Malaikottai Vaaliban (Malayalam)

4.5
Malaikottai Vaaliban
「Malaikottai Vaaliban」

 2024年1月25日公開のマラヤーラム語映画「Malaikottai Vaaliban」は、世界中で大ヒットした「Baahubali」シリーズ(2015年2017年/邦題:バーフバリ 伝説誕生・王の誕生)に匹敵するエピック・アクション映画である。題名は主人公の名前だが、直訳すると「山城の巨獣」になる。

 監督は「Jallikattu」(2019年/邦題:ジャッリカットゥ 牛の怒り)のリジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ。音楽はプラシャーント・ピッライ。主演はマラヤーラム語映画界のスーパースター、モーハンラール。他に、ソーナーリー・クルカルニー、ハリーシュ・ペーラディ、ダーニシュ・サイト、マノージ・モーゼス、カター・ナンディーなどが出演している。

 オリジナルのマラヤーラム語版の他に、ヒンディー語、タミル語、テルグ語、カンナダ語の吹替版も同時公開された。鑑賞したのはヒンディー語版である。

 「Malaikottai Vaaliban」を観てすぐに思い付いたのは、タルセーム・スィン(ターセム・シン)監督の「The Fall」(2006年/邦題:落下の王国)である。インド的ではあるがインドのどこでもないエキゾチックな地域が舞台であり、インド的ではあるがインドのどの文化にも似ない習慣が描かれている。時代もよく分からず、古代にも見えるし近代にも見える。このインド的かつ無国籍的であるという一見矛盾した特徴は「Baahubali」シリーズにもあったものであるし、ヒンディー語映画界に目を転じてみれば、サンジャイ・リーサー・バンサーリー監督のいくつかの作品、たとえば「Saawariya」(2007年)や「Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela」(2013年/邦題:銃弾の饗宴 ラームとリーラー)にも見られたものである。土着性の強いマラヤーラム語映画で、「Jallikattu」のような地域密着型の映画を送り出したペッリシェーリ監督がこのような作品を送り出したことは驚きである。

 放浪の戦士マライコッタイ・ヴァーリバン(モーハンラール)は、師匠アイヤナール(ハリーシュ・ペーラディ)、弟分チンナッパイヤン(マノージ・モーゼス)と共に牛車で諸国を放浪し、各地の強者に打ち勝ってきた。ヴァーリバンは立ち寄った村で、踊り子ランガパッタナム・ランガラーニー(ソーナーリー・クルカルニー)に嫌がらせをするチャマタカン(ダーニシュ・サイト)を追い払う。マンゴードゥ村の村長の息子だったチャマタカンはヴァーリバンに恨みを持ち、彼に挑戦状を叩き付ける。ヴァーリバンはマンゴードゥ村へ行き、村一番の戦士マンゴットゥ・マッランと戦う。マンゴードゥ村の道場ではどんな卑怯な手を使ってでも勝つことが推奨されていた。ヴァーリバンはマンゴットゥを打ち負かし、破れたチャマタカンは頭と髭を半分剃られる。チャマタカンはさらにヴァーリバンへの復讐を誓う。また、チンナッパイヤンはマンゴードゥ村で出会ったジャマンティプーヴ(カター・ナンディー)と恋に落ちる。ジャマンティプーヴも旅の道連れとなる。

 ヴァーリバン一行は、ランガラーニーと合流した後、都アンバトゥール・マライコッタイに到着する。アンバトゥール・マライコッタイはポルトガル人のマカレー・マハーラージとレディー・マカレーによって支配されており、奴隷の売買が行われていた。レディー・マカレーの誕生日に行われた祝祭においてヴァーリバンはマカレー兄妹に挑戦する。ヴァーリバンは闘技場で二人と戦うが、チャマタカンによって毒を盛られ、途中から防戦一方となる。最後の力を振り絞ってマカレー兄妹に反撃したものの、兵士たちによって捕縛されてしまう。

 ヴァーリバンは奴隷として競売に掛けられ、チャマタカンが主人となる。ところがランガラーニーの従者テーナンマーの活躍により囚人たちが解き放たれ反乱を起こす。マカレー兄妹は殺され、チャマタカンも焼死する。

 ヴァーリバンは祭りに参加し、そこでジャマンティプーヴから妊娠を告げられる。それはチンナッパイヤンの子だった。ところが、ヴァーリバンに告白して振られていたランガラーニーは、ヴァーリバンとジャマンティプーヴの仲を疑い、チンナッパイヤンに嘘を吹き込む。怒ったチンナッパイヤンは刃物を持ってヴァーリバンのところへ向かう。ヴァーリバンは、生き残ったチャマタカンがジャマンティプーヴを殺そうとしていると察知するが、群衆に囲まれていたために彼女を助けられず、ジャマンティプーヴは死んでしまう。ヴァーリバンは殺人犯を追い、殺すが、それはチンナッパイヤンだった。

 チンナッパイヤンとジャマンティプーヴの葬儀が行われた。アイヤナールは失態を犯したヴァーリバンを許さず、彼を波紋とし、彼に決闘を申し込む。実は、アイヤナールはかつてマライヴェッタイという戦士に負け、その奴隷になっていた。妻も戦士に取られてしまった。その戦士はさらに強い者と戦うために旅に出た。妻の妊娠が発覚し、男児が生まれたが、その瞬間、アイヤナールは妻を殺害した。アイヤナールはその男児を育てたが、それがヴァーリバンであった。アイヤナールはヴァーリバンを最強の戦士に育て上げることで、かつて自分を負かしたマライヴェッタイと対戦させようとしていたのだった。

