値段の聞き方

 インドの市場では値段は交渉制であり、値札は付けられていない。欲しい商品があった場合は、店の人に値段を聞く必要がある。野菜や果物の場合はバラ売りではなくキロ売りのことがほとんどで、1キロいくらの値段を答えられる。欲しい重さを伝えると、天秤で量ってくれる。

 「いくら?」という意味のヒンディー語の疑問詞は「कितनाキトナー」である。形容する名詞の性によって格変化するが、細かいことは気にせず、どんな商品に対してもこの言葉を使って値段を聞いて差し支えがない。ヒンディー語は市場で発展した言語ともいわれており、わざわざ外国人の使うヒンディー語の言葉尻を捉えて文法の間違いを指摘してくる人は皆無だ。

 少し慣れてくれば、「दामダーム」や「भावバーウ」といった「値段」や「相場」という意味の言葉と共に値段を聞くこともできるようになるだろう。「दाम क्या है?ダーム キャー ハェ」、「भाव क्या है?バーウ キャー ハェ」といった具合だ。

 しかしながら、インド人が市場で野菜や果物などの値段を聞く際にもっともよく使うフレーズは、「कैसे दिए?カェセー ディエー」になる。直訳すると「どのように与えましたか?」という意味になり、ヒンディー語の文法を一通り理解した者にとっては逆に違和感を感じるフレーズである。文末の「देनाデーナー」は完了形で、文法上の主語の性数に応じて活用する。

 なぜこのように言うのか、インド人に聞いてもあまりしっくり来る説明をしてもらえない。このフレーズに込められた意図は、「कैसे देते हैं?カェセー デーテー ハェン」、つまり「どのように与えていますか?」なのだが、殊に市場での値段交渉の場では、「कैसे दिए?カェセー ディエー」の方が一般的である。

 無理矢理解釈するならば、「前の客にいくらでこれを売りましたか?」ということなのだろう。前の客と同じか、それ以下の値段でその商品を買ってやろうという意気込みの表れと取ることができる。

 子供向けの動画ではあるが、YouTubeにもこのフレーズをフィーチャーしたヒンディー語の歌が上げられている。

KAISE DIYE - Funny Vegetable Song | Sabzi Wala Bhaiya | Mimi Teddy teaches Bargaining | Funzoa Video

 ヒンディー語「Phamous」(2018年)でも、マーヒー・ギル演じるロージーが市場でニンジンを買う際に「काका, गाजर कैसे दी?カーカー ガージャル カェセー ディー」と言っている場面があった。「おじさん、ニンジンいくら?」という意味である。ちなみに、「ニンジン」という意味の「गाजरガージャル」は女性名詞である。