Riwaj

3.0
Riwaj
「Riwaj」

 2025年3月7日からZee5で配信開始された「Riwaj」は、2017年に最高裁判所が出した「トリプル・タラーク」を禁止する判決とその経緯をドラマ化した映画である。「トリプル・タラーク」とはインドのイスラーム教徒男性に認められていた権利で、妻に対して3回「タラーク(離婚)」と伝えることで即座に離婚が成立するという風習である。インドでは宗教によって適用される民法が異なるが、この「トリプル・タラーク」の権利は、英領時代の制定されたムスリム個人法によって認められていた。題名「Riwaj」は「風習」という意味だが、特にこの「トリプル・タラーク」を指している。

 監督はマノージ・サティー。あまり知らない映画監督だ。キャストは、ミトゥン・チャクラボルティー、アーフターブ・シヴダーサーニー、マーイラー・サリーン、ジャヤー・プラダー、ザーキル・フサイン、アドヴィク・マハージャン、アニーター・ラージ、キヤー・カンナー、リヤー・ラーム、バビーター・アナントなどである。この中ではミトゥン、アーフターブ、ジャヤーの3人が各年代での往年のスターであり目を引くが、それ以外の俳優たちは無名である。

 下のあらすじの中には「ハラーラー」というイスラーム教専門用語が出て来る。あらかじめここで説明しておく。これはイスラーム教徒男性がいったん「トリプル・タラーク」によって離婚した元妻と再婚しようとしたときに必要になる手続きである。いったんタラークをすると、男性は元妻に触れることができなくなる。だが、もし元妻が他の男性と結婚し、離婚した場合、その禁忌から外れる。ハラーラーとは、元妻を別の男性と結婚させる行為である。

 2010年、デヘラードゥーンでシャブナム(キヤー・カンナー)という女性が川で入水自殺をした。それから1年後の2011年、大学生ザイナブ・シェーク(マーイラー・サリーン)は、叔母(バビーター・アナント)の強要により、ハニーフ(アーフターブ・シヴダーサーニー)と結婚し、ガーズィヤーバードに移住する。

 すぐにザイナブは妊娠し女児を生む。だが、義母ラズィヤー(アニーター・ラージ)は男児を求めた。2回目の妊娠で胎児が女児であることが分かると、ラズィヤーは彼女を睡眠薬で眠らせて堕胎させてしまう。3回目の妊娠でも胎児は女児であり、ザイナブは何とか生もうとするが、やはりラズィヤーの姦計に掛かって子どもを失ってしまう。とうとう耐えきれなくなったザイナブは実家に戻るが、ハニーフから離婚を告げる手紙が送られてきた。ザイナブは養育費を求めようとするが、一方的な離婚は法律によってイスラーム教徒男性に認められた権利であり、どうすることもできなかった。そこでザイナブはムスリム女性権利運動のリーダー(ジャヤー・プラダー)に相談する。彼女は、家庭内暴力を訴えることを提案する。警察から連絡を受けたハニーフは事態を丸く収めるため、ザイナブと再婚することを提案する。だが、そのためにはハラーラーをしなければならなかった。ザイナブはいったんそれを受け入れようとするが、ハニーフに別の女性がいることを知り、ハラーラーは罠だと気付く。実はハニーフはザイナブを適当な男性と結婚させ、離婚を引き延ばさせて、自身はドバイ在住の女性と結婚してドバイへ行こうとしていたのだった。

 ザイナブはタラークの禁止を訴える裁判を起こそうと決意するが、どの弁護士も引き受けてくれなかった。絶望して川に身を投げようとしたところ、ラムザーン・カーディル(ミトゥン・チャクラボルティー)に救われる。ラムザーンは引退した弁護士であり、数年前に入水自殺したシャブナムの父親であった。ザイナブの事情を聞いたラムザーンは彼女の弁護士を務めることを決める。

