2022年12月16日からDisney+ Hotstarで配信開始された「Govinda Naam Mera(俺の名前はゴーヴィンダー)」は、コメディータッチのクライム映画である。
プロデューサーはカラン・ジョーハルなど。監督は「Humpty Sharma Ki Dulhania」(2014年)や「Badrinath Ki Dulhania」(2017年)のシャシャーンク・ケーターン。キャストは、ヴィッキー・カウシャル、キヤーラー・アードヴァーニー、ブーミ・ペードネーカル、サヤージー・シンデー、レーヌカー・シャハーネー、ダヤーナンド・シェッティー、アマイ・ワーグ、アクシャイ・グナーワト、ジーヴァ・ランジート、ヴィラージ・ゲーラーニーなどが出演している。また、ランビール・カプールとガネーシュ・アーチャーリヤが「Bijli」に特別出演している。
舞台はムンバイー。コレオグラファーのゴーヴィンダー・ワーグマレー(ヴィッキー・カウシャル)は、アクション監督だった父親ゴーピー・ヴィシュワカルマーの遺産として、アーシャー・二ワースという邸宅の所有者だった。だが、妻のガウリー(ブーミ・ペードネーカル)やメイドのマンジューには冷遇されていた。ゴーヴィンダーには、コレオグラファーの同僚スクー(キヤーラー・アードヴァーニー)という愛人がおり、早くガウリーと離婚したかったが、ガウリーは離婚の条件として、結婚時に持参金として支払った2千万ルピーの返却を求めていた。ゴーヴィンダーはガウリーを殺害するため、ジャーヴェード警部補(ダヤーナンド・シェッティー)から銃を密かに購入していたが、その代金の20万ルピーをほとんど支払えておらず、脅されていた。しかも、度胸がないためガウリーを殺せずにいた。そうこうしている内にガウリーは保険会社勤務のバルデーヴ・チャッダー(ヴィラージ・ゲーラーニー)を彼氏にし、堂々とゴーヴィンダーに見せびらかす。 また、ゴーピーはゴーヴィンダーの母親アーシャー(レーヌカー・シャハーネー)と結婚する前にチャルラーターとの間にヴィシュヌ(アクシャイ・グナーワト)という息子を作っていた。ゴーピーの死後、チャルラーター・ヴィシュワカルマーとヴィシュヌはアーシャー・二ワースの所有権を主張し裁判を起こした。ゴーヴィンダーは従兄弟の弁護士カウストゥブ・ゴードボーレー(アマイ・ワーグ)と共に過去15年間にわたって裁判を戦い続けていた。アーシャーは裁判官の同情を得るために半身不随の演技をしていた。 ゴーヴィンダーとスクーは、裕福なプロデューサー、アジト・ダールカル(サヤージー・シンデー)の息子サンディー(ジーヴァ・ランジート)のミュージックビデオを作るが、アジトに気に入られず、製作費300万ルピーを弁償するように言われる。 だが、ある日ゴーヴィンダーは偶然、サンディーの事故現場に遭遇する。麻薬中毒のサンディーは数千万ルピーの価値がある麻薬を所持しながら気を失っていた。ゴーヴィンダーはスクーを呼び寄せ、二人はその麻薬を持って逃走する。ところが二人がアーシャー・二ワースに行くと、ガウリーが血を流して死んでいた。二人はガウリーを地面に埋めるが、マンジューは急にガウリーがいなくなったことを不審に思い、警察に通報する。バルデーヴもガウリーの電話がつながらないことに気付き、マンジューと話をして、ガウリーが殺されたと確信する。実はガウリーは生命保険に加入しており、もし死んだらゴーヴィンダーが2千万ルピーを受け取れることになっていた。バルデーヴはゴーヴィンダーを呼び寄せ、2千万ルピーの山分けを提案する。また、ゴーヴィダーは敗訴濃厚になり、ヴィシュヌにアーシャー・ニワースを2千万ルピーで売る取引をする。 アジトはサンディーから大量の麻薬を紛失したことを知り、その行方を追う。ゴーヴィンダーが盗んだと聞いたアジトはジャーヴェード警部補を使ってゴーヴィンダーを逮捕させ、彼の家を捜索させるが、何も見つからなかった。スクーも逮捕され、ゴーヴィンダーがガウリーを殺したと主張する。ところが、ガウリーの遺体を埋めた場所を掘り起こしても何もなかった。一方、なぜかジャーヴェード警部補の家から銃や麻薬が見つかる。また、実はアーシャー・ニワースはゴーピーが違法に購入した土地に建っており、本来ならば学校が建てられるはずだった。アーシャー・ニワースはムンバイー市局に封鎖され、ヴィシュヌは大損をする。さらに、警察はアジトの家を家宅捜索し、麻薬を見つける。 半年後。ヴィシュヌ、チャルラーター、そしてスクーはゴーヴィンダーから電話を受け取り、バンコクに呼ばれる。そこにはゴーヴィンダー、アーシャー、カウストゥブの他になんと死んだはずのガウリーまでいた。ゴーヴィンダは、スクーがヴィシュヌと結託していることを知り、密かに大逆転のチャンスをうかがっていた。彼はアーシャーやガウリーを味方につけ、今回の茶番劇を企画したのだった。ヴィシュヌ、チャルラーター、スクーは真実を知って気を失う。
