The Royals

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The Royals
「The Royals」

 2025年5月9日からNetflixで配信開始されたウェブドラマ「The Royals」は、ラージャスターン州の架空の城下町モールプルを舞台にし、インドの王族と大手ホスピタリティー企業の女性CEOとの間のロマンスを描いた、いかにも女性受けを狙った作品である。

 プロデューサーは「Pyaar Ke Side/Effects」(2006年)などを送り出したプリーティシュ・ナンディー。彼がプロデュースしたインド版「セックス・アンド・ザ・シティ」、「Four More Shots Please!」(2019年/邦題:フォー・モア・ショット・プリーズ!)を王家に置き換えたような作品だ。ただし、プリーティシュは2025年1月に死去している。クリエーターとして名前がクレジットされているのが、彼の2人の娘、ランギター・プリーティシュ・ナンディーとイシター・プリーティシュ・ナンディーである。監督はプリヤンカー・ゴーシュとヌープル・アスターナー。プリヤンカーは「Broken But Beautiful」(2018年)などのウェブドラマを撮って来た監督であり、ヌープルは「Mujhse Fraaandship Karoge」(2011年)や「Bewakoofiyaan」(2014年)の監督である。

 主演は「Mere Husband Ki Biwi」(2025年)などのブーミ・ペードネーカルと「Dhadak」(2018年)などのイーシャーン・カッタル。劇中ではこの2人が恋愛関係になる。ブーミは1989年生まれ、イーシャーンは1995年生まれであり、6歳差だ。インド映画業界の感覚からいえば、イーシャーンのヒロインを務めるのにブーミは年を取り過ぎているように感じるが、ベッドシーンなどもある映画であり、おそらくイーシャーンと同世代の若手女優の中に出演してくれる女優が少なかったのではなかろうかと推測する。ブーミは「Thank You for Coming」(2023年)など、かなり際どい映画への出演実績がある。

 他に、サークシー・タンワル、ズィーナト・アマン、ヴィハーン・サマト、カーヴィヤー・トレーハーン、ウディト・アローラー、ノラ・ファテーヒー、ディノ・モレア、ミリンド・ソーマン、チャンキー・パーンデーイ、リサ・ミシュラー、スムキー・スレーシュ、ルーク・ケニー、アーディナート・コーターレー、アリー・カーン、シュエーター・サルヴェー、ジャグディーシュ・ラージプローヒトなどが出演している。特に2000年代に一定の人気があったモデル出身俳優、ディノとミリンドの起用が渋い。

 「The Royals」は日本語字幕付きで配信されており、邦題は「ザ・ロイヤルズ」となっている。シーズン1は全8エピソードである。

 ムンバイー在住のソフィア・カンマニ・シェーカル(ブーミ・ペードネーカル)は、大手ホスピタリティー企業ワークポテトの創業者であり、CEOだった。ソフィアは相棒クナール・メヘター(ウディト・アローラー)と共に会社を育て上げて、最近は受賞もしたが、取締役会のズビーン・ダールーワーラー(アーディナート・コーターレー)会長と対立していた。ソフィアは、王宮に泊まり王族と交流を深める「ロイヤルB&B」を立ち上げると宣言し、ズビーン会長から6ヶ月の猶予期間を得た。

 ソフィアは、ラージャスターン州モールプルの王族が所有する王宮モーティーバーグに注目する。モールプルのマハーラージャー、ユヴァナート・スィン(ミリンド・ソーマン)は半年前に死去し、王族は破産寸前だった。長男であり、王位継承者のアヴィラージ・スィン、通称フィジー(イーシャーン・カッタル)はモデルとして活躍しており、ニューヨークで生活するつもりで、モールプルの王位を継ぐ気などなかった。フィジーの母親で王妃のパドマジャー(サークシー・タンワル)は絵画や宝石の収集に熱心で、王家や王宮の運営に興味がなかった。フィジーの弟ディグヴィジャイ、通称ディギー(ヴィハーン・サマト)は兄に代わって王位に就きたいと願っていたが、それとは別に彼は料理が趣味で、シェフになることも密かに夢見ていた。ディギーの双子の妹ディヴィヤランジニー、通称ジニー(カーヴィヤー・トレーハーン)は何もしていなかった。他に、モーティーバーグにはアヴィラージの祖母バーギヤシュリー、通称マージー・サーヒバー(ズィーナト・アマン)が住んでいた。ユヴァナートの死後、遺言に従って遺産が分割されたが、現金は「モーリス」という謎の人物に渡ることになった。そのせいで彼らは金欠になっていた。

 ソフィアはモールプルを訪れ、王族の前でプレゼンをしようとするが、実は彼女はそれ以前にスリランカでフィジーと偶然会っており、ケンカまでしていた。それが不利に働くかと思われたが、ライバル企業ラーガニーズの提案がモールプル王家にとって受け入れ不可能なものだったため、ソフィアはプレゼンを勝ち抜くことができた。モールプル王家とワークポテトは契約を結ぶ。フィジーはニューヨーク行きを止め、モールプルに残ることを決める。

