フランスのカンヌで毎年5月に開催されるカンヌ映画祭(Festival de Cannes/Cannes Film Festival)についての雑学を、主にインド映画の視点からまとめてみた。
- 日本語では「Cannes」は一般的に「カンヌ」と表記されているが、フランス語の発音では英語の「Can」に近く、あえてカタカナ表記すれば「ケェン」になる。
- 日本語では「カンヌ国際映画祭」と書かれることが多いが、実際には映画祭の名称に「国際」を意味する単語はなく、「カンヌ映画祭」の方が原語に近い。ちなみに2003年までは単に「国際映画祭(Festival international du film/International Film Festival)」と呼ばれていた。
- カンヌ映画祭とは別に、カンヌ世界映画祭(World Film Festival in Cannes)という映画祭があるので注意が必要である。
- 他の映画祭と異なり、カンヌ映画祭には一般人は参加できない。参加できるのは、映画監督、プロデューサー、俳優、広報、配給業者、ジャーナリストなど、映画業界関係者のみである。入場資格のある者にはバッジが配布され、そのバッジがなければ映画上映などに参加することはできない。
- カンヌ映画祭にはさまざまな部門があるが、審査員による審査のあるコンペティション部門などと、審査のない非コンペティション部門に大別される。
- コンペティション部門では、約20本の映画の中から「黄金の椰子」を意味する最高賞パルムドール(Palme d’Or)、グランプリ(Grand Prix)、審査員賞(Prix du Jury)が選ばれる。インド映画でこれまでこれらの栄冠に輝いたのは以下の通りである。
- パルムドール:「Neecha Nagar」(1946年)
- グランプリ:「All We Imagine As Light」(2024年/邦題:私たちが光と想うすべて)
- 審査員賞:「Kharij」(1982年)
- パルムドール、グランプリ、審査員賞の他に、監督賞、男優賞、女優賞、脚本賞がある。また、年によって特別賞が用意されることがある。インド映画でこれまで特別賞に輝いたのは以下の作品である。
- 国際賞(International Prize):「Do Bigha Zamin」(1953年)
- 最優秀ヒューマン・ドキュメント賞(Best Human Document):「Pather Panchali」(1955年/邦題:大地のうた)
- パルムドールなどが決められるコンペティション部門とは別に「ある視点(Un Certain Regard/A Certain Glance)」部門があり、別の審査員団によって別の作品群の中から受賞作品が選ばれる。特に若い才能を奨励するために設置された部門である。最高賞にあたる「ある視点」賞の他、希望賞、審査員賞、男優賞、女優賞、監督賞、脚本賞などがある。インド映画でこれまで「ある視点」部門で栄冠に輝いた作品は以下の通りである。
- 希望賞(Prix Avenir Prometteur):「Masaan」(2015年)
- 女優賞:アナスヤー・セーングプター「The Shameless」(2024年)
- 映画学校に通う学生が撮った、上映時間60分未満の短編映画が上映されるシネフォンダシオン(Cinéfondation)部門があり、優秀作品に独立した賞が設けられている。それはラ・シネフ(La Cinef)と呼ばれる。一等賞に15,000ユーロ、二等賞に11,000ユーロ、三等賞に7,500ユーロの賞金も用意されている。インド映画テレビ学校(FTII)のチダーナンダ・S・ナーイクが監督したカンナダ語映画「Sunflowers Were the First Ones to Know…」(2024年)が一等賞を受賞している。
- ドキュメンタリー映画にはルイユドール(L’Oeil d’Or)または「黄金の眼」賞が用意されている。シャウナク・セーン監督の「All That Breathes」(2022年)とパーヤル・カパーリヤー監督の「A Night of Knowing Nothing」(2021年/邦題:何も知らない夜)がルイユドールを受賞している。
- カンヌ映画祭で上映されたあらゆる新人監督の長編映画(上映時間60分以上)からカメラドール(Camera d’Or)が選ばれる。その選出に当たるのはコンペティション部門や「ある視点」部門とは別の審査員団である。ミーラー・ナーイル監督の「Salaam Bombay」(1988年)がカメラドールを受賞している。
- 上記は審査員団による審査のある公式な部門または賞になるが、カンヌ映画祭にはそれら以外に審査のない部門も複数ある。たとえば、「特別上映(Special Screenings)」、「深夜上映(Midnight Screenings)」、「トリビュート(Tributes)」である。また、「カンヌ・クラシックス(Cannes Classics)」では復元された昔の映画が上映され、「カンヌ・プレミア(Cannes Premieres)」ではコンペティション部門でのノミネートから漏れた作品が上映される。
- その他、公式部門とは別のパラレル部門(Parallel Section)もある。パラレル部門のひとつ「監督週間(Directors’ Fortnight」では、長編から短編まで、実写からアニメーションまで、あらゆる種類の映画の上映が認められている。唯一の条件となっているのは、映画監督がその場にいることである。上映後、監督によるQ&Aセッションが設けられるのが通例である。これまで「監督週間」にてアヌラーグ・カシヤプ監督の「Gangs of Wasseypur」(Part 1・Part 2/2012年)やラーディカー・アプテー主演の「Sister Midnight」が上映された。
- 同じくパラレル部門の「批評家週間(Critics’ Week)」では、独立系・アートハウス系映画の上映が行われる。これまで、ギーターンジャリ・ラーオ監督の「Printed Rainbow」(2006年)やリテーシュ・バトラー監督の「The Lunchbox」(2013年/邦題:めぐり逢わせのお弁当)などが上映された。後者はグランレイユドール(Grand Rail d’Or)を受賞した。
- 上記の上映とは別に、カンヌ映画祭と平行して映画市場(Marché du Film)が開催される。これは映画の上映権などが売買される商談の場である。時々、映画市場に出品されたことをもって「映画がカンヌに行った」などと表現されることがあるが、カンヌ映画祭での上映とは全く別である。映画市場で頒布される冊子「The Focus」は世界の映画産業を概観するのにとても参考になる資料であり、本ブログでも活用している。