える縫製産業の実態を暴きながら、労働組合結成に動く女傑的な主人公を描出した、実話に基づく映画である。終わり方が唐突で、もう少しその後の展開を観てみたかった気もするが、全体としてリアリスティックな映像とストーリーに釘つけになる作品だ。バングラデシュの縫製工場で働く人々が一人でも多くこの映画を観ることができれば、社会に変化をもたらす原動力になるだろう。