 ソフィアは、モーティーバーグがメンテナンス不足のため客を泊められる状態にないことに気付く。そこでソフィアはフィジーがポロ好きであることを使って、まずは宣伝のために王族とポロができるというイベントを打つ。フィジーは最初乗り気ではなかったが、ディギーが参戦したことでやる気を出し、イベントは何とか成功する。だが、メディアには「ロイヤルB&B」の名前が載らず、ズビーンはソフィアを責める。

 次にソフィアは王族と庶民が一緒に踊れる舞踏会を企画する。パドマジャー王妃はフィジーをドーンディー王家のアーイシャー姫(ノラ・ファテーヒー)と結婚させようと考えており、舞踏会に彼女を呼ぶ。ソフィアは、フィジーがアーイシャーを避けていることを知っていたので、彼女への招待を取り止めていたのだが、彼女が来てしまったことで、フィジーは機嫌を損ねてしまう。フィジーはソフィアを避けるようになる。

 ソフィアはアルスィープル王家のサラーウッディーン・カーン、通称サラダ(ディノ・モレア)に会いに行くが、そこでフィジーと再会する。フィジーはアーイシャーといちゃついていたが、ソフィアもサラダといちゃつき返す。フィジーは誤解していたことを知り、ソフィアに謝る。そのまま二人は抱き合い、お互いをむさぼり合う。二人は肉体関係になった。

 「ロイヤルB&B」のローンチ日が近づいていた。パドマジャー王妃はローンチより先にフィジーの戴冠式をすると言い出すが、ソフィアは戴冠式の費用をワークポテトが半分出資することを条件に、戴冠式と「ロイヤルB&B」のローンチを同時に行うことを提案する。全てがうまくいったかに見えたが、ズビーンは取締役会を使ってソフィアをCEOから辞職させていた。また、相棒のクナールともケンカし、彼はラーガニーズに引き抜かれてしまった。ソフィアの解雇を知ったフィジーはズビーンに対し、契約破棄を突き付ける。ズビーンはモールプル王家に対して訴訟を起こす。また、同時並行してモールプル王家とドーンディー王家の間にも亀裂が入っていた。フィジーはアーイシャーと絶交し、ドーンディー王家のナワーブ(アリー・カーン)もパドマジャー王妃と決別していた。さらに、フィジーは亡き父親からの手紙を見つけ、そこで父親がゲイだったことを知る。遺言にあった「モーリス」とは、父親の恋人の名前だった。

 フィジー、ディギー、ジニーはムンバイーへ行き、ソフィアを探す。だが、どこにも見つからなかった。フィジーは彼女がマドゥライにいることを知り、彼女に会いに行く。フィジーとソフィアは仲直りし、一緒にズビーンと対抗することを決める。ズビーンはモーティーバーグから王族を追い出して我が物にしようとするが、ソフィアは契約の条文を使って猶予期間を獲得し、違約金37億ルピーを集めるためにファッションショー兼オークションを催す。

 オークションでは22億ルピーしか集まらなかった。だが、モーリスが相続した遺産85億ルピーを返してくれたため、モーティーバーグの奪還に成功する。ソフィアとフィジーは改めて「ロイヤルB&B」を立ち上げようとするが、記者会見をしていたそのとき、フィジーがユヴァナートの嫡出子ではないという暴露がドーンディーのナワーブによってなされる。

 インド映画は基本的に家族向けの娯楽であるが、もしターゲットを絞るとしたら、それは通常、男性観客になる。そもそも映画メーカー側に男性が多いため、どうしても男性目線の物語になり、男性が共感しやすいストーリーや味付けになる。ただ、伝統的に男性職場だったインド映画業界にも、ここ20年ほどは女性の進出が進んでおり、女性の映画監督はもはや珍しくなくなっている。そんな中で、女性目線で作られた女性向けの映画というのも徐々に増え始めている。そして、そんな女性向け映画を観ると、男性として疎外感を感じることがある。おそらくそれは、女性観客が一般的なインド映画を観て感じる疎外感の裏返しなのだと思う。ウェブドラマなら尚更だ。昔から映画よりもドラマの方が女性を意識した作品作りを行ってきたからである。「The Royals」は、まさに男性視聴者が疎外感を感じるほど女性に特化したウェブドラマであった。

 ドラマでも映画でも、女性向けの作品を観て、男性としてもっとも強い違和感を感じるのは、登場する男性キャラに現実感がないことである。ハンサムで気が利いて、主人公の女性が落ち込んだときに優しく寄り添ってくれる。しかもそんな顔も心もイケメンな男性たちが主人公の周囲に複数配置されていて、代わる代わる彼女の話し相手になってくれる。「The Royals」に至っては、登場人物の多くが王族である。もう一人の主人公フィジーはモールプル王家の御曹司であるし、他にもアルスィープル王家のサラダなど、きやびやかな衣装を身にまとった王様や王子様が登場する。これほど女子の夢を具現化してくれる設定は他にない。

