One Friday Night

3.5
「One Friday Night」

 2023年7月28日からJioCinemaで配信開始された「One Friday Night」は、夫、妻、そして夫の浮気相手の三角関係をベースにしたスリラー映画である。

 監督は「The Stoneman Murders」(2009年)や「420 IPC」(2021年)のマニーシュ・グプター。スリラー映画を得意とする映画監督である。主演はラヴィーナー・タンダン。他に、ミリンド・ソーマンとヴィディ・チタリヤーが出演している。ミリンドをヒンディー語映画で観たのは久しぶりだ。ヴィディは「Serious Man」(2020年)や「420 IPC」に出演していた若手女優である。

 プネー在住の実業家ラーム・ヴァルマー(ミリンド・ソーマン)は、産婦人科医のラター(ラヴィーナー・タンダン)と結婚して20年経っていたが、二人の間には子供がいなかった。ラームは、若いダンサー、ニローシャー・パテール(ヴィディ・チタリヤー)と浮気をしていた。

 7月26日(金)の夕方、ラームはナーグプルへ行くと嘘を付いて、ニローシャーを郊外の別荘に連れ込んだ。折しも大雨が降り出していた。ラームは管理人のゴーヴィンドを街へお使いに出した。ニローシャーはラームに妊娠2ヶ月であることを明かす。ラームはそれを聞いて喜ぶが、ラターとの離婚、それにニローシャーとの結婚をすぐに約束できずにいた。

 そうこうしている内にラームは2階から足を滑らして落下し、頭を強く打って倒れる。気が動転したニローシャーはゴーヴィンドや緊急通報用電話番号に電話をするが、大雨のため回線が弱くなっており、なかなかつながらない。ニローシャーはラターに電話を掛ける。ラターは、突然知らない女性から電話が掛かって来たことに驚きながらも、電話で応急処置を指示する。

 ラターは別荘にやって来て、ラームをベッドに寝かせる。ひとまず命に危険はなさそうだった。ラターは、ニローシャーがラームの浮気相手であることを知り失望するが、彼女が妊娠していると聞いてショックを受ける。しかも彼女を診断したのはラター自身だった。中絶をしようとしたニローシャーを止めたのも彼女だった。意識を取り戻したラームは、ニローシャーと結婚したいと言い出す。

 傷心のラターはラームをニローシャーに託して帰宅する。翌日、ラームが死んでいるのが発見され、警察が呼ばれる。ニローシャーは逮捕され、ラーム殺人の容疑を掛けられて有罪になる。実はラームを殺したのはラターであったが、ニローシャーに対する復讐のために全てを仕組んだのだった。

 ほとんど密室で進む物語だが、途中で大きな転換が少なくとも3回あり、その度に映画の雰囲気がガラリと変わるため、飽きさせない作りになっている。

 最初の場面では、ラームとニローシャーが彼の別荘で情事を繰り広げようとする。別荘にはゴーヴィンドという管理人がいたが、ラームは彼の目の前でニローシャーと浮気をする。なかなか度胸ある浮気である。ニローシャーは妊娠2ヶ月であることを告げるが、それを聞いてラームは驚き喜ぶ。浮気相手の妊娠は普通ならば男性にとって厄介事になるはずだが、妻のラターとの間に子供がおらず、諦めていたため、浮気相手の妊娠は吉報だったのである。ニローシャーはラームに、ラターとの離婚と自分との結婚を要求するが、ラームは即答を避けた。

 ラームが2階から足を滑らせて落下し、頭を強く打ったことで、第二の場面が始まる。大雨が降っていたため、交通や通信に支障が出ており、ニローシャーは思うようにラームの治療ができなかった。最終的に彼女はラターと連絡を取る。ラターは別荘にやって来てニローシャーと対峙する。妻と浮気相手が、まずは協力してラームを介抱し、次にラームを巡って火花を散らし始める。年上かつ妻のラターが大人の貫禄を見せるかと思いきや、意外にニローシャーに対して細かく攻撃をし、ニローシャーも怯まずに反撃をする。ニローシャーは、ラームが愛しているのは自分だと言い張るのである。また、ニローシャーがラームの子供を身籠もっていること、そして意識を取り戻したラームがその子供の父親になりたいと言ったことで、ラターは不利な立場に陥る。

 第三の場面は、「金曜日の夜」が明けた翌朝である。ラームは死んでおり、警察が別荘に来て、ニローシャーを逮捕する。ニローシャーは、ラームと結婚して人生が好転すると淡い希望を抱いていたのも束の間、ラーム殺害の容疑を掛けられてどん底に落ちる。彼女をはめたのがラターであった。ラームを殺したのもラターだったのだが、彼女は別荘を訪れた証拠を残さず、逆にずっと自宅にいた証拠を捏造して、ニローシャーをはめる。ニローシャーは法廷で無実を訴えるものの、全ての証拠は彼女に不利に働き、とうとう有罪になってしまう。

 結局のところ、「One Friday Night」は、浮気をされた妻が夫と浮気相手に復讐を完遂して終わる映画であった。浮気をして事故に遭い重傷を負ったラームが妻に殺されるのは自業自得であるが、ニローシャーはちょっと可哀想な気もする。ニローシャーが身籠もっていた子供がどうなったのかについても触れられていない。何より、ラターのニローシャーに対する復讐が大人げないように感じる。よって、決して後味のいい映画ではなかったが、場面ごとに雰囲気がガラリと変わって、それぞれに緊迫感があるため、一定の楽しさはあった。

 久々に映画で演技をしているのを観たミリンド・ソーマンだったが、出番は少なかった。それでも若い女性との浮気にウキウキする男性の姿を生き生きと演じており、印象は残していた。ただ、この映画は何といってもラヴィーナー・タンダンの映画だ。夫の浮気を知り、その浮気相手と対峙するときの妻の心情や態度を迫真の演技で演じ切っていた。また、まだ若手だが、往年の名女優であるラヴィーナーとほぼ一対一で向き合いながら一歩も引かなかったヴィディ・チタリヤーにも賞賛を送りたい。

 「One Friday Night」は、ラヴィーナー・タンダンが「サレ妻」を演じる、不倫と殺人と復讐のスリラー映画だ。少人数の俳優と限定されたロケーションで構成された低予算映画ではあるが、大きな転換点がいくつかあり、それぞれに違った緊張感があって、飽きずに観ることができる。派手さはないが観て損はない佳作である。