インド映画史上最大のヒット作のひとつになった「Dhurandhar」(2025年/邦題:ドゥランダル作戦)と「Dhurandhar: The Revenge」(2026年)は、音楽監督シャーシュワト・サチデーヴの手掛けた音楽の良さでも話題になった。音楽面のみを総合的に評価するならば、懐メロのスタイリッシュなアレンジに特徴がある。過去の名曲のリミックスは2002年前後からトレンド化していて特に珍しくないのだが、従来のものはどちらかといえばノスタルジー方向に傾斜していた。だが、「Dhurandhar」ではむしろ懐メロをサンプリングの素材として、ラップなどと混ぜることによって、極限まで現代的に磨き上げることができていた。2025年にインドで「Dhurandhar」を観て以来、「Dhurandhar」シリーズのサントラをずっと聴き続けている。
「Dhurandhar」の挿入歌について語り出したらキリがないのだが、ひとつだけあまり注目していなかった曲があった。それは第1部の後半に流れる「Shararat」である。ハムザーとヤリーナーの結婚式を彩る、シリーズでもっとも豪華絢爛なダンスシーンであり、2人の女性が妖艶、かつパワフル、かつポップなダンスを踊る。ダンサーのアーイシャー・カーンとクリストル・デスーザはこのシーンのみの登場であり、いわゆるアイテムガールだ。踊りとしては魅力的かもしれないが、えてしてアイテムナンバーの歌詞はナンセンスであることが常で、歌詞にはそれほど注目していなかった。ちなみにこの歌詞はヒンディー語とパンジャービー語のハイブリッドである。
だが、第2部を観てからもう一度第1部を見直してみて、「Sharatat」は、その歌詞に映画の結末に関わる伏線を秘めた非常に重要な曲であると考えるようになった。この曲の真意を理解するためには、YouTubeなどでダンスシーンだけを抜き出して観ていてはダメで、踊りに移行する前のシーンから一続きの文脈として捉える必要がある。この曲の重要性をまとめてみたが、もちろん完全なネタバレになるし、このシリーズの一番面白い部分を無闇に台無しにしたくないので、「Dhurandhar: The Revenge」を観ていない人はこれ以上読み進めないでいただきたい。だが、第2部まで観た人ならば、思わず膝を打つ内容であることは請け合いである。
「Shararat」の直前のシーンとは、ハムザーがジャミール・ジャマーリーを自宅に呼び、彼の娘ヤリーナーとの結婚と引き換えに、彼と手を結ぼうとする場面だ。そこで、ハムザーとジャマーリーの間で以下のようなセリフのやり取りがある。

सलीक़े से बाप का फ़र्ज़ अदा किया होता, तो बेटी आज मेरे घर नहीं होती
Saleeqe Se Baap Ka Farz Ada Kiya Hota, Toh Beti Aaj Mere Ghar Nahin Hoti
ちゃんと父親の義務を果たしていれば、今頃娘はオレの家にいなかっただろうに

कल का आया लौंडा मुझे नसीहत देगा?
Kal Ka Aaya Launda Mujhe Naseehat Dega?
青二才のくせにワシに説教するつもりか?

19 की है वह, 30-32 का तो होगा
19 Ki Hai Voh, 30-32 Ka Toh Hoga
娘は19歳だ、お前は30-32歳くらいだろう

कुछ तो हया कर, माई शिब्या
Kuchh Toh Haya Kar, Maai Shibya
恥を知れ、この下衆野郎

एक छोटी बच्ची क्या फाँस ली, ख़ुद को फ़न्ने ख़ाँ समझने लगा?
Ek Chhoti Bachchi Kya Phaans Li, Khud Ko Fanney Khan Samajhne Laga?
小娘を一人口説き落としたら英雄気取りか?

