Hey Kameeni

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Hey Kameeni
「Hey Kameeni」

 2023年12月22日からJioCinemaで配信開始された「Hey Kameeni」は、2人の女性を主人公にしたライトなノリのスリラー映画である。

 監督は「Tango Charlie」(2005年)などのマニ・シャンカル。主演はドリシカー・チャンダルとアシーマー・ヴァルダーン。他に、アヴィジート・ダット、スプリヤー・カルニク、ソームナート・ホッタ、アーデーシュ・パンディト、ブヴァン・カーイラーなどが出演している。

 題名になっている「カミーニー」とは「アバズレ」みたいな意味で、女性に対する悪口に使われる単語だ。この映画の主人公は「カーミニー」というが、こちらは一般的なインド人女性の名前である。この「カミーニー」と「カーミニー」を掛けた内容になっている。

 突如ハイダラーバードに現れた、カーミニー・ランダーワーを名乗る女性(ドリシカー・チャンダル)は、カフェで店員として働くガウリー・スィン(アシーマー・ヴァルダーン)と出会う。ガウリーはカーミニーにカフェでの仕事を紹介し、しかも自宅に招き入れる。カーミニーはIDや携帯電話を持っていなかった。ガウリーはレズビアンであり、カーミニーは彼女とベッドを共にする。ガウリーはカーミニーのバックグラウンドについてあまり聞かないようにしていた。

 ところがガウリーは何者かに追われているようだった。カーミニーは、アンクシュ・バンダルという男に大量のゴキブリを振りかけられて脅されていた。溜まりきれずガウリーはカーミニーに理由を問いただす。するとカーミニーはそのままで彼女の元を去ってしまう。ガウリーはアンクシュに呼び出され、5万ルピーの前金と100万ルピーの報酬金を提示され、カーミニーの居場所を教えるように言われる。

 ガウリーは友人のハッカーに頼んでカーミニーの携帯電話を追跡してもらう。ガウリーがその位置に行ってみると、カーミニーがいた。ところが彼女は自分のことを「ガウリー」と名乗っていた。ガウリーの家に居候しているとき、彼女はガウリーのIDを盗んで、それを使っていたのである。しかも、ガウリーを見て、彼女を「カーミニー」と呼ぶ。

 カーミニーに頼まれ、ガウリーはカーミニーと一緒にいたタシ(ソームナート・ホッタ)と共に怪しい仕事をすることになる。ガウリーとタシは紙幣を持って指定の住所を回り、バッグを回収することになった。そのバッグには何千万ルピーもの現金が入っていた。ところが2つのバッグを回収したところでその仕事は打ち切りとなる。

 カーミニーはガウリーとタシをとあるパーティーに連れて行く。それは、バンサル財閥のパーティーであり、実はカーミニーはハンスラージ・バンサル会長(アヴィジート・ダット)の娘アディティ・バンサルだった。アディティは父親の事業を引き継ぐため、IDも携帯電話を持たずにハイダラーバードに放り出され、14日間生活することになっていたのだった。ところが、アディティには3人の兄がおり、彼らがアディティへの事業継承を妨害していた。ガウリーたちが盗み出した現金も兄たちのものだった。

 ハンスラージはアディティにビジネスの才覚があると確信し、彼女にも事業を分割することを発表する。また、ハンスラージはアディティに結婚相手を押しつけていたが、彼の浮気も発覚する。

 カーミニーを名乗る主人公の女性は、IDも携帯電話も持っておらず、しかも何者かに追われている。他人の携帯電話のパスコードを盗んだり、ドローンで盗撮したりと、やっている行動も怪しい。彼女は一体何者なのかという点がこの映画の最大のサスペンスになっている。

 もちろん、彼女の正体は映画の最後で明かされる。実はバンサル財閥の令嬢アディティ・バンサルであり、何も持たずにハイダラーバードをうろついていたのは、父親から課せられた宿題を実行していただけだったことが分かる。なんでも父親ハンスラージは、創業前に無一文で街中に放り出された過去があり、それと同じ経験を後継者にさせ、苦労を学ばせようとしていたのである。そしてアディティは3人の兄たちと後継者争いをしていた。兄たちは、バンサル家の女性はビジネスには関わらないと言って譲らず、アディティには退屈なチャリティー部門しか継承させようとしなかった。一方、アディティは宝石やファッションなどの事業に興味があり、それを手にするため、彼女は父親が出した宿題に取り組んでいたのだった。

 2010年代以降、女性主体の映画が増えたことは前々から指摘している通りである。女性中心映画の勃興そのものが男性中心社会へのアンチテーゼであり、映画の内容も、インド社会に根強い男尊女卑の価値観に一石を投じる傾向が強い。一見すると「Hey Kameeni」もその延長線上にある作品のように見える。女性に経営のチャンスを与えない一家のしきたりと戦うアディティの姿はそれに近いものだ。しかしながら、彼女は自ら起業するのではなく、父親の事業を引き継ぐために一連の行動を取っている。その点に少し引っ掛かるものを感じた。もし父親が事業を継承させてくれないのなら、自分で会社を立ち上げればいいのではなかろうか。その方が女性を応援する映画になったはずだ。

 また、LGBTQの要素がある映画でもあった。ガウリーはレズビアンであり、家族にカミングアウトしたところ、家にいられなくなって、家を出たという設定になっていた。アディティはガウリーの性的指向を察知し、それに付け込んで彼女の家に居候することになる。二人のレズシーンもある。ただ、アディティはヘテロセクシャルである。アディティはガウリーの家に長居するために彼女に合わせてレズ行為に及んだのだった。アディティが家を出て行ってしまうと、ガウリーは彼女を探す。アンクシュから金を提示されて探すように言われたこともあったが、ガウリーはアディティに恋心を抱いていたとも受け止められる。だが、アディティはガウリーのそんな感情を徹底的に利用し、彼女をいいように操る。同性愛者が観て決して気持ちの良い映画ではなかった。

 起用されていたのはほとんど無名の俳優たちばかりだ。主演のドリシカー・チャンダルとアシーマー・ヴァルダーンもまだ駆け出しの女優たちである。どちらかといえばアシーマーの方がウェブドラマ「Dev DD」(2017年・2021年)に主演するなど、活躍している。

 「Hey Kameeni」は、ドリシカー・チャンダルが演じる女性の正体が終盤まで不明なことで観客の関心を引っ張る力があるものの、脚本や演出に難があり、どうしてもチープに見えてしまう作品だ。レズビアンの要素もあったが、かなり表層的で、逆に批判を浴びそうな使い方である。無理して観るべき映画ではない。