インドの公道を走行する車両には、日本と同様にナンバープレートが付いている。映画の話にナンバープレートがなぜ関係しているのか不思議に思う読者がいるかもしれないが、ナンバープレートはインドの映画メーカーたちがこだわっている点であるし、映画のストーリーに絡む重要な情報源になることもあるため、無視できない。
ナンバープレートのコードの付け方は時代によって異なるが、近年では大体、英語のアルファベット2文字から始まる数桁の数字または英字になっている。
ナンバープレートの最初の英語アルファベット2字は、その車両が登録された州を示している。よって、走行している車両のナンバープレートを見れば、どの地域の物語なのかを予想することができる。インド映画においてナンバープレートが重視される最大の理由はこれである。
南インド映画界では、同じ映画を複数の言語で撮影するという凝った手法が採られることがあるが、その際にもナンバープレートの付け替えが行われるという。例えば、タミル語映画として撮影する際には、タミル・ナードゥ州を舞台にしているという建前になるため、カメラに写る車両全てにタミル・ナードゥ州のナンバープレートを付ける。次に同じシーンをテルグ語映画として撮影する際には、舞台はアーンドラ・プラデーシュ州やテランガーナ州になるはずで、車両のナンバープレートをアーンドラ・プラデーシュ州やテランガーナ州のものに付け替えるのである。そうしないと観客は変だと感じてしまう。
ナンバープレートの州コードは以下の通りである。各州や連邦直轄地の詳細については州と連邦直轄地を参照のこと。
記号 | 政体 | 所属 | 備考 |
---|---|---|---|
AN | 連邦直轄地 | アンダマン&ニコバル諸島 | |
AP | 州 | アーンドラ・プラデーシュ | |
AR | 州 | アルナーチャル・プラデーシュ | |
AS | 州 | アッサム | |
BH | 国 | バーラト(インド全国登録) | |
BR | 州 | ビハール | |
CH | 連邦直轄地 | チャンディーガル | |
CG | 州 | チャッティースガル | |
DD | 連邦直轄地 | ダードラー&ナガル・ハヴェーリーとダマン&ディーウ | |
DL | 連邦直轄地 | デリー | |
DN | 連邦直轄地 | ダードラー&ナガル・ハヴェーリー | 廃止 |
GA | 州 | ゴア | |
GJ | 州 | グジャラート | |
HR | 州 | ハリヤーナー | |
HP | 州 | ヒマーチャル・プラデーシュ | |
JK | 連邦直轄地 | ジャンムー&カシュミール | |
JH | 州 | ジャールカンド | |
KA | 州 | カルナータカ | |
KL | 州 | ケーララ | |
LA | 連邦直轄地 | ラダック | |
LD | 連邦直轄地 | ラクシャドゥイープ | |
MP | 州 | マディヤ・プラデーシュ | |
MH | 州 | マハーラーシュトラ | |
MN | 州 | マニプル | |
ML | 州 | メーガーラヤ | |
MZ | 州 | ミゾラム | |
NL | 州 | ナガランド | |
OD | 州 | オリシャー | |
OR | 州 | オリッサ | 廃止 |
PY | 連邦直轄地 | プドゥチェリー | |
PB | 州 | パンジャーブ | |
RJ | 州 | ラージャスターン | |
SK | 州 | スィッキム | |
TN | 州 | タミル・ナードゥ | |
TS | 州 | テランガーナ | |
TR | 州 | トリプラー | |
UP | 州 | ウッタル・プラデーシュ | |
UA | 州 | ウッタラーンチャル | 廃止 |
UK | 州 | ウッタラーカンド | |
WB | 州 | 西ベンガル |
インド映画を鑑賞する際、車両のナンバープレートは、どの地域、どの都市の物語なのかを示す重要な手掛かりになる。逆に、それを曖昧にしたい場合は、敢えてナンバープレートをはっきり映さないカメラワークが採られることがある。当然ながら、ひき逃げ事件などを扱う映画では、ナンバープレートは犯人特定の手掛かりになるため、物語の中で重要な役割を担うことがある。
ナンバープレートが映画の題名にまでなっているものといえば、「Taxi No. 9211」(2016年)が挙げられる。「MH01C9211」というナンバープレートのタクシーを運転する運転手が主人公の物語であった。