Fateh

3.0
Fateh
「Fateh」

 2025年1月10日公開の「Fateh(勝利)」は、「Dabangg」(2010年/邦題:ダバング 大胆不敵)の悪役でおなじみの筋肉派男優ソーヌー・スードが初めて監督したアクション映画である。スード監督自身がプロデューサーでもあり、主演も務めている。

 ヒロインはジャクリーン・フェルナンデス。他に、ナスィールッディーン・シャー、ヴィジャイ・ラーズ、シヴ・ジョーティ・ラージプート、ディビエーンドゥ・バッターチャーリヤ、プラカーシュ・ベーラーワーディー、アーカーシュディープ・サビール、などが出演している。また、エンドロール曲「Hitman」の映像には、この曲を作曲し、歌も歌っているヨー・ヨー・ハニー・スィンが特別出演している。

 元凄腕諜報員で、現在はパンジャーブ州の地方都市モーガーで細々と酪農業を営んでいたファテー・スィン(ソーヌー・スード)は、隣に住む女性ニムラト・カウル(シヴ・ジョーティ・ラージプート)が行方不明になったことを知り、彼女を探すためにデリーを訪れる。ニムラトはラザー(ナスィールッディーン・シャー)とサティヤ・プラカーシュ(ヴィジャイ・ラーズ)が運営する大規模なサイバー犯罪組織の餌食になっていた。ファテーはデリーの廃映画館で違法なコールセンターを経営していたチャッダー(アーカーシュディープ・サビール)と手下たちを一瞬の内に殺すが、ニムラトは見つからなかった。

 チャッダーの殺人はすぐに警察やアンダーワールドに知れ渡る。監視カメラの映像からファテーが捜査線上に上がる。捜査を担当した警官ニシト・ビシュワース(ディビエーンドゥ・バッターチャーリヤ)はサティヤと内通しており、ファテーの情報を彼に流す。一方、ファテーはホワイトハッカーのクシー・シャルマー(ジャクリーン・フェルナンデス)と合流していた。ファテーはドバイへ飛び、元上司アイヤッパ(プラカーシュ・ベーラーワーディー)と会って、ラザーやサティヤの情報を得る。

 ファテーはまずサティヤの邸宅に侵入して彼に挑戦状を叩き付ける。だが、ラザーはインド人全員の銀行口座をハッキングして貯金を全て吸い取り始め、しかもディープフェイク動画を使ってファテーを犯人に仕立て上げる。ファテーは警察に追われる身となった。また、ニムラトの公開処刑が配信される。

 ファテーはまずサティヤを殺し、次にラザーの邸宅に突入する。ファテーは武装した傭兵たちによって守られていたが、ファテーは彼らを一人で皆殺しにし、ラザーに迫る。そして彼を殺す。

 全てが終わった後、ファテーはクシーをモーガーに誘う。だが、抱き合う二人に照準を合わせている者がいた。

 過去に無敵の強さを誇るエージェントでありながら、任務中の殉死を偽装して、パンジャーブ州の田舎町で細々と暮らしていたのが主人公ファテーである。平和な暮らしをしていた彼が再び修羅の道に入ったのは、隣家に暮らす女性ニムラトが行方不明になったことが原因であった。

 ニムラトは偽ローン・アプリの被害に遭っていた。そのアプリを使用すると簡単にローンを借りることができたが、利用者はそのアプリによって個人情報を全て吸い取られてしまい、犯罪組織の操り人形になってしまう。「Fateh」が取り上げていたのは悪質なアプリであるが、インドでは実際にローン・アプリが流行しており、安易な気持ちでローンを借りた利用者が高い利子によって借金漬けにされるケースが急増しているという。スマートフォンとアプリが日常の隅々にまで浸透したデジタル社会になっているインドにおいて、その便利さの裏にある怖さを指摘したストーリーだといえる。

 ただ、「Fateh」は基本的にアクション映画である。ソーヌー・スード演じるファテーが、ほとんど無傷のまま大量の敵を次々になぎ倒していく無双系アクションの連続である。「PUBG」など、いわゆる「バトルロイヤル」系ゲームの影響も受けた映像になっており、長回しと切れのいいアクションが組み合わされ、爽快感あふれるアクションを実現している。ただ、スプラッター系のアクションでもあり、血や暴力の表現は生々しい。よって人を選ぶ作品でもある。

 インドの映画スターたちはある程度売れてくると、イメージ戦略の一環でもあろうが、慈善活動に携わり始める。その中でもソーヌー・スードは群を抜いて積極的に慈善活動を行っているスターであり、その内容もかなり本気だ。もっとも有名なのは、新型コロナウイルスが猛威を振るっていた期間、彼が国内外で困窮した人々に差し伸べた支援である。ロックダウンによって故郷に帰れなくなった人々のために、彼は自腹でバス、列車、飛行機をチャーターして彼らの移動を手助けした。その寛大な支援は広く知れ渡り、彼は人々から「本物のヒーロー」と呼ばれるようになった。

 「Fateh」の中でも、経済的に困窮した人にファテーがそっと財政支援をするシーンが差し挟まれている。これは現実世界のソーヌー・スードを思い起こさせた。彼自身が製作、監督、主演をしている映画なので、多少我田引水という印象は受けるかもしれない。だが、彼は「Fateh」が公開初日に上げた興行収入を慈善団体に寄付すると宣言もしており、彼の慈善活動熱は本物だ。過激な暴力シーン満載のアクション映画と慈善活動が頭の中でいまいちスッキリとリンクしない点が気になるだけである。

 ソーヌー・スードは身長190cmあり、現在インド映画界でもっとも身長の高い男優である。ヒンディー語映画界の大御所アミターブ・バッチャンや、「Baahubali」シリーズ(2015年2017年)の主演プラバースよりも高い。「Dabangg」で悪役を演じた彼がサルマーン・カーンと対峙するシーンがあったが、体格差が如実になっていた。ただ、彼はスターキッド組ではなく、なかなか無敵のヒーローを演じさせてもらえなかったのだと思われる。彼がわざわざ監督したのが比較的シンプルなアクション映画だったのは意外だったが、おそらくこういう映画で一度主演を演じてみたかったのだろう。業界内で誰もチャンスをくれなかったので、自分でプロデュースし、自分で監督し、自分で主演したのがこの「Fateh」だといえる。

 基本的にはヒンディー語映画だが、パンジャーブ州のシーンではコテコテのパンジャービー語で会話が進む。

 「Fateh」は、インド映画界の最高身長と恵まれた体格を誇るソーヌー・スードが自ら製作し、自ら監督し、自ら主演したスプラッター系アクション映画である。とにかく彼の最強ぶりが強調され、スタイリッシュな映像と共に手に汗握るアクションシーンが続く。デジタル社会に生きる我々への警鐘も含まれていた。暴力シーンが苦手な人には向かないが、誠実に作られたアクション映画である。