 ザイナブとその家族に対してはありとあらゆる妨害や脅迫があったが、ザイナブの主張に同調する人々も多く、デリーの最高裁判所で審理が行われることになった。ハニーフ、インド政府、そしてムスリム個人法委員会側に立った弁護士はヒダーヤト・カーン(ザーキル・フサイン)であった。ラムザーンは、聖典クルアーンではトリプル・タラークを認めていないこと、女性を尊敬するのが真のイスラーム教徒であることなどを根拠に論を展開し、タラークの禁止は宗教の自由を損なうとするヒダーヤトの主張を圧倒する。5人の裁判官は3-2でタラークの禁止を指示し、インドでトリプル・タラークは違法となった。

 映画としては稚拙な作りである。序盤は特に不安定だ。主人公ザイナブに言い寄ってくるアルバーズ(アドヴィク・マハージャン)という若者がいるが、彼の存在意義が全く分からなかった。まるで主役のように登場するのだが、結局彼はザイナブの親友と結婚し、その後登場しなくなる。あくまで主役はザイナブだ。ザイナブとアルバーズが恋に落ちたことを暗示するかのように一緒に踊るシーンもあったのだが、その出来もひどいものだった。このように、駄作臭をプンプン匂わせながら始まった映画であった。

 だが、登場人物の大半がイスラーム教徒である点が気になっていた。近年のヒンディー語映画では珍しい設定である。それが何かの伏線になっているのかと思っていたが、ストーリーが進むにつれて次第に主題が明らかになっていく。いったんはハラーラーが論点になるが、それも通過点に過ぎなかった。最終的に「Riwaj」はムスリム個人法とトリプル・タラークの問題に切り込んでいく。

 2017年に最高裁判所が出したトリプル・タラーク禁止の判決を呼び込んだのは、シャーヤラー・バーノーという女性であった。この映画はシャーヤラーの半生をモデルにした作品だ。映画のところどころに年が明示されていたが、これは実際の出来事を踏まえたものであろう。シャーヤラーが結婚したのが2011年であり、離婚を突き付けられたのが2015年であり、高等裁判所に訴えたのが2017年であった。

 弁護士ラムザーン役を演じたミトゥン・チャクラボルティーが登場してからは「Riwaj」はまるで別の映画になったかのように急に引き締まる。イスラーム教徒の間では、トリプル・タラークの禁止はイスラーム教に対する冒涜だとする世論が一般的だったが、ラムザーンは、トリプル・タラークを禁止することこそが本来のイスラーム教に戻ることだと主張する。また、ザイナブも、結婚のときは花婿にも花嫁にも結婚を認めるかどうかを3回確認されるのに、離婚のときは女性の意志が全く確認されないという矛盾を突いていた。

 トリプル・タラークの禁止は歴史的事実であり、その映画化については全く問題ない。ただ、モーディー政権が長期化する現在、インドでは宗教的マイノリティーであるイスラーム教徒の神経を逆なでするような政策が次々に採られており、ヒンディー語映画でもイスラーモフォビア(イスラーム教恐怖症)を拡散するような作品がいくつも作られつつある。そんな時代なので、この映画も同類なのではないかと感じられてしまう。現在、インド人民党(BJP)は統一民法(UCC)の制定を進めている。これは宗教関係なくインド国民全体に適用される民法である。従来、インドでは各宗教の習慣を尊重して宗教ごとに民法が定められ、結婚などの規則が規定されていた。それを統一しようとする動きは特にイスラーム教徒から警戒されている。トリプル・タラークが禁止されたことでその疑心暗鬼はさらに強まった。「Riwaj」はUCCを支持する内容だと受け止められる。

 「Riwaj」は、映画としては非常にアンバランスであり、限りなく失敗作に近い始まり方をしながらも、終盤に入るとミトゥン・チャクラボルティーのおかげでグッと引き締まるという構成になっている。だが、本当に注目しなければならないのは、この映画がハラーラーやトリプル・タラークといったイスラーム教徒の民法に関わる部分を攻めていることだ。裁判のシーンは実にエキサイティングである。イスラーム教に関心のある人は間違いなく楽しめる作品だ。