歌と踊りが特徴のインド映画に、ダンスの振付を行うコレオグラファーの存在は欠かせない。「Govinda Naam Mera」は、売れないコレオグラファーが主人公の映画であり、業界の内情を垣間見せてくれるような内容を期待してしまう。しかしながら、主人公のゴーヴィンダーがコレオグラファーである必然性はあまりなく、コレオグラファーがどのような仕事なのかを詳しく描出してくれる映画でもなかった。ランビール・カプールがカメオ出演するダンス「Bijli」を含めて、ダンスシーンはあるのだが、コレオグラフィーが主人公の映画である割にはそれほど多くはない。
インドでは、詐欺師や泥棒などが華麗に人を騙して金品を巻き上げる様子を描いた「コン映画」が人気で、この「Govinda Naam Mera」もそれに分類される。借金で首が回らなくなり、妻からも冷遇されるゴーヴィンダーは自殺をしようとするが、一発逆転のチャンスが舞い込み、事件に巻き込まれていくという筋書きだったが、実はゴーヴィンダーは、異母兄弟にあたるヴィシュヌや、彼と結託して自分と付き合う振りをし情報を横流ししていたスクーを騙し、一獲千金を狙っており、彼の計画した筋書き通りに物語が進んでいたことが最後になって明かされる。観客も見事に騙される爽快感を味わうことができる映画だ。
どんでん返しを盛り込んだアップダウンのある脚本に加えて、登場人物にも相当なクセが付けられており、そのクセのあるキャラたちがお互いに出し抜き合戦をするのもこの映画の醍醐味だ。ゴーヴィンダーもかなりぶっ飛んだキャラだったが、ガウリーの愛人バルデーヴや麻薬中毒のミュージシャン、サンディーなど、脇役にも細かく個性付けが行われていた。
「Govinda Naam Mera」は、何と言っても主演ヴィッキー・カウシャルのためにあるような映画だ。「Sanju」(2018年/邦題:SANJU サンジュ)あたりから急速に台頭し、21世紀のヒンディー語映画界を代表する美人女優カトリーナ・カイフと2021年に結婚して、「Sardar Udham」(2021年)のような高評価の映画にも主演した。ヴィッキーは次世代スターの有力な候補だ。どちらかというとシリアスな演技を志向している俳優かと思いきや、この「Govinda Naam Mera」ではひょうきんな演技に挑戦しており、いろいろな役を演じられることを証明した。ちなみに、今回彼が演じたゴーヴィンダーの父親はアクション監督という設定だったが、ヴィッキーの実の父親シャーム・カウシャルもアクション監督だった。運動神経の良さを受け継いでいるのか、ヴィッキーのダンスもなかなかのもので、ますます今後に期待が掛かる。
キヤーラー・アードヴァーニーとブーミ・ペードネーカルのダブルヒロイン態勢で、当初はメインヒロインはキヤーラーの方だと思わせられるが、中盤でキヤーラーは悪役に転落し、代わってブーミがおいしいところを持っていく。ゴーヴィンダーの父親は二人の妻を持ち、それが息子の代にトラブルの元になるが、ゴーヴィンダー自身もガウリーと結婚しながらスクーと不倫をし、ガウリーもバルデーヴという浮気相手を作る。全く人間関係が崩壊した家庭であるが、あっけらかん、かつコミカルに描写されているので悲愴感はない。しかしながら、最後はちゃんと夫婦が元の鞘に戻るところが、古き良きインド映画の伝統を引きずっていると感じさせられた。
「Govinda Naam Mera」は、マラーラー映画とは異なる形で様々なジャンルを一本に詰め込んだ作品になっている。ブラックコメディー映画でもあり、コン映画でもあり、スリラー映画でもあり、夫婦喧嘩の映画でもあり、コレオグラファーの映画でもある。つまらない映画ではないが、詰め込みすぎのような印象も受けた。ヴィッキー・カウシャルがスターとしての風格をかなり身に付けていることにも注目したい。