 また、主人公の女性も得てして非現実的に見えてしまう。「The Royals」の主人公ソフィアは、起業家かつCEOであり、典型的な自立した女性である。性にも積極的だ。だが、幼くして両親を亡くした過去などの影響で精神的に不安定な一面もあり、劇中では感情的になって、フィジーやクナールに対して当たり散らすシーンもいくつかあった。こんな直情的な女性が起業家として成功したのは不思議に思える。また、「The Royals」は王族と庶民を対比しているところが売りだが、ソフィアは決して庶民に見えない。確かに幼い頃は苦労したのかもしれないが、今や大企業のCEOであり、彼女を庶民と呼んだら本当の庶民が怒り出すだろう。

 女性向けの作品にありがちだが、人間関係にフォーカスされすぎていることも違和感を感じた。全8話の中でさまざまな出来事が起こるのだが、出来事は単なる背景に過ぎない。出来事を背景にして、男女が惚れたり腫れたりを繰り返すだけで時間が過ぎていく。そこにロジックは乏しく、登場人物の心は不可思議な動きをする。たとえば、ソフィアの機転によりフィジーの戴冠式と「ロイヤルB&B」のローンチが同時に行われることになった場面があった。だが、当の本人であるフィジーは王位を正式に継ぐのを嫌がっていた。パドマジャー王妃から説得を頼まれたソフィアは、フィジーからなぜその日にローンチしたいのかと問われ、涙目になりながら、その日は自分の両親の命日だと答える。すると、フィジーは一転して彼女のために戴冠式を執り行うことを決めるのである。女性からしたら優しい男性であるかもしれないが、フィジーのその心変わりに何のロジックもなく、あきれてしまった。一体、ソフィアの両親の命日が何だというのだろうか?その程度のことで変わってしまうようなどうでもいい感情だったら、最初から堂々と戴冠式に出席していればよかったではないか。ポロにしろ、アーイシャーとの仲にしろ、フィジーの感情に論理性は皆無だ。

 やたらとLGBTQの要素が入るのは、女性向けというよりも最近のトレンドかもしれない。フィジーの妹ジニーは、ソフィアの同僚ニキによってレズに目覚める。フィジーの死んだ父親ユヴァラージはゲイであり、母親とは仮面夫婦状態だった。そして結婚後もモーリスという恋人との関係を続けていた。このように、登場人物の人間関係に自然に同性愛が入り込んでくるが、それは「Four More Shots Please!」でもあったことなので、またか、という感想しか湧かなかった。

 薄っぺらいキャラばかりだったが、その中でも唯一光っていたのは、フィジーの弟ディギーだ。王族でありながら家族に内緒でシェフを目指すという変わり種である。彼は、名前よりも仕事によって人々から尊敬されることを求めており、料理の道で腕試しすることになる。残念ながらディギーのエピソードにはそれほど時間が割かれておらず、端折られていた部分もあった。彼の葛藤や野望を中心に描いた方がいい作品になったように感じる。ただ、シーズン2では彼の動向によりフォーカスされる可能性もある。

 王族の描き方がステレオタイプであることで、インドの王族から物言いも付いている。「The Royals」に登場する王族は皆、世間知らずで自分勝手でエキセントリックなキャラとして描かれていた。しっかり下調べをした上で作り上げられたキャラだとはとても思えない。おそらく空想上の王族をそのまま映像化してしまっただけであろう。第8話では、モールプル王家は先祖代々伝わる家宝をオークションして資金集めをしていたが、最初からそれができていれば「ロイヤルB&B」に頼る必要もなかった。それができなかったからここまで苦労してきたのだろう。また、お金がないくせに贅沢をやめておらず、その金はどこから出て来るのか不思議でならなかった。総じて、何が何だか分からないストーリーだった。

 「The Royals」の見どころはむしろロケーションにある。このウェブドラマに出て来る王宮は全て、ラージャスターン州各地に残る本物の建築物である。もっとも分かりやすいのはジャイプルのシティーパレスだ。ジャイプルを訪れたことのある人なら必ず立ち寄るだろう。モールプル王家が居住するモーティーバーグ王宮として使われていた。また、ジャイプルの街並みも時々使われていた。他には、ムンドーター・パレスやサーモード・パレスなどが使われていたが、もっとも印象的なのは丘の上にそびえ立つアーリヤー・フォートだ。ビシャンガルにあるこの荘厳な城塞は、サラダが住むアルスィープル王家の居城になっていた。

 「The Royals」は、過激な性描写で物議を醸した「Four More Shots Please!」のロイヤル版である。本物の王宮を使ってロケが行われており、背景からはセットではとても出せないオーラが放たれていた。だが、肝心のキャラ作りやストーリーは薄っぺらい。特に、フィジーを含め、男性キャラはフワフワしていて現実感皆無である。人間関係にフォーカスしすぎていて他のことがなおざりになっていたのも気になった。もしかしたら女性が観たら楽しめるのかもしれないが、万人向けでないことは確かである。