 ペッリシェーリ監督の前作「Jallikattu」もユニークな作品であったが、この「Malaikottai Vaaliban」も、お伽話のような、舞台劇のような、何とも不思議な雰囲気の映画である。観客はほとんど何の説明もなく、ヴァーリバンという無敵の戦士が繰り広げる英雄譚の世界に放り込まれる。ヴァーリバンが何者なのかについては冒頭からほとんど説明されず、放浪の旅の途中にある彼が、立ち寄る村で戦士と戦い、圧倒的な力で打ち負かしていく様子が描かれる。しかも、風景がケーララ州ではない。撮影のほとんどはラージャスターン州で行われたようである。マラヤーラム語映画ではほとんど見ないような、広々として荒涼とした砂漠が何度も画面いっぱいに広がる。ヒンディー語吹替版を鑑賞したが、大半の登場人物が話す言語は標準ヒンディー語ではなくラージャスターニー方言であった。とにかく規格外のマラヤーラム語映画であった。

 ヴァーリバンの一行は牛車で移動しており、師匠のアイヤナールと弟分のチンナッパイヤンも一緒だった。当初の説明では、ヴァーリバンは孤児であり、アイヤナールが拾って育てたということになっていた。ヴァーリバンはアイヤナールからあらゆる戦いの技を学び、最強の戦士になった。ヴァーリバンにとってアイヤナールは師匠であり、父親でもあった。だが、旅の途中でチンナッパイヤンはジャマンティプーヴと出会い、彼女も旅に連れて行くことになる。アイヤナールは、旅団に女が加わることに反対だった。だが、チンナッパイヤンをかわいがるヴァーリバンはそれを認めてやったのだった。

 また、道中でヴァーリバンはチャマタカンという悪役に付け狙われることになる。公衆の面前でヴァーリバンから屈辱を受けたチャマタカンは彼に挑戦状を叩き付け、部下のマンゴードゥと戦わせるが、マンゴードゥはあっけなく負けてしまう。チャマタカンは髪と髭を半分剃られるというさらなる恥辱を味わい、復讐の炎をさらに燃やす。チャマタカンは、マカレー兄妹と決闘するヴァーリバンに密かに毒を注入し、彼を弱らせる。それでもチャマタカンの策謀はうまく行かず、囚人の反乱が起こったこともあって形勢逆転し、ヴァーリバンはマカレー兄妹を殺す。

 このときチャマタカンも死んだかと思われたがしぶとく生き残っており、さらに彼は復讐の機会をうかがう。だが、ヴァーリバンを跪かせたのはチャマタカンではなかった。ヴァーリバンに片思いする踊り子ランガラーニーは、ヴァーリバンとジャマンティプーヴの仲を疑い、チンナッパイヤンに嘘を吹き込んだのである。チンナッパイヤンはジャマンティプーヴを殺し、チンナッパイヤンは勘違いしたヴァーリバンに殺されてしまった。これがきっかけでヴァーリバンはアイヤナールから破門され、しかも決闘を申し込まれる。

 「Malaikottai Vaaliban」は元々2部作の映画であり、第1部の大半はここで終わる。だが、その最後にはかなり衝撃的な事実が明かされる。ヴァーリバンは孤児だと説明されていたが、実は彼の父親マライヴェッタイは生きていた。アイヤナールはマライヴェッタイと戦って負け、彼の奴隷にされており、しかも彼の妻はマライヴェッタイのものになってしまっていた。アイヤナールの妻から生まれたのがヴァーリバンであり、アイヤナールはマライヴェッタイへの復讐を胸に秘めながらヴァーリバンを育てていた。マライヴェッタイは強い者を求めて旅に出ていた。ヴァーリバンの名声が轟いたことで、マライヴェッタイはヴァーリバンとの戦いを求めるようになる。アイヤナールは、父子を戦わせることで復讐を果たそうとしていたのである。当然、マライヴェッタイもモーハンラールが演じることになるが、この二人の決闘は次回作に持ち越されることになる。

 ただし、「Malaikottai Vaaliban」は興行的に失敗しており、「Malaikottai Vaaliban 2」の製作は中止された。個人的には「Jallikattu」に勝るとも劣らない名作だと感じたのだが、ケーララ州民をはじめ、インド人観客の感じ方は違ったようだ。よって、ヴァーリバンとマライヴェッタイの戦いは拝めない可能性が高い。

 「The Fall」を思わせる映像や美術が素晴らしかったし、生演奏と思われるBGMも映画を盛り上げていた。モーハンラールの演技や彼のアクション、そして独特の語り口も印象的だった。ヒンディー語吹替版のクオリティーも高く、ヒンディー語版の方がオリジナルだといわれても何の疑問も沸かない。何がインド人観客に受けなかったのか、ちょっと分かりかねる。

 「Malaikottai Vaaliban」は、低予算ながら高品質の映画作りで一目置かれるマラヤーラム語映画界が、独自のセンスでもって「Baahubali」シリーズに比肩するエピック・アクション映画を送り出そうと努力した結果、生まれた作品である。「Baahubali」のように、無闇やたらにセットに金を掛けるわけではなく、CGに頼るわけでもなく、それでいてインドの風景や建物を巧みに使ってエキゾチックな映像を作り出すことに成功している。傑作といってもいい作品だが、なぜかインドでは受けなかったようだ。もっと評価されていい作品である。