Pyaar Ke Side/Effects

4.0
Pyaar Ke Side/Effects
「Pyaar Ke Side/Effects」

 僕が注目している俳優の一人に、ラーフル・ボースがいる。「ミスター・ヒングリッシュ映画」の異名を持つ彼は、インド製英語映画をテリトリーとしていたのだが、最近ではヒンディー語映画にも出演している。とは言っても、彼の出る映画は普通のヒンディー語映画とは一味違うことが多く、いつも楽しみにしている。

 そのラーフル・ボースが、「Chameli」(2003年)でカリーナー・カプールと共演したときは、かなり異色の組み合わせだと思ったものだった。当時のカリーナー・カプールはコギャル系のキャラで売っていたので、ラーフル・ボースのシリアスなイメージと合わなかったのだ。だが、蓋を開けてみたら、カリーナー・カプールは見事な演技力を見せてラーフル・ボース映画の色に自身を合わせており、いい作品になっていた。

 カリーナー・カプールとの共演も異色だったのだが、さらに異色のヒロインと共にラーフル・ボースが帰って来た。映画の題名は「Pyaar Ke Side/Effects」。今回ラーフル・ボースが共演するのは、なんと、ヒンディー語映画界のセックスシンボルとして知られるハリヤーナーの家出娘、マッリカー・シェーラーワトである。これは一体どんな映画になるのか、全く想像が付かない。2006年9月15日公開。PVRアヌパム4でこの映画を観た。

 「Pyaar Ke Side/Effects」とは、「愛の副作用」という意味。監督はサーケート・チャウドリー、音楽はプリータム。キャストは、ラーフル・ボース、マッリカー・シェーラーワト、スチトラー・ピッライ、ランヴィール・シャウリー、サプナー・バーヴナーニー、タラーナー・ラージャー、アーミル・バシール、ソフィー・チャウダリー、ジャス・アローラーなど。

 ムンバイーでしがないDJ業を営むシド(ラーフル・ボース)は、デリーに出張して結婚式のDJを務めているときに、花嫁のトリシャー(マッリカー・シェーラーワト)と出会う。トリシャーは、若手実業家ヴィヴェーク・チャッダー(ジャス・アローラー)と結婚することになったが、彼を愛していないことに気付き、結婚式から逃げようとしていた。シドはトリシャーに、「愛は結婚してから探すものだよ」とアドバイスする。だが、結局トリシャーは逃げてしまう。

 それから3ヶ月後。ムンバイーに戻ったシドは、道端で偶然トリシャーと再会する。トリシャーは結婚式から逃げてしまってデリーに住みにくくなったので、ムンバイーに来ていたのだった。シドとトリシャーは何となく惹かれ合い、付き合うようになる。

 こうして3年の月日が過ぎ去った・・・。

 ある日、トリシャーはシドに結婚の話を切り出す。ところが、結婚のことなど考えていなかったシドは、はっきりした返事を返すことができなかった。トリシャーは怒ってしまう。困ったシドは、妹のシャーリニー(タラーナー・ラージャー)、その夫カピル(アーミル・バシール)、親友のナンヌー(ランヴィール・シャウリー)らと相談し、トリシャーともう一度話し合うことにする。シドはトリシャーと話している内に、結婚することになってしまう。

 ところが、トリシャーの父親は退役軍人で、非常に恐ろしい人間だった。シドはトリシャーと共に父親に会いにデリーを訪れるが、父親はシドのことが気に入らなかった。父親はトリシャーを無理矢理ヴィヴェークと引き合わせる。トリシャーの父親の侮辱に耐えられなかったシドは、暴言を吐いて去って行ってしまう。これが原因でシドとトリシャーは絶交となる。

 トリシャーと別れた後、シドはタニヤ(ソフィー・チョウダリー)というアイテムガールと出会い、彼女と付き合うようになる。だが、どうしてもトリシャーのことが忘れられなかった。一方、トリシャーもヴィヴェークと結婚することを決めた。シドは、トリシャーのことを完全に友達と認識するため、シド、タニヤ、トリシャー、ヴィヴェークの4人で食事をすることを提案する。トリシャーもそれを受け入れる。だが、その食事の場で、シドとトリシャーはますますお互いのことが忘れられなくなってしまう。タニヤもそれを見抜き、シドにトリシャーと結婚するように助言する。

 ヴィヴェークとトリシャーの結婚式の日。シドは結婚式場に忍び込んで、トリシャーにプロポーズする。トリシャーは取り乱すが、結局シドと逃げ出すことにした。父親が銃を持って必死の形相で追いかけて来る。ヴィヴェークも馬に乗って追いかけて来る。だが、2人は何とか逃げ切ったのであった。

