Mirg

1.5
Mirg
「Mirg」

 2024年2月9日公開の「Mirg」は、ギャングの内部抗争を描いたクライムサスペンス映画である。題名の「Mirg」とはネコ科の動物「ヒョウ」のことらしいが、あまり聞かない単語である。一般的には「ヒョウ」はヒンディー語で「तेंदुआテーンドゥアー」という。

 監督は新人のタルン・シャルマー。キャストは、サティーシュ・カウシク、アヌープ・ソーニー、シュエーターブ・スィン、ラーガヴ・カッカル、ラージ・バッバル、スハーニー・ポープリーなど。サティーシュは2023年に死去したため、これは遺作のひとつになった。キャストの中ではラージ・バッバルがもっとも有名で、友情出演扱いであるが、出番も多く、通常の起用といっても遜色ない。

 ラヴィ(サティーシュ・カウシク)とアニル(シュエーターブ・スィン)はシャンキー(ラーガヴ・カッカル)の指示に従ってATMから現金を盗難した。だが、アニルがATMの警備員に顔を見られてしまったと知り、シャンキーはラヴィにアニル抹殺を命じる。ラヴィはアニルを酔わせてから殺そうとするが、相撃ちになって二人とも倒れてしまう。

 翌朝、先に目を覚ましたのはアニルだった。アニルはシャンキーに電話をする。シャンキーはアニルを呼び寄せるが、彼は金を持って来なかった。それにシャンキーはまた腹を立てる。次に目を覚ましたラヴィは、周囲にアニルがいなかったため、崖から落ちて死んだと勘違いする。ラヴィは弟分としてかわいがっていたアニルを死なせてしまったことを深く後悔し、途中でマシンガンを調達してシャンキーの邸宅に乱入する。その混乱の中でシャンキーは飼い犬の暴走による銃の暴発によって死んでしまう。

 それから数ヶ月後。ラヴィは殺されてしまった。ラヴィの仇を討つため、まずアニルはシャンキーのボス、ブルドーザー・バーイー(アヌープ・ソーニー)を殺す。だが、ブルドーザー・バーイーは亡霊となってアニルに付きまとうことになる。

 ブルドーザー・バーイーが死んだとの報を受けた政治家バーイーサーブ(ラージ・バッバル)は、刺客を調査させ、アニルであることが分かる。一方、アニルはバーイーサーブに近づき、彼を殺そうとするが、銃の引き金を引けなかった。バーイーサーブの命を受けた女性暗殺者4(スハーニー・ポープリー)は森林に潜伏していたアニルを捕らえるが、彼は隙を見て4を殺す。

 バーイーサーブは毎年恒例となっているクシュティーの大会を開いた。そこにアニルが現れ、バーイーサーブに挑戦する。アニルは公衆の面前でバーイーサーブを負かせる。バーイーサーブは、今まで保ってきた恐怖が失われ、時代が変わることを実感した。

 ラヴィ役を演じたサティーシュ・カウシクは2023年3月9日に心臓発作で急死した。この映画の撮影が終了したのは2023年3月とされている。もしかしたらサティーシュのパートの撮影を生前に完了できなかったのかもしれない。サティーシュは序盤のみ登場するのだが、それ以降、全く登場しなくなり、いつの間にかラヴィは殺されたことになっていた。しかも、序盤だけを見ると、元々彼が主役の映画だったように思われる。ラヴィが殺されたことになった後は、その弟分であるアニルが物語の中心になる。

 そのような不幸が原因ではないかと思うのだが、全体的にストーリーに一貫性や整合性が感じられなかった。もちろん、監督が未熟だったということもあるだろう。雰囲気は、パンカジ・トリパーティー監督の「Urf Professor」(2001年)や「Sankat City」(2009年)と非常に似ていた。途中で劇画風の静止画を入れるなど、スタイリッシュな演出にも挑戦していたが、いかんせん、ストーリーそのもののグリップ力が低いため、それらの工夫もかえってチグハグな印象を与える原因になっていた。

 登場人物の中で唯一ユニークに感じたのは、女性暗殺者4である。なぜ数字が名前になっているのか分からないが、おそらくコードネームであろう。見た目は単なる女学生なのだが、戦うとめっぽう強い。まるで「Kahaani」(2012年/邦題:女神は二度微笑む)に登場した保険屋兼暗殺者ボブ・ビシュワースのようだ。

 アニルが、自分で殺したはずのマフィア、ブルドーザー・バーイーの亡霊を見るようになり、いつしか語り相手となるという設定も面白かったが、より発展できたとも感じた。シャンキーが飼い犬の暴走と銃の暴発によって死ぬシーンも、もっと見せ場にできただろう。見せたい画をスクリーン上に再現することに何度も失敗している映画だと感じた。こうなってくると、監督の未熟さがこの映画の失敗の大きな要因だと断言したくなる。

 「Mirg」は、名優サティーシュ・カウシクの遺作の一本であるが、監督が新人でまだ映画作りのコツが分かっていないことと、サティーシュの突然の死によっておそらく大幅な変更を余儀なくされたであろうことなどから、完成度の低い映画にとどまっている。観る価値はほとんどない。