Once Upon Two Times

3.5
Once Upon Two Times
「Once Upon Two Times」

 「Once Upon Two Times」は、2023年12月29日からZee5で配信開始された映画である。題名は「昔々・・・」という意味の英語のフレーズ「Once Upon A Time」をもじったものだ。2世代にわたる恋愛が同時並行的に描かれることから、「A Time(ひとつの時代)」を「Two Times(ふたつの時代)」に変えてみたのだろう。

 監督はソーナークシー・ミッタル。過去に短編映画を数本撮っているが、長編映画の監督は初である。キャストは、サンジャイ・スーリー、ムリナール・クルカルニー、アヌド・スィン・ダーカー、カシシュ・カーン、ニテーシュ・パーンデーイなど。この中ではサンジャイがもっとも名の知れた俳優だが、それでもマイナーな部類に入る。ムリナールは主にマラーティー語映画界で活躍してきた女優、アヌドは「Janhit Mein Jaari」(2002年)などに出演していた男優、カシシュはまだ駆け出しの女優である。

 アハーン・アワスティー(アヌド・スィン・ダーカー)は、亡き母親で有名な古典音楽家だったカシシュから古典声楽を習っており、音楽の道を志していたが、なかなか芽が出なかった。アハーンの恋人ルーヒー・ルーングター(カシシュ・カーン)は常に最前列から彼のパフォーマンスを鑑賞し、彼の夢を応援していた。

 あるときアハーンは急にロンドン留学を決め、ルーヒーに打ち明ける。アハーンに音楽家になって欲しかったルーヒーは彼のその決断を手放しで喜べなかった。しかも、2年間も離れ離れになってしまう。そんな彼女の様子を見たアハーンはプロポーズをする。

 アハーンとルーヒーは親を会わせることにした。ちょうどルーヒーの父親ニプン(ニテーシュ・パーンデーイ)は会社を早期退職しており、これからレストランを開こうとしていた。その前に彼はナイニータールへ家族旅行を計画した。ルーヒーはアハーン一家もナイニータール旅行に誘う。ところが、ルーヒーの母親プールニマー(ムリナール・クルカルニー)はアハーンの父親カウシク(サンジャイ・スーリー)を避けていた。後に彼らが明かしたところでは、実はカウシクとプールニマーは学生時代に付き合っていたが、結婚直前に仲違いし、それから30年間会っていなかったのだった。

 アハーンとルーヒーは何とかカウシクとプールニマーを仲直りさせようとする。だが、二人は何かと反発し合い、元々付き合っていたとは思えないほど相性が悪かった。幸い、ニプンは細かいことを気にしない性格で、カウシクと友情を結ぼうと努力をした。ナイニータール旅行中にカウシクとプールニマーは過去のわだかまりを捨てることができた。

 ところが今度はルーヒーがアハーンとの結婚を拒絶するようになってしまった。ルーヒーは、アハーンが音楽から逃げるために結婚をしようとしていると感じ、今のままの彼では結婚できないと言い出す。二人は仲違いし、そのままナイニータール旅行は終了した。

 ムンバイーに戻ったアハーンは、母親が残した音楽ノートを学校に寄付しようとするが、できなかった。アハーンは再び歌を歌い出し、ルーヒーはそれを喜ぶ。

 インドでは親が子供の結婚相手を決めるアレンジド・マリッジが主流だが、一昔前までのように、結婚式まで新郎新婦を引き合わせずに結婚させてしまうようなことは減ってきた。しっかりお見合いをし、両者がお互いを気に入れば、縁談を前に進めるというステップが取られるのが当然となっており、その様子はインド映画でもよく描かれる。そして、まだまだ少数派ではあるが、子供たちが自分で結婚相手を与える恋愛結婚も増加傾向にある。特にマッチングアプリ全盛期の今、男女の出会いは遥かに簡単になった。アレンジド・マリッジやお見合い結婚では親が子供同士を引き合わせていたが、恋愛結婚では子供たちが親同士を引き合わせることになる。その時代の変化は、「2 States」(2014年)あたりからしきりに映画でも取り上げられるようになった。子供同士は愛し合っているのに、「お見合い」させられた親同士がなかなか打ち解けないという事態がコメディータッチで描かれることが多い。

 「Once Upon Two Times」のストーリーでは、親同士の「お見合い」にもうひとひねり加えてある。新郎アハーンの父親カウシクと、新婦ルーヒーの母親プールニマーが、元恋人同士だったという設定である。しかも、二人は行き違いから喧嘩別れし、30年間顔を合わせていなかった。再会した二人は最初から反発し合い、子供たちの縁談を破談にしかねない雰囲気だった。子供たちよりも大人の方が大人げないという、情けない状況だった。

 ちなみに、カウシクの妻カシシュは既に他界していた。一番気まずいのはプールニマーの夫ニプンである。娘の結婚相手の父親が妻の元恋人とは、普通だったら逃げ出したくなる状況だ。しかし、ニプンは大らかな人間で、冗談好きでもあり、このレアな状況にうまく対処していた。最終的には全て丸く収まるが、登場人物の中でその帰着にもっとも貢献したのは間違いなくニプンである。彼が反射的に拒絶反応を示していたら、こうもうまくは事が運ばなかったことだろう。

 30年前にカウシクとプールニマーは破局した。では、彼らの子供であるアハーンとルーヒーは同じことを繰り返さないだろうか。映画の中では何度も遺伝の話が出て来て、アハーンとルーヒーの将来に対する懸念が表明されては打ち消されていた。

 両家は一緒にナイニータール旅行に出掛け、そこでカウシクとプールニマーの過去が明らかになり、彼らは仲直りする。全てがうまく行くかに見えたとき、やはりアハーンとルーヒーは喧嘩をしてしまう。それにはルーヒーのこだわりがあった。これがこの映画のもうひとつの軸になっていた。

 アハーンとルーヒーの出会いについては何も語られていなかったが、この二人が音楽で結び付いていたことははっきりしている。ルーヒーはアハーンの音楽の才能を高く評価していた。いや、むしろ、著名な古典音楽家だった母親が誇ってくれるような音楽家になりたいという彼の夢をルーヒーは正確に読み取っていた。だからこそ、アハーンがその夢を諦める方向に踏み出そうとしたとき、ルーヒーはそれを必死で止めていた。ルーヒーはアハーンを愛していたが、アハーンは自分との結婚を音楽から逃げるための言い訳にしようとしていると気付き、彼女は敢えて彼との結婚に待ったを掛ける。ルーヒーの揺れる心情描写は見事であった。

 親世代の3人を演じたサンジャイ・スーリー、ムリナール・クルカルニー、ニテーシュ・パーンデーイ、そして子供世代の2人を演じたアヌド・スィン・ダーカーとカシシュ・カーン、全ての演技が噛み合っており、キャスティングも絶妙だった。

 「Once Upon Two Times」は、これから結婚しようとする若い男女が親同士を引き合わせてみたら元恋人同士だったという、なかなかないシチュエーションを描いた作品である。ロマンス映画ともいえるし、ファミリー映画ともいえる。そこに、亡き母親への慕情、親子の信頼関係、そして諦めきれない夢などの要素が付け加えられ、静かだが味のある佳作に仕上がっていた。