Gaslight

3.5
Gaslight
「Gaslight」

 2023年3月31日からDisney+ Hotstarで配信開始された「Gaslight」は、元封建領主の邸宅を舞台にしたスリラー映画である。

 監督はパヴァン・キルパーラーニー。「Ragini MMS」(2011年)や「Phobia」(2016年)で知られる監督であり、ホラー映画やスリラー映画を得意とする。主演はサーラー・アリー・カーン、ヴィクラーント・マシー、チトラーンガダー・スィン。他に、アクシャイ・オーベローイ、ラーフル・デーヴ、シシル・シャルマー、シャターフ・フィガールなどが出演している。

 ミーシャー(サーラー・アリー・カーン)は久しぶりに故郷のグジャラート州モールビーに戻ってくる。父親のラタン・スィン・ガーイクワード(シャターフ・フィガール)に会うためだった。ミーシャーは父親と親密な関係にあったが、母親が自殺し、父親が愛人ルクマニー(チトラーンガダー・スィン)と再婚したことで家を出た。ミーシャーは交通事故に遭って歩行できなくなり、車椅子生活をしていた。

 ミーシャーが家に帰ると、ルクマニーはいたが父親はいなかった。不審に思ったものの、ミーシャーは自分の部屋に入り、父親の帰りを待つ。だが、彼女は父親の亡霊を見るようになる。父親の身に何かが起こったと直感したミーシャーは、ラタンの右腕であるカピル(ヴィクラーント・マシー)に何があったのかを聞くが、彼は答えてくれなかった。だが、徐々に彼女はラタンが既に亡くなっていると考え始める。問題は、父親がどうして死んだのかだった。

 ミーシャーは、従兄弟のラーナー・ジャイ・スィン(アクシャイ・オーベローイ)やアショーク・タンワル警視(ラーフル・デーヴ)など、ラタンの周辺にいた人物とも会う。最初、ミーシャーはルクマニーとラーナーの仲を疑う。だが、ラーナーはラタンに邸宅をヘリテージホテル化する計画を持ちかけて多額の借金をしており、ラタンを殺す理由がなかった。ただ、ラーナーからは、ルクマニーが妊娠しているとの情報を得る。次にミーシャーは、昔からルクマニーに片思いしていたアショーク警視を疑う。

 だが、ラーナーが何者かに殺された。ミーシャーは、ラタンの愛犬を使って父親の遺体を捜索し、井戸の中から発見する。だが、彼女はカピルに襲われ、湖の中に突き落とされる。実はカピルが全ての黒幕だった。ルクマニーはカピルと浮気関係にあったが、ラタンに見つかり、カピルはラタンを殺してしまう。二人は遺体を井戸の中に沈め、ミーシャーを家に呼び寄せた。そして彼女にラタンの幻影を見せ、情緒不安定だと世間に知らしめようとしていたのだった。

 ところが、ミーシャーは生きていた。しかも、彼女はミーシャーではなかった。かつてラタンの家で働いていた使用人の娘で、ファーティマーという名前だった。交通事故に遭って入院したミーシャーと再会し、彼女と友人になった。ミーシャーは父親に会おうとしたが彼は現れず、裏切られたと感じて自殺してしまった。ファーティマーは医者のシェーカーワト(シシル・シャルマー)と協力し、ミーシャーになりすまして邸宅に戻って、何が起こったのかを突き止めようとしたのである。

 ルクマニーはファーティマーに謝るが、そこへカピルが現れ、暴れ出す。カピルはファーティマーを殺そうとするが、誤ってルクマニーを殺してしまう。ファーティマーを追いつめたカピルは彼女を撃とうとするが、銃は暴発し、自身が命を落としてしまう。

 車椅子に乗った主人公ミーシャーが、わだかまりのあった父親と再会しに久しぶりに邸宅に戻るが、そこに父親の姿はなく、代わりに様々な怪奇現象に直面するというスリラー映画である。脚本は緻密に作られているが、配置や設定が整いすぎていて、逆に結末の予想がしやすい映画でもあった。例えば、ミーシャーは車椅子に乗っていたが、実は歩くことができた。このようなスリラー映画にはありがちな仕掛けだ。「Kahaani」(2012年/邦題:女神は二度微笑む)の主人公は妊婦だったが、実は妊娠していなかったというオチだったのを思い出す。また、父親の亡霊だと思われたものもそうではなく、終盤にはそれはカピルが作り出したものだったことが明かされる。これも、十分に予想が可能だった。

 この映画の最大の見所は主要キャストの重厚な演技だ。特にサーラー・アリー・カーンは今まで軽めの映画に出演してきたため、このようなシリアスな演技を見せたのは初めてになる。彼女が今回演じたのは「姫」と呼ばれる王族の娘だ。実際には違うのだが、中盤まではそれが明かされないため、王族としての威厳を含む演技をしなければならない。その点、サイフ・アリー・カーンの娘としてパタウディー王家の血を引いているサーラーはうってつけだった。キャリアベストの演技と評価していいだろう。

 ヴィクラーント・マシーも、物語を左右する重要な役を演じ切っていた。忠実な部下として登場し、最後はサイコキラーと化す。それらを連続性のある演技で見事に表現していた。ナワーズッディーン・スィッディーキー、ラージクマール・ラーオなどに続く細身の演技派男優として株を上げている。

 さらに、チトラーンガダー・スィンがさすがの存在感を示していた。彼女もストーリーの進展に伴って表現を巧みに変えていた。当初は封建領主の二番目の妻として、威厳と色気を放っていたが、終盤には夫を殺してしまった罪や使用人の子供を身籠もってしまった後ろめたさに苛まれ、弱さを前面に押し出す演技をしていた。

 カメラワークにも意味が持たせられており、ゆっくりと視点が移動させることで時間差で観客に物を語り、インパクトを与える表現が何度も使われていた。それがスリルをさらに増進していた。

 脚本に論理的な破綻はあまり感じなかったが、最後に登場人物のほとんどが死んでしまう点はマイナスだと感じた。人が多く死ぬスリラー映画は二流だというのが持論である。

 映画の大半は、グジャラート州のワーンカーネールにあるランジート・ヴィラース宮殿で撮影されている。ワーンカーネール藩王国のマハーラージャーの宮殿だった建物だ。同宮殿はヴィンテージカーの博物館にもなっているが、映画の中にもコレクションらしき自動車が登場した。

 「Gaslight」は、スリラー映画を得意とするパヴァン・キルパーラーニー監督が、絶妙なキャストと共に送る、スリルとサスペンスに満ちた映画である。カメラワークに類い稀な才能を感じるが、ストーリーは整いすぎているとも感じた。観て損はない映画である。