
デリー大学ヒンドゥー・カレッジのキャンパスには、「ヴァージン・ツリー」と呼ばれるベンガルボダイジュ(バニヤン/バンヤン)の樹がある。この樹には不思議な力があるとされており、毎年2月14日のバレンタインデーに樹の下でプージャー(祭礼)が行われるが、このプージャーに参加したものは、恋人ができ、ヴァージンを捨てることができるという。
2025年5月1日公開の「The Bhootnii(幽霊女)」は、ヴァージン・ツリーに取りついた幽霊を巡るホラーコメディー映画である。監督はスィッダーント・サチデーヴ。過去に「Aashiqui 2」(2013年/愛するがゆえに)などで助監督をしており、TVドラマやミュージックビデオなどを監督してきた人物である。長編映画の監督が今回が初となる。
キャストは、サンジャイ・ダット、モウニー・ロイ、サニー・スィン、パラク・ティワーリー、ニクンジ・ローティヤー、アースィフ・カーンなど。サンジャイ・ダットはプロデューサーも務めている。
デリー大学のセント・ヴィンセント・カレッジには「ヴァージン・ツリー」と呼ばれる樹があり、毎年2月14日のバレンタインデーにプージャーが行われていた。だが、プージャーの参加者が、ホーリー祭の前日に怪死する事件が相次いでいた。
失恋したシャーンタヌ(サニー・スィン)は酔っ払ってヴァージン・ツリーに「愛が欲しい」と泣き叫ぶ。その日から、シャーンタヌにはモハッバト(モウニー・ロイ)を名乗る幽霊が付きまとうようになる。シャーンタヌは、フィールドワークに行っていて休学していたアナンニャー(パラク・ティワーリー)と再会する。アナンニャーはシャーンタヌに片思いをしていた。だが、シャーンタヌをターゲットにしたモハッバトはアナンニャーを彼から遠ざけようとする。モハッバトはシャーンタヌに激しく求愛するようになる。
2025年もヴァージン・ツリーの下でプージャーが行われたが、一人の学生が自殺未遂をした。大学当局は事が大きくなるまでに何とかしようと、卒業生で心霊物理学者のバーバー(サンジャイ・ダット)を呼び寄せる。バーバーは、キャンパス内にヴァージン・ツリーとそっくりの別の枯れ木があるのを発見し、モハッバトはヴァージン・ツリーではなくその樹にとりついた幽霊であることを突き止める。モハッバトは何かやり残したことがあってこの世にとどまっていた。彼女を解放するためには、彼女の過去を知る必要があった。
ホーリー祭前日までにモハッバトの問題を解決しなければならなかった。だが、モハッバトの姿を見ることができるのはシャーンタヌに限られていた。シャーンタヌは彼女のスケッチを用意し、バーバーに見せる。バーバーは彼女の顔に見覚えがあった。モハッバトの本名はカリシュマーだった。
2003年、カリシュマーは恋人ラグにだまされ、プライベートな動画を撮影されて共有された。当時バーバーはまだ学生で、カリシュマーに片思いをしていた。カリシュマーはラグに殺され、裏ヴァージン・ツリーにつるされて燃やされた。その怨念から彼女は幽霊としてこの世にとどまっていたのだった。バーバーは彼女に真の愛を見せ、彼女を解放する。
近年、ヒンディー語映画界で非常に勢いのあるジャンル、ホラーコメディーの最新作だ。ホラーコメディーをドル箱ジャンルに育て上げた功労者は映画プロデューサーのディネーシュ・ヴィジャーンであるが、他にも多くのプレーヤーがこのジャンルに参入している。「The Bhootnii」は新規参入者によるホラーコメディー映画である。
ただ、過去に不幸な目に遭って死んだ女性の幽霊が災厄を引き起こすというプロットや、コメディータッチでホラーを料理する手法などは、ヴィジャーン製作の大ヒット作「Stree」(2018年)の影響をあまりに感じさせるものであり、二番煎じという批判は甘んじて受け入れなければならないだろう。また、サンジャイ・ダットが演じたバーバーは、いかに「心霊物理学者」という物々しい肩書きを与えたとしても、誰もが米映画「ゴーストバスターズ」(1984年)を思い出すことは必至である。ヒンディー語映画界では、「Bhoot Police」(2021年)や「Phone Bhoot」(2022年)といった「ゴーストバスターズ」的なホラーコメディー映画が過去に既に作られていることも忘れてはならない。
新規性の欠落に加えて、ストーリーが散らかっていて細かい部分やシーンとシーンのつながりがよく分からなかったのも痛かった。スィッダーント・サチデーヴ監督には映像作品製作の豊富な経験はあると思われるが、2時間の長編映画をまとめ上げるだけの手腕は今のところまだ備わっていないように見える。CGを使った派手めのホラー映画ではあったが、そのCGにもチープさがあふれていた。
サニー・スィン、モウニー・ロイ、パラク・ティワーリーなども精彩に欠けた。むしろ良かったのはサーヒル役を演じたニクンジ・ローティヤーやナースィル役を演じたアースィフ・カーンといった脇役陣である。ホラーシーンではなく、彼らが繰り出す一発ギャグの数々がこの映画の救いになっていた。
「The Bhootnii」は、近年ヒンディー語映画界で大流行しているホラーコメディー映画の最新作だ。コメディー部分には一定の評価ができるが、脚本のまずさ、CGの稚拙さ、そして主要キャストの二流演技などのおかげで、ホラー部分には何の力もない。無理して観る必要のない映画である。