 あらすじにすると特に目新しさのない映画に見えるが、この作品の見所は、そのありふれたストーリーをどのように見せるか、という部分にある。主人公シドが観客に語りかける形で、愛の副作用、婚約の副作用、失恋の副作用などが真面目に説明されており、爆笑を誘う。どちらかというと、男性の視点から、恋愛における女性の行動の不可解さを皮肉った内容になっている。よって、男の観客は「ふむふむ」と頷きながら映画を楽しむことができるだろう。よくできた映画だった。

 映画中で説明されていた副作用のいくつかを紹介しよう。例えば、愛の副作用のひとつは、「女は、インド対パーキスターンのクリケットマッチの最中に必ず話し掛けてくる」、恋愛における最大の副作用は「結婚」、婚約の副作用は、「婚約した途端に魅力的な女性が話し掛けて来るようになる」、失恋の副作用は、「急に別れた彼女の誕生日が思い浮かんで来る」などなど。また、男と女が議論をしても、絶対に男は勝てないことも皮肉たっぷりに描かれていた。なぜなら、男がいろんな理論を並べて地道にポイントを1点、2点と稼いでも、女のポイントは、涙を見せさえすれば、99点まで跳ね上がってしまうからだ。このように、男と女の戦いが、主に男の視点から描かれている映画であった。

 シドの他に2人の脇役も映画の主題を補強していた。妹婿のカピルは、既婚男性の悲劇の象徴として、親友のナンヌーは、どうしても結婚できない男の典型として描かれていた。総じて、この映画は「男の弱さ」と「女の強さ」が強調される構造となっていた。無敵のヒーローと、いたいけなヒロインが登場する通常のヒンディー語映画とは180度違う趣の作品である。最近、都市部の中産階級をターゲットとした映画は、こういう男女の立場が逆転したストーリーが多いような気がする。これらの映画を観ると、いくらインドで作られた映画と言えど、その主題は日本で主流の映画やドラマとあまり変わらないと感じるだろう。

 ラーフル・ボースはここのところ、「都会育ちの弱い男」の代表みたいな男優になってしまっているように思える。「Mr. and Mrs. Iyer」(2002年)の頃のラーフルは物静かで知的な男性というイメージだったのだが、「Mumbai Matinee」(2003年)辺りから弱々しいイメージが先行するようになった。なんかいつもおどおどしていて物をはっきり主張できない男、という役が多い。それでもいい俳優であることには変わりない。たまには全く別の雰囲気の役も演じてもらいたい。

 マッリカー・シェーラーワトは、本作品の最大のサプライズであろう。今までセックスシンボルとしか見られていなかった彼女が、初めてそのセクシーボディーを封印し、演技力で勝負に出て来た。まだ自信に欠ける部分があったように見えるが、努力が垣間見れてよかった。

 脇役陣の中ではランヴィール・シャウリーが一番印象に残った。ランヴィールはチャンネル[V]でヴィデオジョッキーを務めて人気を博した人物で、最近インドのメディアや映画によく登場する人物である。今年のFIFAワールドカップの試合はインドでも放送されたのだが、試合と試合の間の幕間のような番組「Duniya Goal Hai」にも出演し、サッカーをネタにTVの前の視聴者を笑わせていた。新しいタイプのコメディアンという感じだ。

 音楽はプリータム。主人公のシドはDJという設定もあり、音楽はかなりダンスミュージックを意識していた。欧米の音楽とインドの音楽がうまくミックスされている曲が多かった。

 ヒンディー語映画界では最近、ヒングリッシュ映画とメインストリーム映画の間の垣根が急速に低くなっており、どちらとも断定できない映画が増えて来た。この「Pyaar Ke Side/Effects」もそのひとつだ。一応ヒンディー語映画のカテゴリーに入るのだろうが、セリフ中の英語セリフの多さ、都市中産階級向けのストーリー、欧米テイストの強い音楽などを見ると、ヒングリッシュ映画の特徴も兼ね揃えている。逆に、インド人俳優が無理に全てのセリフを英語でしゃべるような不自然な映画は減って来たように思える。映画は演劇と違ってダイアログをなるべく自然にするべきだと考えているので、これはいい傾向だと思っている。

 「Pyaar Ke Side/Effects」は、ラーフル・ボースとマッリカー・シェーラーワトという異色の組み合わせの映画であるが、この二人の調合は副作用をもたらさずにうまく作用し合ったと言える。ヒングリッシュ映画とメインストリーム映画の融合という観点からも観るべき価値のある映画だ。


https://www.youtube.com/watch?v=oJe89jU5fEE