Mast Mein Rehne Ka

3.0
Mast Mein Rehne Ka
「Mast Mein Rehne Ka」

 2023年12月8日からAmazon Prime Videoで配信開始された「Mast Mein Rehne Ka」は、孤独な高齢の男女が出会い、心を通わす物語だ。

 監督はヴィジャイ・マウリヤ。舞台俳優としてのキャリアが長く、「Black Friday」(2004年)などの映画にも出演経験がある。マラーティー語映画やヒンディー語のウェブドラマの監督をし、今回ヒンディー語映画を撮ることになった。

 キャストは、ジャッキー・シュロフ、ニーナー・グプター、アビシェーク・チャウハーン、モニカ・パンワル、ファイサル・マリク、ラーキー・サーワントなどである。

 ウッタル・プラデーシュ州ガーズィープルからムンバイーに出て来て仕立屋の仕事をしていたマドホーシュ・グプター、通称ナンネー(アビシェーク・チャウハーン)は、勤め先から追い出され、果物商の友人バーブーラーム(ファイサル・マリク)の助けを得て、自立して仕事をすることになる。しかし、そのためには多額の資金が必要だった。そこでナンネーは独り身の老人を狙って窃盗を働くことにする。

 まずナンネーが忍び込んだのは75歳のVSカーマト(ジャッキー・シュロフ)の家だった。ナンネーはカーマトに顔を見られてしまうが、彼を気絶させて逃げ出す。次に彼が忍び込んだのはプラカーシュ・カウル・ハンダー(ニーナー・グプター)の家だった。やはりプラカーシュにも顔を見られてしまい、逃げ出す。

 また、ナンネーは振付師のビルキス(ラーキー・サーワント)から衣装の仕立ての仕事をもらっていた。まとまった前金が手に入ったため、盗んだ金品と合わせてミシンを買い、仕事を始める。ナンネーは路上で乞食をしていたラーニー(モニカ・パンワル)と仲良くなり、彼女との結婚を夢見るようになる。だが、店の賃料が重荷になり、借金に追われる生活を送っていた。

 一方、カーマトとプラカーシュは同じような手口の窃盗の被害者ということで警察署で出会う。二人とも孤独な人生を送っており、惹かれ合う。彼らは、自分たちと同じように孤独な老人に興味を持つ。老人の後を付けて家を特定し、その家に忍び込んで、家に置いてあるビールを飲むという行動を繰り返していた。あるとき二人は忍び込んだ先でナンネーと出くわす。驚いたプラカーシュは心臓発作を起こして倒れてしまうが、ナンネーは彼女を助け病院に連れて行く。その後、ナンネーは警察に捕まってしまう。

 プラカーシュの息子がカナダからやって来て、彼女をカナダに連れ帰ろうとする。カーマトは空港まで彼女を追い掛けるが、間に合わなかった。カーマトは警察に呼ばれ、窃盗犯の認知をさせられたが、その場にプラカーシュも来ていた。彼女はすぐにムンバイーに戻って来たのだった。二人の前には、逮捕されたナンネーも連れ出されるが、彼らは見逃してあげた。ナンネーは釈放され、ラーニーに出迎えられていた。

 ヒンディー語映画界きっての伊達男ジャッキー・シュロフは、かつては主演男優として第一線で活躍していたが、ここ最近は脇役での出演がほとんどになっていた。息子のタイガー・シュロフも俳優としてデビューし、人気スターの一員として定着しつつあることもあり、父親としては一安心であろう。ただ、息子が脚光を浴びるのと並行して、ジャッキーも再び起用されることが多くなってきたように感じる。「Mast Mein Rehne Ka」では久々にジャッキー・シュロフが主演を張っている姿を見た気がする。

 題名に多少コメディーっぽい響きがあり、その方向性の映画を期待していた。蓋を開けてみれば、確かにクスッと笑えるシーンはあるのだが、基本的にはしんみりするドラマ映画であった。ジャッキーは独り身の老人カーマトを演じ、いかにも孤独そうな雰囲気を全身から醸し出すことに成功していた。

 ジャッキーの相手役を務めるのが、60歳にして「Badhaai Ho」(2018年)でブレイクしたニーナー・グプターである。彼女が演じたのは、カナダからムンバイーに戻って来た独り身の女性プラカーシュだ。彼女の夫は3年前に死んでいた。カーマトとプラカーシュは惹かれ合うようになるが、二人が始めた行動は奇妙なものだ。「調査(Survey)」と称して老人の後を付け、その留守中に家に忍び込んで、冷蔵庫に溜め込んであるビールを飲むというものだ。

 老齢のカップルがやんちゃをしている裏で、若いカップルも愛を育む。仕立屋のナンネーと乞食のラーニーである。ナンネーはムンバイー在住歴3年で、まだ純粋さが抜けておらず、どうも都会の生活に順応していないようであった。働いていた店でミスを犯して追い出され、仕方なく小さなスペースを借りて、自前の仕立屋を始める。しかし、そのためには多額の借金をしなければならず、彼の生活を圧迫する。ナンネーは独居老人の家に忍び込んで金品を盗み、金を工面するようになる。そんな彼が好意を持ったのがラーニーであった。ラーニーはタフな性格で、ムンバイーで生き抜く力を持っていた。彼女はナンネーの純粋さに惹かれ、彼を陰ながら支える存在になる。ナンネーが借金を返せずにいると、売春をして金を稼ぎ、返済に充てた。ナンネーとラーニーを演じたのは、アビシェーク・チャウハーンとモニカ・パンワルというあまり聞いたことがない俳優たちだ。しかしながら素晴らしい演技をしていた。

 どうしても、老齢のカップルと、仕立屋と乞食のカップルという、異例の人間関係を描いた理由を勘ぐってしまう。どちらも通常のロマンス映画ではなかなか描かれにくい取り合わせだ。何か深い意味があったというわけではなく、単純にそのような社会の辺縁部のロマンスを取り上げてみたかったのではなかろうか。

 かつて「セックスシンボル」として一世を風靡したラーキー・サーワントが、すっかり太ってしまっていたものの、久々に映画に出演していたのには驚いた。存在感が強すぎるので使いどころが難しいのだが、少なくともこの映画では適材適所の配役だったといえる。

 「Mast Mein Rehne Ka」は、ジャッキー・シュロフとニーナー・グプターが淡いシルバーロマンスを繰り広げる映画だ。それと平行して、借金取りに追われ泥棒稼業に勤しむ貧しい仕立屋と乞食の女性の恋愛も描かれる。一風変わった映画である。