Bose: Dead/Alive

3.5
Bose: Dead/Alive
「Bose: Dead/Alive」

 2023年8月29日からYouTubeのVenus Entertainmentチャンネルにて「Bose: Dead/Alive」という映画が配信開始された。英領時代に武力によってインド独立を果たそうとした革命家、ネータージー・スバーシュチャンドラ・ボースを題材にしている。ただし、元々これはOTTプラットフォーム、ALTBalajiにて配信されていた全9話のウェブドラマであった。どうやらドラマを編集して2時間46分の映画にしたのが、YouTubeで視聴できる「Bose: Dead/Alive」であるらしい。確かに所々エピソードの切れ目が見える。

 監督はプルキトという人物。あまり情報がない。プロデューサーはインドTV業界の大御所エークター・カプールである。ボースを演じるのはラージクマール・ラーオ。他に、ナヴィーン・カストゥーリヤー、パトラレーカー・ポールなどが出演している。

 インドを亡命したボースは、ナチスドイツの支援を受けてインド人捕虜を編成し、ロシア経由で英領インドに攻め込もうと計画していたが頓挫した。そこで彼は潜水艦を乗り継いで日本に渡り、日本軍の協力の下、シンガポールでインド国民軍(INA)を組織してインパール作戦などに参加した。1945年8月15日に日本がポツダム宣言を受諾し敗戦が決定すると、ボースは台湾に渡り、そこで飛行機事故に遭って死亡したとされている。ただ、ボースの死については諸説があり、はっきりしない。多くのインド人は、ボースはこのとき死なず生き残ったと信じている。

 「Bose: Dead/Alive」は、ボースの死の謎に迫ったアヌジ・ダル著「India’s Biggest Cover-Up」(2013年)を原作にしており、ボースは飛行機事故では死なず、満州からソビエト連邦に渡ったという説にもとづいて作られている。

 映画は、1945年8月19日、台湾の松山空港で起こった飛行機事故を起点にし、ボースの華々しい過去の映像を差し挟みながら、彼の「死」後に彼の「死」の謎を追う人々の様子を追う構成になっている。特にボース生存の証明に取り憑かれていたのが、英領時代にボースと面識のあった英国人警察官スタンレー・アレンと、その部下のインド人警察官ダルバーリー・ラール(ナヴィーン・カストゥーリヤー)であった。スタンレーは早くからボースの危険性に気づき、再三上司に警告をしてきた。ダルバーリーはボースから「インド人なのに英国人の味方をするな」と忠告を受けてきた人物である。ただし、どちらも実在の人物ではないと思われる。

 ボースとマハートマー・ガーンディーが同じくインド独立を目指しながら方法論で噛み合わず、最終的に袂を分かったのは史実として、意味深に描かれていたのが、ボースとネルーの確執であった。ネルーは、もしボースが生きていてインドに戻ったら、独立インドの首相の座は国民から絶大な人気を誇っていたボースに奪われると恐れていた。ボースがヒトラーと組んで英領インドに攻め込もうとしていたときも、ネルーはボースの行動を批判していた。あたかもボースがインドに帰国できなかった理由のひとつにネルーの存在があったと訴えているかのようだった。

 また、1966年にラール・バハードゥル・シャーストリー首相が当時ソビエト連邦の都市だったタシュケントを訪れたとき、ボースと接触したという説も映像化されていた。シャーストリー首相はタシュケントにてパーキスターンのアユーブ・ハーン大統領と会談し、第二次印パ戦争の終戦条約を結んだ直後に急死する。シャーストリー首相の死もインド現代史の大きな謎のひとつであり、それにボースが関わっていたとしたら、闇はとても深くなる。

 日本人としては、ボースと日本の関わりがどの程度映像化されているか気になるところだ。残念ながら「Bose: Dead/Alive」の過去映像は、ボースがドイツにてインディアン・リージョン(アーザード・ヒンド・フォース)を立ち上げたところで終わっている。その後、日本が登場するのは、ボースの「死」の後でのやり取りになる。日本人俳優は出ておらず、日本人役は東洋顔をしたインド人で代用されている。故にヘンテコな日本語のセリフもいくつか耳にするが、大人の態度でスルーすべきだ。日本ロケも行われていないはずである。

 元々がウェブドラマとして作られた作品であり、映画ほど予算が掛けられていないようで、基本的に映画の作りはチープである。ボース役に演技派のラージクマール・ラーオを起用できたのは良かったが、派手な演出はほとんどなかった。逆に、ボースの波瀾万丈の人生をここまで低予算で映像化できたことの方に驚かされる。

 過去に巨匠シャーム・ベーネーガル監督もボースの伝記映画「Netaji Subhas Chandra Bose: The Forgotten Hero」(2005年)を撮っているが、歴史に忠実に描き過ぎたため、教材映画のような固さがあった。それに比べたら、「Bose: Dead/Alive」では「ボースは生きていた」という想定の下、想像力を膨らませてボースの「その後」を描くと同時に、彼の過去の行状も映像化されていたため、退屈せずに鑑賞できた。「Bose: Dead/Alive」は、ボースの伝記映画「Netaji Subhas Chandra Bose」と、ボースの死の謎に迫ったベンガル語映画「Gumnaami」(2019年)の中間に位置するような作品だ。

 「Bose: Dead/Alive」は、インド独立活動に身を投じたフリーダムファイターの中でももっとも人気が高く、しかもミステリアスなスバーシュチャンドラ・ボースが、飛行機事故以降も「生きていた」という前提の下に作られた作品である。元々ウェブドラマとして作られており、それを編集して一本の映画にしているため、チープさやエピソード間の切れ目が感じられるのだが、主演ラージクマール・ラーオのしっかりした演技もあって、意外に楽しめる。観て損はない。


Bose: Dead/Alive | Hindi Full Movie | Rajkummar Rao, Patralekha, Naveen Kasturia | Hindi Movies 2023