ナクサライト

 インド亜大陸の森林被覆地図を見てみると、中部から東部にかけて、まるでサイクロンのように、巨大な森林地帯が存在するのが分かる。ジャールカンド州、マディヤ・プラデーシュ州、チャッティースガル州、オリシャー州、テランガーナ州、アーンドラ・プラデーシュ州などにまたがっている。台風の目のようにポッカリ空いている空白地帯はチャッティースガル平野であり、その中心部に州都ラーイプルが位置する。

 このインド中部に存在する巨大な森林地帯では、「ナクサライト(Naxalite)」と呼ばれる人々が反政府活動を行っている。ナクラサイトとは武力革命を目指す極左の武装勢力であり、「マオイスト(Maoist/毛沢東主義者)」とも呼ばれる。1960年代に西ベンガル州のナクサルバーリーという村で起こった小作人たちの蜂起に端を発しているため、「ナクサライト」と呼ばれている。また、彼らの主義主張は「ナクサリズム(Naxalism)」と呼ばれる。

 ナクサライトのリーダー層は元インド共産党員のインテリ左翼であるが、下っ端の構成員は森林地帯に先祖代々住んできた部族民である。彼らは一般に「アーディワースィー(先住民)」と呼ばれ、政治用語では「指定部族(Scheduled Tribes/ST)」と呼ばれる。多くの場合、学校教育を受けていないような無学な人々だ。

 なぜ彼らが政府に反旗を翻しているかといえば、政府や開発企業による森林の開発によって、先祖代々受け継いできた彼らの権利が浸食されつつあるからである。この森林地帯は地下資源の宝庫でもある。昔ながらの生活を送る部族民たちは、森林を開発しようとする政府や企業を外敵とみなし、自身の権利を守るために武器を取って戦っている。

 インド政府や各州政府もナクサライトに対しては強硬姿勢を崩しておらず、度々治安部隊を投入し鎮圧に乗り出している。当局によるナクサライト掃討作戦はメディアによって「オペレーション・グリーンハント(Operation Green Hunt)」と名付けられた。ナクサライトたちもゲリラ戦法によって治安部隊への襲撃を繰り返しており、双方に多数の死傷者が出ている。インド治安部隊側に最大の損害が出た事件として有名なのは、2010年4月6日のダンテーワーラー襲撃事件で、76名が死亡した。

 ナクサライト問題はヒンディー語映画の題材になってきた。「Red Alert」(2010年)、「Chakravyuh」(2012年)、「Bastar: The Naxal Story」(2024年)はナクサライト問題を直球で扱った映画であるし、「Raavan」(2010年)や「Newton」(2017年)などもナクサライト関連映画として挙げることができる。

Chakravyuh
「Chakravyuh」

 ただ、かつてはインドの広範な地域がナクサライトの影響下にあったのだが、最近は勢力が縮小しているようで、ナクサライトによる治安部隊への大規模な襲撃事件のニュースを聞く機会も減った。実際、「Joram」(2023年)は、ナクサライトがほぼ駆逐された後のジャールカンド州を舞台にした、元ナクサライトの逃亡劇だった。ナクサライトが下火になったことで、今後は映画の題材になることも少なくなるかもしれない。

Joram
「Joram」