जब तेरी अम्मी तेरी तशरीफ़ धोती थी न, तबसे ज़नाने के फ़र्ज़ अदा कर रहा हूँ मैं
Jab Teri Ammi Teri Tashreef Dhoti Thi Na, Tab Se Zamaane Ke Farz Ada Kar Raha Hoon Main
お前のお袋がお前の尻を洗っていたときからワシはこの仕事をしているんだ

और एक बात याद रखियो, इस पूरी लियारी में मेरा ख़ून बोलता है, बहन चोद
Aur Ek Baat Yaad Rakhiyo, Is Poori Lyari Mein Mera Khoon Bolta Hai, Behen Chod
もうひとついいか、このリヤーリー全体がワシの血筋で動いているんだ、畜生め

बाप को फ़र्ज़ सिखाएगा
Baap Ko Farz Sikhaayega
親父に説教しやがって

इस सियासती गद्दी गर्म रखने के लिए आपने कभी रहमान को हिमायती बनाया, कभी एस.पी. अस्लम को
Is Siyaasati Gaddi Garam Rakhne Ke Liye Aapne Kabhi Rehman Ko Himayati Banaya, Kabhi SP Aslam Ko
議席を守るためにあんたはレヘマーンを後ろ盾にしたこともあれば、アスラム警視を後ろ盾にしたこともあった。

आजकल अरशद पप्पू नाम का साँप गले में लपेटा हुआ है
Aajkal Arshad Naam Ka Saamp Gale Mein Lapeta Hua Hai
最近はアルシャドという名前の蛇を首に巻きつけている

आपने हमेशा ऐसे लोगों को शह दिए हैं जो कभी भी आपसे ज़्यादा ताक़तवर बनकर आपके हाथों से लियारी छीन सकते हैं
Aapne Hamesha Aise Logon Ko Sheh Diye Hain Jo Kabhi Bhi Aapse Zyaada Taaqatwar Bankar Aapke Haathon Se Lyari Chheen Sakte Hain
あんたが懇ろにしている奴らは、いつでもあんたより強大になってあんたからリヤーリーを奪い取る恐れがある奴らばかりだ

लियारी पर अपना दबदबा क़ायम रखना है, तो रहमान और अरशद की जगह ऐसे बंदे को खड़ा कर, जो आपका अपना हो, जो आपका वफ़ादार हो, जो आपके रिश्ते में हो, जो आपका सगा हो
Lyari Par Apna Dabdaba Qaayam Rakhna Hai, Toh Rehman Aur Arshad Ki Jagah Aise Bande Ko Khada Kar, Jo Aapka Apna Ho, Jo Aapka Wafaadaar Ho, Jo Aapke Rishte Mein Ho, Jo Aapka Saga Ho
リヤーリーでいつまでもでかい顔し続けたいんだろ、なら、レヘマーンやアルシャドの代わりに、あんたの身内で、あんたの血縁で、あんたに忠実な者を擁立しろ

