「India in a Day」は、変わった手法で作られたドキュメンタリー映画である。インド全土から、2015年10月10日の一日で撮影された動画を募集し、それを編集して一本の作品にしたのである。同様のコンセプトで世界中から動画を集めて作られたドキュメンタリー映画「Life in a Day」(2011年)があり、それのインド版という位置づけで作られたようである。日本でも、東日本大震災からちょうど1年後の2012年3月11日に撮られた動画を集めて作られた「JAPAN IN A DAY ジャパン イン ア デイ」(2012年)があった。
「エイリアン」(1979年)や「ブレードランナー」(1982年)などで知られる米国の映画監督・プロデューサー、リドリー・スコットと、ヒンディー語映画界の風雲児アヌラーグ・カシヤプが製作総指揮を務めており、監督は「Amal」(2007年)や「Siddharth」(2013年)などのインド系カナダ人監督リチー・メヘター。また、ゾーヤー・アクタル、Rバールキー、シェーカル・カプールが創作顧問になっている。資金はクラウドファンディングによって集められ、Google Indiaも製作に関わっている。動画はYouTubeで視聴可能である。
2015年10月10日、インド中から16,000以上の動画が集まったようで、それらを素材にしてこの「India in a Day」は作られた。2016年6月14日にシェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭でプレミア上映され、同年9月9日にトロント国際映画祭でも上映された。インドでの劇場一般公開は2016年9月23日だった。
素人が投稿した映像のコラージュであり、一貫したストーリーはない。おそらく時間帯には注意が払われており、朝に撮られた映像から始まって、順に時間を進んで行き、最後には夜に撮られた映像になっていた。
2015年10月10日という日付に特別な意味を見出すことはできなかった。この年のダシャハラーは10月23日であり、まだナヴラートリも始まっていない。おそらく、数字的にキリはいいが、何の変哲もない一日ということで選ばれたのだろう。
ただ、「Siddharth」の主演ラージェーシュ・タイラングが投稿した動画が長めに使われており、その中で彼は、10月10日は自分の誕生日だと語っていた。そして、1年前に脳腫瘍の手術をした兄と一緒に誕生日を祝っていた。リッチー・メヘター監督とラージェーシュ・タイラングは親しい仲のはずで、ラージェーシュの誕生日に合わせてこの映画を企画した可能性も否定できない。
カットとカットのつなぎや、映像コラージュの一素材のような、一瞬だけしか使われていない映像も多かったのだが、いくつかは長めに使われ、ある程度のメッセージを発信していた。急激に変化するインドに対する様々な感情が発露されているものが多かったように感じる。一家団欒の様子など、ごくプライベートな映像もいくつかあったのは、プライバシーがあまり気にされないインドならではだと感じた。
撮影場所は本当に様々で、確認できただけでも、デリー、ムンバイー、ハイダラーバード、ハリヤーナー州、カルナータカ州、ウッタラーカンド州、アッサム州、グジャラート州、タミル・ナードゥ州、アンダマン&ニコバル諸島などが出て来た。
「India in a Day」は、市井の人々によってインド各地の生の姿が捉えられた貴重な映像集である。そこにストーリー性はほとんどないが、リアルな映像の数々には思わず見入ってしまう。企画の勝利だといえる。