2017年11月24日公開の「Kadvi Hawa(苦い風)」は、巨大なサイクロンに襲われるオリッサ州沿岸地帯と対比しながら、何年も干魃に見舞われるブンデールカンド地方の貧しい農民を舞台にした、気候変動を主題としたリアリズム映画である。
監督は「I Am Kalam」(2010年)や「Kaun Kitney Paani Mein」(2015年)のニーラ・マーダブ・パンダー。主演は、普段は変なお爺さんを演じることの多いサンジャイ・ミシュラー。道化役だけでなく、しっかりとした演技もできる一流の俳優である。他に、ランヴィール・シャウリーとティロッタマー・ショームという、これまた演技派俳優も助演している。
ウッタル・プラデーシュ州、マディヤ・プラデーシュ州、ラージャスターン州の境目にあるブンデールカンド地方では長年干魃が続いており、借金苦によって農民の自殺が続いていた。マフワー村に住む盲目の老人ヘードゥー(サンジャイ・ミシュラー)の息子ムクンドも借金を抱えていたが、ヘードゥーにその額を明かさなかった。そこでヘードゥーはラージャスターン州ドールプルの銀行へ行って借金の額を聞こうとするが、取り立て屋のグヌー(ランヴィール・シャウリー)は彼を追い払う。 その後、ヘードゥーはグヌーの借金取り立ての仕事を手伝うようになる。マフワー村の多くの人々が借金を抱えており、どこの家にいつまとまった金が入ったかという情報をグヌーに流す。そのおかげでグヌーは効率的に借金の取り立てができるようになった。ところがヘードゥーは、自分のせいで近所の家の結婚が中止となってしまったことを知り、罪悪感を感じるようになる。 そんな中、ムクンドが行方不明になってしまう。ムクンドの妻パールヴァティー(ティロッタマー・ショーム)は取り乱し、ヘードゥーは村中を探し回るが見つからなかった。また、ヘードゥーの家族が住む故郷には巨大なサイクロンが襲い掛かっていた。
気候変動により、ブンデールカンド地方では雨が降らなくなった一方で、オリッサ州には巨大なサイクロンが頻繁に襲来するようになった。そんな環境の中で貧しい人々がさらに困窮していく様子が描かれていた。
主人公のヘードゥーは盲人だが、耳や感覚に優れており、音だけで誰が来たのかを察知することができた。以前、彼は風が運んでくる匂いによって季節の訪れを知っていた。だが、最近は「風が病気になってしまった」と表現していた通り、風から季節を知ることはできなくなってしまった。マフワー村の子供たちも、季節の数を4つではなく2つ、夏と冬と答えるようになっていた。子供たちは雨季があることを知らなかったのである。
一方、村人たちから影で「ヤムドゥート(死の使い)」と呼ばれる取り立て屋のグヌーは、オリッサ州からわざわざブンデールカンド地方に赴任していた。この地域の借金取り立てでは2倍の仲介料がもらえるからだ。それほどこの地域の債務者は困窮しており、取り立てが難しかったのである。また、彼がそういう地域に自ら志願して赴任したのにも理由があった。彼はサイクロンの被災者で、家族は今でもオリッサ州のケーンドラパーラーに住んでいた。彼は家族を支えるために仲介料の高い地域で手っ取り早く金を稼ごうとしていたのである。
ブンデールカンド地方では水がなく、オリッサ州では水が多すぎた。置かれた状態は正反対だったが、気候変動の被害をもっとも受けている地域という点では共通していた。
通常ならば、借金苦に陥った農民から、残酷な取り立て屋がなけなしの金をむしり取っていくような構造になるところだが、「Kadvi Hawa」では、取り立て屋の方も気候変動の被害者に設定することで、気候変動が人間社会を崩壊させていく様子が浮き彫りにされていた。
終盤でヘードゥーの息子ムクンドが行方不明となり、発見されずに終わってしまう。自殺をしたのか、それとも殺されたのか、不明である。また、巨大サイクロンで被災したと思われるグヌーの家族の安否も分からないまま映画は終幕となる。
メインストリームの映画だけを観ていると、サンジャイ・ミシュラーは単なるファンキーなお爺さんだが、この「Kadvi Hawa」のような映画を観ると、彼が素晴らしい俳優であることが分かる。むしろ、メインストリームの映画メーカーたちの起用法の方が間違っていないかと思えるほどだ。ランヴィール・シャウリーもいい味を出していたし、出番は少なかったものの、ティロッタマー・ショームのいかにも村の女性といった佇まいも光っていた。
「Kadvi Hawa」は、サンジャイ・ミシュラーの類い稀な演技力と存在感を前面に押し出して、気候変動がどのように人間社会を破壊に導いていくかを映し出した作品である。実話に基づく物語とされているが、特定の実話ではなく、ブンデールカンド地方やオリッサ州で起こっている実話を集めてひとつの物語にしたと表現するのが適切であろう。批評家から高い評価を受けた映画であり、観て損はない。