You Can’t Give Any Reason

2.5
「You Can’t Give Any Reason」

 2025年3月7日に、インドTV映画学校(IITF)の公式YouTubeチャンネルが「Irrfan Unveiled: The Retro Collection」と称して、2020年に亡くなった俳優イルファーン・カーンの追悼映画特集を始めた。IITFの学生たちが撮った作品にイルファーン出演作があり、それをデジタルリマスターしてYouTubeで公開してくれているのである。

 「You Can’t Give Any Reason」はその内の1本であり、1992年に作られた31分ほどの作品だ。監督はリーナス・ルカ・カノス。マラヤーラム語映画界で1990年代に助監督として何本かの映画に関わった形跡があるが、無名の人物である。「You Can’t Give Any Reason」にはキリスト教のモチーフが出て来ており、マラヤーリー映画監督らしい雰囲気だが、言語は英語およびヒンディー語である。

 主演はイルファーン・カーンで、他にミーナークシー・シュクラー、SRトープカーネー、ウダイ・チャウハーン、スマイヤー・カーンがクレジットされているが、やはりあまり知らない俳優たちだ。

 作品は、いかにも映画好きな学生が撮ったような、難解で前衛的なものである。イルファーン・カーンが演じているのは、なぜか虐げられているキリスト教徒だ。おそらく不可触民出身のキリスト教徒ということだろう。他人から命令を受けないと行動できない主体性のない生き物として紹介されている。大学教授らしき人物によってほぼ裸の状態で教室に引き出され、教授の命令によって手を上げたり耳を触ったりする実験体にされる。

 イルファーンのキャラクターには美しい妻(ミーナークシー・シュクラー)がいた。映画の冒頭では妻と死に別れたのかと思うが、中盤から彼女が牢屋に閉じこめられている様子が映し出される。なぜ彼女が投獄されているのかは不明である。妻がバイオリンを弾く場面もあった。

 また、二人の間には1人の娘がいた。この娘は母親を恋い焦がれているようであった。だが、手術室で解体され、パーティーの食事として提供されるという残酷な場面が続く。

 これらの映像をつなげても、はっきりしたストーリーは浮かび上がってこない。ましてや映画が伝えたかったことは不明瞭だ。おそらく不可触民差別を批判する内容なのだが、断片的かつ芸術的な映像に逃げてしまっていて、メッセージ性もあやふやになっている。「You Can’t Give Any Reason」という題名がかろうじて監督の言いたいことを主張しているが、題名がなければ何が言いたいのか分からない作品は独りよがりに感じてしまう。

 イルファーン・カーンはほとんど口を開かない。無言のまま演技をする。1992年のイルファーンといえば、既にミーラー・ナーイル監督「Salaam Bombay!」(1988年)で映画デビューを果たし、TVドラマにもいくつか出演していたものの、まだまだ売れない俳優時代だったのではないかと思う。そんなときにFTIIの学生作品に出演したのだろう。

 「You Can’t Give Any Reason」は、FTIIの学生が作った短編映画であり、名優イルファーン・カーンの知られざる作品のひとつだ。映画監督はその後大した活躍をしておらず、いかにも映画学生が作りそうな「分かる人だけ分かればいい」的独りよがりな作品であるが、イルファーンの出演のおかげでこうして日の目を見たことはラッキーだったといえるだろう。


https://www.youtube.com/watch?v=qEvVFgGvE_4