今日はPVRプリヤーで、2006年4月28日公開の新作ヒンディー語映画「Darna Zaroori Hai」を観た。題名の意味は「恐怖は必要」。2003年に「Darna Mana Hai(恐怖は禁止)」という映画が公開されたが、どちらも「ヒンディー語映画界のクエンティン・タランティーノ」と呼ばれるラーム・ゴーパール・ヴァルマーがプロデュースしており、「Darna Zaroori Hai」は「Darna Mana Hai」の続編的映画である。
「Darna Mana Hai」は6つの小話がセットになったオムニバス形式の珍しいインド映画であった。また、それぞれの小話は、「世にも奇妙な物語」を彷彿とさせるストーリーであった。「Darna Zaroori Hai」も同じく6つの小話が盛り込まれたオムニバス形式の映画である。違う点は、「Darna Mana Hai」ではプラーワル・ラーマン監督が一人で6つの小話を監督したが、今回の「Darna Zaroori Hai」ではそれぞれの小話を違う監督がメガホンを取っている。よって、今回は映画評も変則的になる。
6話1セットと言っても、厳密に言えば7話あった。まず、マノージ・パーワー演じる男が、前作「Darna Mana Hai」を観に夜、墓場を通って映画館へ行く話が導入部となる。この小話はサージド・カーンが監督。この小話が終わると、ニシャー・コーターリーが踊るクレジット・ミュージカル「Aake Darr」が始まる。ミュージカルが終わってからが映画の本格的な開始で、5人の子供たちが古い屋敷に迷い込み、そこに住む老婆から怖い話を6つ(実際は5つ)聞くことになるいきさつまでがおどろおどろしく描かれる。映画の格となるこの部分の監督はマニーシュ・グプター。老婆が語る5つの小話の1つめは、家の中に「誰か」がいると恐れる大学教授の話。アミターブ・バッチャンとリテーシュ・デーシュムクが主演、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー自らがメガホンを取っている。2つめの小話は、真夜中自動車が故障し、電話を借りるために近くの家に入った男が、おかしな夫婦と出会う話。アルジュン・ラームパール、ビパーシャー・バス、マカランド・デーシュパーンデーイが主演、監督は「Darna Mana Hai」のプラワール・ラーマン。3つめの小話は、幸せな家庭にある日突然訪れた奇妙な生命保険セールスマンの話。スニール・シェッティー、ソーナーリー・クルカルニー、ラージパール・ヤーダヴが主演、監督はヴィヴェーク・シャー。4つめの小話は、ホラー映画のストーリーを考案中の映画監督と謎の美女の話。アニル・カプールとマッリカー・シェーラーワトが主演、監督はジジー・フィリップ。5つめの小話は、身に覚えのない殺人罪で警察に捕まった男の話。ランディープ・フッダー、ザーキル・フサイン、ラスィカー・ジョーシーが主演、監督はチャクラヴァルティー。ベテラン俳優から若手俳優まで、豪華なキャスティングである。
それぞれの小話はとても分かりやすく、ここでいちいちあらすじを解説する必要もないだろう。結論から先に言えば、「Darna Mana Hai」よりもパンチ力がなかった。「Darna Mana Hai」も大した映画ではなかったのだが、それよりもパワーダウンしてしまっていると言う他ない。しかも、残念なことにどの小話もあまり怖くなかった。
最も面白かったのは、老婆が語る5つの話ではなく、むしろ冒頭のマノージ・パーワーの小話であった。主人公は、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー製作のホラー映画「Darna Mana Hai」を観に夜中映画館へ行く。上映開始まで時間がなかったので、主人公は映画館までの近道である墓場を通っていこうとするが、母親は「今日は13日の金曜日で、しかも新月だから墓場を通ってはならない」と忠告する。だが、主人公は母親の忠告を無視して墓場を通ったばかりか、死者を侮辱するような行為をする。映画館にはほとんど観客がおらず、主人公は「Darna Mana Hai」の酷評をしながら映画を観る。見終わった後、主人公は墓場を通って帰ることになるが・・・。こんな感じのストーリーである。オチがとてもよかった。これは個人的な予想だが、このサージド・カーン監督の小話は、劇場予告編として撮影されたが、あまりに出来がよかったので本編に挿入されることになったのではなかろうか?
僕は前々から、ヒンディー語映画界はホラー映画とミュージカルの美しい融合を試行錯誤すべきだと主張してきたが、「Darna Zaroori Hai」はなかなかよかったのではないかと思う。前述の通り、ニシャー・コーターリーが踊る「Aake Darr」しかミュージカルシーンはないが、マノージ・パーワーの小話が終わると同時にスムーズにミュージカル兼クレジットのシーンへ以降し、おどろおどろしいエロさのある踊りが披露されていた。劇場予告編では、モーヒト・アフラーワトが踊る「Khabardar」というミュージカルもあったのだが、映画では使われていなかった。
オムニバス形式の映画で、それぞれの俳優の出番は限られていたが、どの俳優もいい演技をしていたと言えるだろう。見所と言えば、「ヒンディー語映画界のセックスシンボル」の座を争うビパーシャー・バスとマッリカー・シェーラーワトの競演であろうか?どちらの女優も暗闇に映える妖艶な魅力を持っており、ホラー映画にとても似合っている。若手ではリテーシュ・デーシュムクやランディープ・フッダーの好演が目立った。
「Darna Zaroori Hai」は見終わった後に特に何かが心に残るような映画ではないし、これを観たからといって酷暑期の猛暑を凌げるわけでもないが、言葉が分からなくても何も考えずに楽しむことのできる映画である。暇つぶしにちょうどいいのではなかろうか?