Sajini Shinde Ka Viral Video

4.0
Sajini Shinde Ka Viral Video
「Sajini Shinde Ka Viral Video」

 2023年10月27日公開の「Sajini Shinde Ka Viral Video(サジニー・シンデーの炎上ビデオ)」は、SNSでの誤操作から始まった悲劇を巡るスリラー映画である。

 監督は「Made in China」(2019年)のミキル・ムサーレー。主演は「The Lunchbox」(2013年/邦題:めぐり逢わせのお弁当)で主演し高い評価を受けたニムラト・カウル。他に、「Angrezi Medium」(2020年/邦題:イングリッシュ・ミディアム)のラーディカー・マダン、「Kisi Ka Bhai Kisi Ki Jaan」(2023年)のバーギヤシュリー、スボード・バーヴェー、ソーハム・マジュームダール、チンマイ・マンドレーカル、シュルティ・ヴャース、スネーハー・ラーイカルなどが出演している。

 プネーのKP高校で物理の教師をするサジニー・シンデー(ラーディカー・マダン)は、シュラッダー(シュルティ・ヴャース)らと共にシンガポールに出張する。ちょうど誕生日を迎えたサジニーはディスコへ行って踊るが、彼女が酔っ払って踊り狂っている動画が誤って学校のSNSに流れてしまう。その動画は瞬く間に世間に広まり、問題となる。KP高校のカリヤーニー・パーンデーイ校長(バーギヤシュリー)はシュラッダーやサジニーを懲戒免職とする。

 インドに戻ってきたサジニーは突然の解雇にショックを受ける。サジニーの父親スーリヤカーント(スボード・バーヴェー)は舞台劇の役者であったが、非常に厳格な人物で、サジニーは彼を恐れていた。サジニーの許嫁スィッダーント・カダム(ソーハム・マジュームダール)はバンガロールのIT企業で働いていたが、彼女の行動に腹を立てる。

 8月17日の夜に突如としてサジニーが行方不明になる。SNS上に遺書が残されており、そこではスーリヤカーントとスィッダーントに責任が負わされていた。

 事件の担当になったプネー警察女性部のベーラー・バロート警部補(ニムラト・カウル)は、スーリヤカーント、その妻ウルミラー(スネーハー・ラーイカル)、スィッダーント、カリヤーニー校長、サジニーのルームメイトであるチャヴィなどの取り調べを行う。スーリヤカーントもスィッダーントも弁護士を雇い、お互いに罪をなすりつけ合おうとする。

 最終的にバロート警部補はカリヤーニー校長が事件に関与したことを突き止め、彼女とその部下を証拠隠滅や死体遺棄の罪で逮捕する。

 映画の本筋は、突然姿をくらました女性教師サジニーの行方を追うサスペンス劇であった。予め答えは提示されないので、観客はバロート警部補と共に事件の真相を追うことになる。多くの登場人物がおり、それぞれに犯人である可能性があった。特にサジニーの父親は、サジニーや家族に対してかなり支配的な人物であり、しかも彼の家では過去に別の娘が行方不明になっていてかなり怪しかったのだが、実は噛ませ犬であり、結局彼は犯人ではなかった。

 そのサスペンス部分は非常によくできていた。だが、それ以上にこの映画の隠れテーマだと感じたのは、パトリアーキーとフェミニズムへの批判的な視点である。

 パトリアーキーを体現しているのはもちろんスーリヤカーントだ。名の知れた舞台俳優である彼は、家族内で暴君として振る舞っていた。妻のウルミラーは夫に従うだけで、サジニーは父親と話すのを怖がっていた。しかも、家族の命よりも家名を重視しており、サジニーが行方不明になっても、彼女の安否より世間体の方を気にしていた。彼には名誉殺人の前科がある可能性もあった。

 ただ、終盤で彼は犯人ではなかったことが明らかになる上に、実はナイーブな内面を抱えていた人物であることも分かる。厳格な父親としての彼の顔は、実は演じていたものだった。演劇では幕が下りれば役から解放されるが、現実世界では一旦作り上げてしまった虚構のマスクを外すことができずにいた。15年前に行方不明になった娘は、名誉殺人で殺されたのかと思わせておいて実は生きていた。恋愛結婚をしようとした娘をスーリヤカーント自身が逃がし、死んだことにしていたのだ。彼は、家の名誉を守り、娘の命も守る道を選んでいた。

