2022年11月23日にShemarooMeで配信開始された「Murder at Koh e Fiza」は、2000年代に流行した「スキンショー(肌見せ)」型のスリラー映画である。
監督はディヴァーカル・ナーイク。デーヴィッド・ダワン監督の助監督などを務めてきた人物で、本作が監督デビュー作となる。主演はシュレーヤー・ナーラーヤン。「Saheb Biwi aur Gangster」(2011年)や「Rockstar」(2011年)などで脇役を務めてきた女優だ。他にアミトリヤン・パーティール、サニー・チャウハーン、アクラム・カーンなどが出演しているが、皆、無名の俳優たちばかりである。
マディヤ・プラデーシュ州ボーパールのTLF建築社に、CEOを殺害して自らがCEOになったヴィクラム(アミトリヤン・パーティール)は、会社の金を使い込んでクビになる。妻のカンガナー(シュレーヤー・ナーラーヤン)は、ヴィクラムに多額の保険金が掛けられていたのを思い出し妙案を思い付く。
それから数日後、ヴィクラムの自動車と人体の一部が湖から発見される。警察は事故と断定し、ヴィクラムの葬儀が行われる。その後、保険会社の調査員ウダイ・サクセーナー(サニー・チャウハーン)がカンガナーを訪ねてやって来る。ウダイはカンガナーのセクシーな身体に惹かれてしまう。ウダイはカンガナーをつけ回すようになるが、その過程でヴィクラムが生きていることを知ってしまう。しかし、カンガナーはウダイを誘惑し、彼を共謀者に引き入れる。
その後、黒焦げになった自動車が発見される。それは以前に盗難に遭ったヴィクラムの自動車であった。車内からは遺体も発見された。ウダイがカンガナーの言われるがままにヴィクラムを殺したのだった。カンガナーは警察に呼ばれ確認をする。ラージヴィール・スィン(アクラム・カーン)がこの件を担当する。カンガナーはラージヴィールも誘惑し、二人は肉体関係になる。それから間もなくしてカンガナーは10億ルピーの保険金を手にする。
ウダイは酒を飲むと豹変した。カンガナーはそれを利用し、ウダイから暴力を受けているとラージヴィールに訴える。ラージヴィールはウダイを射殺し、遺体を埋める。その後、ラージヴィールはカンガナーと連絡が取れなくなる。カンガナーからは彼が遺体を埋めているところなどを写した写真が送られて来る。そのときカンガナーは空港で死んだはずのヴィクラムと共に高飛びしようとしていた。
悪知恵の働くカンガナーという女性が、彼女の妖艶な肢体に魅せられた男性たちを次々に籠絡し私利私欲のために利用していくというヴァンプ映画であった。ただし、最初に被害に遭ったと思われていた夫ヴィクラムが実はカンガナーの共謀者で、最後には二人で多額の保険金を騙し取り高飛びするというオチになっていた。
ヴィクラム・バット監督辺りが好きそうな作りのセクシー系B級映画だが、実はB級映画を作るにもある程度の才能が要る。ディヴァーカル・ナーイク監督にはB級映画を作るだけの才能もなかったし、俳優たちも小粒で演技に迫力がなかった。つまり、ほとんど救いようのない映画になっていた。
スリラー映画なので最低限のスリルとサスペンスが不可欠なのだが、この映画にそのようなものは存在しない。おそらく最後でヴィクラムが生きていたことをサプライズとして映画をまとめたかったのだろうが、この結末を予想できない人がいるのだろうか。子供だましの映画としかいいようがない。
題名にもなっている「コーヘフィザー(Koh-e-Fiza)」は実在する地名で、ボーパールのシンボルであるアッパー湖の湖畔に位置している。ボーパール随一の観光名所タージ・ウル・マスジドもこの地域にある。ヴィクラムの死は二度偽装されたが、その内の最初の偽装では、湖に彼の自動車を沈ませることで演出された。彼の遺体はワニに食べられたことになっていたが、ボーパールの湖には実際にワニが生息しており、時々人間が襲われる。
「Murder at Koh e Fiza」は、B級映画を作るのにも一定の才能が要るということをまざまざと知らしめてくれる作品だ。才能のない監督がB級映画を撮ると、それはB級映画にもならない。避けるべき映画である。