सोचो जमील साहब, नसीहत में शोला है।
Socho Jameel Saahab, Naseehat Mein Shola Hai
考えてみろ、ジャミールさん、最高の説教だろ
ここでポイントとなるのは、ジャマーリーがインドのエージェントであることだ。これは「Dhurandhar: The Revenge」の最後で明かされる最大のサプライズである。2000年代にドゥランダル作戦が開始される前から現地に潜伏し、政治家として台頭して政界に影響力を獲得すると同時に、裏では諜報活動の現地監督役を担ってきた。諜報部(IB)からは「ハンドラー」と呼ばれていた。だが、彼は絶対に自身の正体を誰にも明かそうとしていなかった。あまりに重要な立場にいるため、ドゥランダル作戦によってパーキスターンに送り込まれたエージェントに対しても彼の正体は明かされていなかった。だから、ハムザーはジャマーリーがエージェントであることを知らされていなかった。同じくドゥランダル作戦開始以前からパーキスターンに潜入していたアーラムもおそらくジャマーリーの正体を知らなかったはずである。ただし、ジャマーリーはハムザーがエージェントであることを知っていたと考えられる。ジャマーリーがリヤーリーの病院で初めてハムザーと顔を合わせたときに見せた彼の意味深な表情にそれが示されている。「なるほど、こいつがドゥランダル作戦のエージェントの一人か」と確認したのである。もちろん、娘のヤリーナーも父親がインドのエージェントだとは全く知らなかった。
突然自宅に呼ばれ、ハムザーから「身内を擁立しろ」と提案されたジャマーリーは、その「身内」の意味をどう受け止めるべきか、一瞬迷うことになる。ジャマーリーがインドのエージェントとは知らないハムザーは、純粋に「娘との結婚を認めろ」という意味で「身内」という言葉を使ったのだが、ジャマーリーはそれを「インド人同胞」「インドのエージェント仲間」という意味と受け止めることもでき、自分の正体がハムザーに既にばれているのかと疑った。ハムザーはレヘマーンのギャングに取り込まれ寝返ってしまっている可能性もあった。たとえハムザーがインドのエージェントであるとしても、この時点で彼に自分の正体を明かすような反応をすることはリスクがあった。アーラムも、ハムザーにやっと心を開いたのは出会いから1年後だったと考えられる。スパイとはそういうものだ。
また、このシーンでジャマーリーが当初強気で発していた発言はダブルミーニングで解釈できる。「親父に説教するな」という旨のことを言っているが、これは「ヤリーナーの父親」や「人生の先輩」という意味もあるが、実際には「先輩エージェントに指図するな」という意味にも取れる。「仕事をしている」というセリフも、一見すると政治家として「パーキスターン」、「カラーチー」、「リヤーリー」に奉仕していると言っているように感じられるが、実際には「ワシはお前よりずっと長く母国インドのために働いている」ということを婉曲的に主張していると受け止められる。
最終的にジャマーリーが採った行動は、何も言わずにハムザーの提案を受け入れるというものだった。ハムザーが口にくわえたタバコに自身が所有しているライターで火を付けることで、恭順の意を示した。もしハムザーが自分の正体を知っているならば、それはカラーチーに潜伏するインドのエージェント同士が手を結ぶということになる。だが、もしハムザーがまだそれに気付いていないのならば、これは単なる縁談であり、打倒レヘマーンのための密約ということになる。短期的に見れば、どちらにしても行き着く結果は同じである。ジャマーリーには、議席を守り影響力を維持するために、政界に進出したレヘマーンを消す必要があった。それが実現さえすれば、現時点ではハムザーの真意を確かめなくてもよい。だが、ジャマーリーはこれ以降、ハムザーが自分の正体を知っているかもしれないという前提で行動をすることになる。
そこでおもむろに「Shararat」のマトラー(冒頭の詩節)が流れ、ハムザーとヤリーナーの結婚式シーンに移行する。表面的には「Sharafat」の歌詞はハムザーとヤリーナーの恋愛や結婚を歌っているように見えるが、実はこれはジャマーリーの胸中を表現していると深読みしていい。
マトラーは以下の通りである。
तूने पर्दा उठाया क्या बात हो गई
हाय यह मुलाक़ात वारदात हो गईTune Parda Uthaaya Kya Baat Ho Gai
Hay Yeh Mulaaqaat Waardaat Ho Gai
最初の一行を直訳すると、「あなたはヴェールを上げた、何てことが起こったのでしょう」という意味になる。結婚式では花嫁がヴェールを上げて顔見せをする習慣があるので、「ヴェールを上げる」というフレーズは結婚式と相性がいい。ただ、直前のシーンと重ねてこの歌詞を解釈すると、「正体を明かした」と受け止められる。ハムザーがジャマーリーに「自分はあんたと同じインドのエージェントだ」と明かしたと受け止められる行動を取ったことから、この歌詞になっていると考えられる。
次の一行を直訳すると、「ああ、この出会いは事件になった」になる。表面的には、ハムザーとヤリーナーの恋愛が結婚につながったことを大袈裟に表現していると受け止められる。だが、この理解は浅い。カラーチーに潜伏し、お互いに接触を避けてきたインドのエージェント2人が顔を合わせ、手を結んだことを「事件(Waardaat)」と呼んでいるのである。