 スーリヤカーントというキャラには、男性としての生きにくさが投影されていた。インド社会では男性は一家の長として、家の名誉を守る重責を社会から負わされる。いつしかその役割が人格を支配するようになり、家族に窮屈な生き方を強要するようになる。止めようと思ってもなかなか止められず、何より自分自身を苦しめていく。

 ただし、「Sajini Shinde Ka Viral Video」の中で家父長的な立ち位置にいる男性はほぼスーリヤカーントのみで、他の男性キャラは基本的に弱々しく、大半が女性の下に置かれていた。この映画ではむしろ、女性の生き方の方に焦点が当てられていたといっていい。

 バロート警部補はまるでアンチ・フェミニズムの旗手のようだ。プネー警察の中でも女性に関する事件を担当する「女性部」に所属していた。だが、彼女は、実力ではなく、女性だからという理由で事件を任されることにうんざりしていた。それでも有能な警察官であり、担当したサジニー失踪事件についてもテキパキと捜査を進めていく。彼女は、男勝りな性格であると同時に、「女性カード」を切る女性を嫌ってもいた。彼女が求めていたのは、女性を優遇する社会ではなく、女性を男性と対等に扱う社会であった。また、ウルミラーとの会話の中で、子供のいない女性に対する差別的な視線にも少し触れられていた気がした。

 自殺してしまったサジニーは、少なくとも2つの十字架を背負っていた。ひとつは女性、ひとつは教師という十字架だ。同僚と共にシンガポールを訪れたサジニーは、誕生日にディスコで羽目を外して踊る。それが誤ってSNSに流出してしまい、「教師にあるまじき行為」として糾弾される。これがもし男性だったら世間の反応はどうだっただろうか?また、教師はプライベートな時間にも聖人でいなければならないのだろうか?

 上で、男性が社会から名誉を守るという重責を負わされていると書いたが、この映画のキャラの中には、名誉を守る重責を負った女性も登場する。カリヤーニー校長だ。彼女は過去30年間、KP高校に勤務し、学校の名誉を何より重んじていた。だが、それ故に、教師の「破廉恥」な姿が世間にさらされることに我慢ができず、その彼女が自殺をしてしまったときに、それを隠すという間違った判断をしてしまった。

 映画の最後で、社会は失敗した人に指を指すのではなく、手を握ってあげる寛容さを持つべきだとのメッセージが発信されている。

 「Sajini Shinde Ka Viral Video」の俳優陣の中でもっとも注目したいのは、バロート警部補を演じたニムラト・カウルだ。「The Lunchbox」で見せた控えめな主婦役とは正反対の役柄であり、それを歩き方からしゃべり方まで全身で演じ切っており、素晴らしい演技だった。「The Lunchbox」以降、あまり存在感がなかったが、これだけの演技力を持っている女優を映画界が見過ごしてはいけない。もっとどんどん役をオファーされていい女優である。

 スーリヤカーントを演じたスボード・バーヴェーもいい俳優だ。「Aiyyaa」(2012年)など、いくつかのヒンディー語映画への出演歴はあるが、基本的にはマラーティー語映画の俳優だ。今回は、内面に脆さを持った暴君を演じていたが、彼の顔は優しくも怖くも見えるため、ピッタリはまっていた。彼についてももっとヒンディー語映画界で活躍して欲しい。

 他に、ラーディカー・マダン、バーギヤシュリー、ソーハム・マジュームダールなどの好演が光った。ストーリーも良かったが、俳優たちの演技も文句ないほど良く、映画の完成度を高めていた。

 「Sajini Shinde Ka Viral Video」は、純粋にスリラー映画として楽しむこともできるが、ストーリーに編み込まれた社会的メッセージを読み取ることで、深みのある映画であることが分かる。単純に展開の意外性を楽しむだけで終わってしまうスリラー映画が多い中、こういう一歩踏み込んだ作品に出会えると、まだまだスリラー映画には発展の余地があると思わせられる。必見の映画である。