
2025年1月14日公開のテルグ語映画「Sankranthiki Vasthunam(サンクラーンティ祭に来ます)」は、米国大手企業CEOの誘拐事件を巡るアクションコメディー映画である。
監督はアニル・ラヴィプディ。音楽はビームス・セシロレオ。主演はテルグ語映画界のベテラン俳優ヴェンカテーシュ。ヒロインは「Daddy」(2017年)のアイシュワリヤー・ラージェーシュと「Upstarts」(2019年)のミーナークシー・チャウダリー。他に、Pサーイー・クマール、ナレーシュ、VTVガネーシュ、サルヴァダマン・D・バナルジー、ウペーンドラ・リマエー、シュリーニヴァース・アヴァサラーラなどが出演している。また、アニル・ラヴィプディ監督と音楽監督のビームス・セシロレロが特別出演している。
題名になっているサンクラーンティ祭とはマカル・サンクラーンティ祭のことで、元々冬至を祝う祭りであった。地球の歳差運動により冬至はずれていくため、本来なら日付は一定しない。クリスマスも元々は冬至を祝う祭りであった。現在、冬至は12月21日か22日になる。インドでは現在、マカル・サンクラーンティ祭は毎年1月14日に固定されて祝われている。グジャラート州では「ウッタラーヤン」、タミル・ナードゥ州では「ポンガル」と呼ばれるなど、地域によって呼称が異なるが、テルグ語圏では一般的にそのまま「サンクラーンティ」または「ペッダ・パンドゥガ」と呼ばれるようである。
米国の有名企業のCEOサティヤ・アーケッラ(シュリーニヴァース・アヴァサラーラ)が訪印し、まずはアーンドラ・プラデーシュ州に降り立った。ケーシャヴァ州首相(ナレーシュ)はアーケッラを歓待するが、出来の悪い兄TVガネーシュ党首(VTVガネーシュ)のミスで、チャッティースガル州のギャング、ビッジュー・パーンデーイに誘拐されてしまう。ビッジューは、刑務所に収監されている兄パパ・パーンデーイの釈放を要求した。ケーシャヴァ州首相は有能な警察官僚ミーナークシー警部(ミーナークシー・チャウダリー)を呼び助言を求める。ミーナークシー警部は、元警察官YDラージュー(ヴェンカテーシュ)を推挙する。ラージューは凄腕のエンカウンター・スペシャリストで、ミーナークシー警部の元恋人でもあった。だが、フェイク・エンカウンターを疑問視され6年前に退職していた。
ラージューはアーンドラ・プラデーシュ州ラージャマンドリー県で、妻バーギヤラクシュミー(アイシュワリヤー・ラージェーシュ)と4人の子供と共に平穏な日々を送っていた。ミーナークシー警部は彼を作戦に参加させようとするが、彼女が夫の元恋人だと知った嫉妬深いバーギヤラクシュミーが制止する。最終的にバーギヤラクシュミーもラージューに同行することになる。サンクラーンティ祭までにサティヤを連れ戻す必要があった。
パパの収監されている刑務所の看守ジョージ・アントニー(ウペーンドラ・リマエー)はエキセントリックな人物であり、パパの非合法的な釈放を認めようとしなかった。そのため、まずは刑務所からパパを連れ出す必要があった。ラージューは刑務所内で暴動を起こさせ、パパを負傷させる。そして治療のために搬送された病院で彼を誘拐する。知らせを受けたビッジューは喜ぶが、その直後、バーギヤラクシュミーは誤ってパパを崖から突き落として殺してしまう。ラージューは何とかパパがまだ生きているように見せかけ、サティヤとの交換にこぎ着けようとする。
だが、パーンデーイのライバルギャングであるナーヤク・ギャングがパパを襲撃し、ジョージもラージューをしつこく追う。ラージューはビッジューからサティヤを無事に受け取るが、ビッジューに嘘がばれ、彼らは殺されそうになる。だが、バーギヤラクシュミーとミーナークシー警部の間のケンカに嫌気が差したラージューは潜在力を発揮し、ビッジューのギャングを一網打尽にする。
ラージューはサティヤを連れてその場を去るが、そのままケーシャヴァ州首相のもとには行かなかった。彼は、州議会議員から嫌がらせを受けて学校を追い出された恩師を復職させることを条件に出す。ケーシャヴァ州首相はそれを受け入れる。その後、ミーナークシー警部が隣に引っ越してきたため、バーギヤラクシュミーとのケンカがまた始まってしまった。
雑多な印象を受ける映画であり、決して上手な作りではない。いろいろいいたいこともある。だが、ボディーブロー的なコミックシーンが波状攻撃的にしつこく繰り出されるため、だんだん笑いの防波堤にひびが入ってきて、途中からはついに崩壊し、「Sankranthiki Vasthunam」の世界に引き込まれ、最終的にはどんな小さなギャグにも笑わされてしまうようになる。かなり強引に笑いに持って行っているが、コメディー映画としてはひとつの成功の形だろうと思われる。
もっとも気になったのは、女性同士のいがみ合いを笑いにしていたことである。主人公ラージューと結婚したバーギヤラクシュミーと、ラージューの元恋人ミーナークシー警部が、たまたま出会い、しかも一緒に作戦を遂行することになる。この二人は、作戦中もラージューを巡って醜いケンカばかりしている。はっきりいって、作戦そっちのけである。しかも、ラージューは年のせいで全身に運動障害を抱えて、満足に身体を動かすこともできないときている。よって、アクションコメディー映画とはいってもアクションシーンに割かれた時間は意外に少なく、コメディーシーンに全力が注がれている。そして、その笑いの中心になっているのが、女性同士のキャットファイトなのである。女性蔑視の映画と揶揄されても仕方のない作りである。
また、バーギヤラクシュミーとミーナークシー警部の争点になっていたラージュー自身は、しばらくの間、その争いに耐えるが、最後の最後に怒りを爆発させ、言いたいことを言い放ちながら悪漢たちを次から次へと片づける。そこで彼が言っていたことを端的にまとめると、男性には結婚前に恋人の一人や二人いるということ、そして恋人を振ったなら、その男性が別の女性と結婚するのは普通であるということで、世の中の女性に対して男性側から正論がぶつけられている。ただ、男女を入れ替えてもこれは真であり、むしろ男性側の方が妻の昔の恋人に対して嫉妬心を燃やすものではないかと感じる。この辺りも男性視線に迎合しすぎているように感じた。
また、物語の最後には取って付けたように、ラージューの恩師の名誉回復が行われる。確かに伏線は張られていたものの、唐突すぎる印象を受けた。物語全体から抽出されるメッセージとも一致しない。違和感しか感じなかった。
ちなみに、誘拐されたサティヤ・アーケッラは、マイクロソフトのCEOサティヤ・ナーデッラがモデルになっているのは明らかだ。ナーデッラはハイダラーバード生まれである。
基本的にはテルグ語映画であったが、ヒンディー語のセリフも少なくなかった。基本的にパーンデーイやナーヤクといったギャングの連中がヒンディー語を話していた。
「Sankranthiki Vasthunam」は、決して丁寧に作られた映画ではないものの、コメディーシーンにパワーがあり、そのパワーで押し切って最後まで爆走してくれる。細かい突っ込み所は散見されるものの、気付いたときには何も考えずに笑いに身を委ねているような映画である。興行的にも成功しており、2025年上半期でもっともヒットしたテルグ語映画になった。女性が観て楽しめるかどうかは疑問だが、コメディー映画として一定のレベルにはある作品である。