日本では警察の番号は110番だが、インドでは100番である。2021年8月6日からZee5で配信開始された「Dial 100」は、緊急通報管制室に勤務する警察官が主人公のスリラー映画だ。
監督は「Kurbaan」(2009年)のレンジル・デシルヴァ。主演はマノージ・バージペーイーとニーナー・グプター。他に、サークシー・タンワル、ナンドゥー・マーダヴ、アビジート・チャヴァン、ウルミラー・マハンター、スヴァル・カンブレー、アマン・ガンドートラーなどが出演している。
ムンバイー警察のニキル・スード警部補(マノージ・バージペーイー)は緊急通報管制室に勤務していた。妻のプレールナー(サークシー・タンワル)は、過去に麻薬密売容疑で捕まったことのある息子ドルヴ(スヴァル・カンブレー)の行く末を案じており、彼が夜遅くに出掛けたことをニキルに伝えてきた。 ニキル警部補は、一人の自殺しようとしている女性から電話を受け取る。その女性はニキルのことを知っていた。不審に思ったニキルは電話番号を追跡し、スィーマー・パーラヴ(ニーナー・グプター)という女性であることを突き止める。だが、スィーマーは突然ニキルの自宅を訪れ、プレールナーを拉致する。 スィーマーの息子アマンは1年前に交通事故で死んでいたが、アマンを轢いたのは富豪の息子ヤシュ(アマン・ガンドートラー)であった。そのときヤシュはコカインでハイになっていたが、彼にコカインを売ったのがドルヴだった。スィーマーは、ヤシュとドルヴに復讐するために今回の犯行を計画した。 また、スィーマーの夫チャンドラカーント(ナンドゥー・マーダヴ)は緊急通報管制室で働くチャーイ係だった。チャンドラカーントはニキルに銃を突き付け、動きを封じる。 正にドルヴはヤシュにコカインを届けようとしていた。スィーマーはプレールナーを人質に取り、ニキルを通じて、ドルヴにヤシュをターンダヴというディスコから誘い出すように命じる。一方、ニキルはチャンドラカーントに反撃し、彼を殺してしまう。そしてプレールナーとドルヴを助けるためにターンダヴに向かう。 スィーマーは、ヤシュ、ドルヴ、プレールナーを並べて銃を突き付けていた。そこへニキルが現れる。スィーマーはヤシュとドルヴを撃ち、ニキルはスィーマーを撃った。ヤシュは助かるが、ドルヴは死んでしまう。警視総監はニキルに事件をもみ消してヤシュの父親から慰謝料を受け取ることを勧めるが、ニキルは今回の事件をメディアに曝露しようとしていた。
警察官を主人公にしたヒンディー語映画は星の数ほどあるが、緊急通報のオペレーターをする警察官を主人公にした映画は珍しい。何かの映画で、不祥事を起こした警察官がオペレーター職に左遷されるシーンがあったのを覚えているが、警察官の仕事の中では刺激の少ない閑職という扱いであろう。だが、「Dial 100」では管制室のオペレーターたちは割と淡々と仕事をこなしていた。
ニキル警部補のところにとある謎の女性から電話が掛かってきたことで、物語が動き出す。その女性はニキルのことを知っていたばかりか、彼の息子ドルヴに恨みがあり、彼に復讐するために電話を掛けてきたのだった。ドルヴは、警察官の息子ながら、麻薬の密売に手を染めた過去があり、現在もそれから完全に足を洗っていなかった。
ニキル警部補に電話を掛けてきた女性スィーマーは、コカインを摂取して自動車を運転していた富豪の息子ヤシュに息子をひき殺されていた。しかも、金と権力を使って事件はもみ消されたことで、後に残されたスィーマーと夫のチャンドラカーントはヤシュと、ヤシュにコカインを撃ったドルヴに恨みを持つようになった。
物語は悲しい結末を迎える。元々死を覚悟していたチャンドラカーントとスィーマーは死に、ドルヴも殺されてしまう。ヤシュは撃たれるものの、一命を取り留める。
最愛の息子を失ったニキルの前には2つの選択肢があった。ひとつは事件をもみ消してヤシュの父親から慰謝料を受け取ること、もうひとつは巨悪に挑戦し事件を明るみに出すことである。スィーマーとチャンドラカーントが今回の犯行に及んだのも、息子の死に正義の裁きが伴わなかったことだった。映画の最後では、ニキルもスィーマーたちと同じ道を歩もうとする姿が映し出される。この終わり方からは、インド社会に蔓延する汚職への批判が感じられた。
ひとつひとつの演技をゆっくりと丁寧に描きだしており、マノージ・バージペーイー、ニーナー・グプター、サークシー・タンワルなどがここぞとばかりに絶妙な演技を見せていた。特に息子の死を知って泣き崩れるニキルとプレールナーを演じたマノージとサークシーが白眉であった。
「Dial 100」は、インドの110番である100番の緊急通報に対応する警察官が事件に巻き込まれるという筋書きのスリラー映画である。ベテラン俳優たちの演技が素晴らしいが、全体的にダークな味付けで、結末もかなり気が重くなる。決して悪い映画ではない。