ここまで理解すると、「Shararat」の歌詞は全く違ったものに見えてくる。たとえば以下のような一節がある。
तुम भी हो तनहा और हम अकेले
जो साथ हुए लाजवाब हो गएTum Bhi Ho Tanha Aur Ham Akele
Jo Saath Huye Lajawaab Ho Gaye君も一人、私も一人
一緒になったらすごいことになった
これは、ハムザーとヤリーナーが「お互い孤独だね」と慰め合っていると解釈すると違和感がある。なぜなら、ハムザーはまだしも、ヤリーナーには立派な家族があるからである。やはりこれもハムザーとジャマーリーのことだ。インドのエージェントとしてパーキスターンに送り込まれたジャマーリーが、同じ立場のハムザーに対して、「今までお互い孤独に任務を遂行してきたけど、これから一緒に仕事をすれば、すごいことができるね」と言っているのだ。
この曲の題名「Sharafat」は「悪戯」という意味である。パーキスターンに潜入したエージェントは、ひたすら「Nazar(監視)」と「Sabr(忍耐)」を課せられてきた。だが、次の段階に移ったことを示すキーワードが「Sharafat」だといえる。つまり、実効性のある反撃だ。それを踏まえた上で、この曲のサビである以下のパンジャービー語の一節を見てみよう。
ਤੈਨੂੰ ਸ਼ਰਾਰਤ ਸਿਖਾਵਾਂ
ਜਦੋਂ ਨੈਣਾਂ ਲੜਾਵਾਂTainu Sharaarat Sikhaawan
Jadon Nainaan Ladaawan君に悪戯を教えてあげよう
目と目が合ったときに
ハムザーがヤリーナーに何らかの悪戯を教えているシーンはない。この曲をハムザーとヤリーナーの恋愛歌だと捉えている限り、これは単なるアイテムナンバーのナンセンスな歌詞だと感じるだろう。だが、これをジャマーリーの立場から解釈し直してみると、「Dhurandhar」シリーズにとって非常に重要な歌になっていることが分かる。
「Dhurandhar」シリーズは元々1本の映画として企画されていたとされるが、奇しくも2部構成にしたことによって、「Shararat」が例外的な力を持つことになった。第1部を観ているだけでは「Shararat」は単なるアイテムナンバーにしか思えないが、第2部を観た後にもう一度第1部を見返すことで、「Shararat」前後のシーンが異なる輝きを放つ。この「2度観ると2度おいしい」効果は、当初から計画されたものではないだろうが、このような偶然は名作にありがちなもので、「Dhurandhar」シリーズの完成度を「奇跡的」といえるほど高いレベルに引き上げている。
やはり「Dhurandhar」は名作である。
全歌詞と対訳
作曲:シャーシュワト・サチデーヴ 作詞:ジャスミン・サンドラス
- 歌詞はヒンディー語とパンジャービー語のハイブリッドだが、歌詞はパンジャービー語の部分も含めて全てデーヴァナーガリー文字で表記した。
- 上記の本文とは若干訳を変えてある。
तूने पर्दा उठाया क्या बात हो गई
हाय यह मुलाक़ात वारदात हो गई
नैन मिलाए हमने एक दुजे से यूँ
रात हुई फिर दिन फिर से रात हो गई
あなたはヴェールを上げた 何てこと
ああ、この出会い、事件になった
お互いの目が合った
夜が来て昼が来てまた夜が来た
कच्ची कली सद्दा मासूम चेहरा
नीयत नूरानी सद्दा दिल है सुनेहरा
पर्दे दे पीछे की है किसनु पता
इक अफ़ीमी मैं चस्का चखावाँ
私の無垢な顔は蕾のよう
私の心は純粋、黄金色
ヴェールの下に何があるか誰も知らない
この陶酔を味合わせてあげましょう
तैनु शरारत सिखावाँ
जदों नैना लड़ावाँ
あなたに悪戯を教えてあげましょう
目と目が合ったそのときに
नैना च मेरे एक नीला समुंदर
समुंदर में डुबकी लवावाँ
私の目の中には青い海がある
海の中に潜らせてあげましょう
तैनु शरारत सिखावाँ
जदों नैना लड़ावाँ
あなたに悪戯を教えてあげましょう
目と目が合ったそのときに
तुम भी हो तनहा और हम अकेले
जो साथ हुए लाजवाब हो गए
तुम भी हसीन और हम आशिक़ी हैं
जो रात हुई बेनक़ाब हो गए
あなたも孤独、私も一人
一緒になってすごいことになった
あなたも美しく、私も愛おしい
夜になると全てが露わになる
मेरे लबों पे सजी सुर्ख़ियाँ
गुलाबी यह शरबत पिलावाँ
私の唇は赤く染まっている
このバラ色の飲料を飲ませましょう
तैनु शरारत सिखावाँ
जदों नैना लड़ावाँ
あなたに悪戯を教えてあげましょう
目と目が合ったそのときに
नैना च मेरे एक नीला समुंदर
नैना च मेरे रंगीला समुंदर
समुंदर में डुबकी लवावाँ
私の目の中には青い海がある
私の目の中には鮮やかな海がある
海の中に潜らせてあげましょう
तैनु शरारत सिखावाँ
जदों नैना लड़ावाँ
あなたに悪戯を教えてあげましょう
目と目が合ったそのときに
