ミステリーを医師の主人公が科学と理性で解決する筋書きが受けたテルグ語映画「Karthikeya」(2014年)の続編「Karthikeya 2」が2022年8月13日に公開された。前作のヒンディー語吹替版は公開されていないはずだが、この間に映画を巡る状況が激変し、「Karthikeya 2」はテルグ語オリジナル版と同時にヒンディー語吹替版も同時公開された。この週には、アーミル・カーン主演の「Laal Singh Chaddha」(2022年)とアーナンド・L・ラーイ監督の「Raksha Bandhan」(2022年)という話題作が公開されたのだが、この2作が振るわなかった代わりに「Karthikeya 2」がヒットとなり、ますますヒンディー語映画の不振とテルグ語映画の好調が浮き彫りになったのだった。
「Karthikeya 2」の監督は前作に引き続きチャンドゥー・モーンデティ。主演も変わらず、ニキル・スィッダールタ。他にも若干、トゥラスィー、プラヴィーン、サティヤなど、前作と共通のキャストがいるものの、ヒロインはアヌパマー・パラメーシュワラムに交替している。また、ヒンディー語映画界のベテラン俳優アヌパム・ケールが出演している。他に、シュリーニヴァーサ・レッディー、アーディティヤ・メーナン、ハルシャ・チェムドゥなどが出演している。
ヒンディー語吹替版を鑑賞した。
ハイダラーバード在住の医師カールティケーヤ(ニキル・スィッダールタ)は、クリシュナ神を信仰する母親(トゥラスィー)の付き添いで、グジャラート州のドワールカーへ行く。ある晩、カールティケーヤは血まみれの謎の老人と出会う。その老人はいなくなってしまうが、それ以来、彼は事件に巻き込まれていく。 カールティケーヤは警察に逮捕され、老人から何を言われたのか尋問される。すると今度は謎の女性が現れ、彼を助ける。老人は考古学者ランガナータ・ラーオであり、その女性はラーオの孫娘ムグダー(アヌパマー・パラメーシュワラム)であった。また、カールティケーヤは、クリシュナ神の狂信者部族アビーラーに命を狙われるようになる。カールティケーヤとムグダーは、ベート・ドワールカーへ行き、ラーオのオフィスで手紙を見つける。それによると、彼は、すぐにやって来る疫病の大流行を止めるため、クリシュナが親友ウッダヴァに託した足首飾りを探していた。 カールティケーヤは、足首飾りの手掛かりとなる孔雀の彫刻を見つけ出し、そこに刻まれていた刻印をヒントに、ムグダー、叔父のサダーナンダ(シュリーニヴァーサ・レッディー)、そしてトラック運転手のスレーマン(ハルシャ・チェムドゥ)と共に、マトゥラーのゴーヴァルダン山を目指す。しかし、同じく足首飾りを追うシャンタヌ・ムカルジー(アーディティヤ・メーナン)はカールティケーヤとムグダーをお尋ね者にして捜索する。 カールティケーヤたちは、ゴーヴァルダン山の洞窟で望遠鏡を見つける。その望遠鏡の秘密を教えてもらうため、ヒマーチャル・プラデーシュ州の山奥に住む学者ダンヴァントリー・ヴェードパータク(アヌパム・ケール)を訪ねる。ダンヴァントリーは、古代の科学技術が現代を凌駕していたと明かし、その技術を手中に収めようとする秘密組織が存在すると伝える。ラーオとシャンタヌもその一員だったが、シャンタヌたちが金儲けのために古代技術を使おうとしたため、ラーオは独自に足首飾りを探し、殺されたことが分かる。ダンヴァントリーは、チャンドラシラー山の山頂で望遠鏡を使うように助言する。 カールティケーヤたちはチャンドラシラー山を目指すが、途中で警察に囲まれ、凍った河の上を走行して脱出する。トラックがガス欠になり、氷の下に沈むと、今度はアビーラーの襲撃を受ける。だが、アビーラーはクリシュナパクシャ(黒分)には殺人をしないルールを持っており、彼らは死を免れた。カールティケーヤはチャンドラシラー山の山頂で望遠鏡を使い、足首飾りの位置を確認する。 カールティケーヤはクリシュナの像に望遠鏡と孔雀の彫刻をはめ込み、足首飾りを手にする。このおかげで世界は疫病の流行を免れた。だが、休む間もなくカールティケーヤは次の冒険に出掛けていた。
前作「Karthikeya」は特に大したことのない作品だったのだが、意外なヒットとなり、続編まで作られることになった。もしかしたら続編はかなりブラッシュアップされているのかもしれないと思って観てみたが、やはり弱い作品だった。基本的には古代の遺物を見つけ出すアドベンチャー映画であり、「インディー・ジョーンズ」シリーズや「トゥームレイダー」シリーズを思わせる作りなのだが、筋書きがあまりに単調で、謎がどんどん解決されて前へ進んでいき、アップダウンや溜めがほとんどない。結果として、緩急のない、ダラダラした映画になってしまっていた。それでも、「Laal Singh Chaddha」よりもヒットしてしまうのだから、最近のインドの映画市場動向は予測が難しい。
インドは神話や伝承の宝庫であり、それを活用して現代的な映画を作り上げようとするのは自然なことだ。むしろ、今までそういう発想があまりなかったのが不思議なくらいだ。近年は、インド神話に立脚したフィクション映画作りが流行している。
「Karthikeya 2」ではクリシュナ神話(参照)を軸に物語が進む。クリシュナはインド全土で信仰されているものの、特に北インドで盛んであり、関連の聖地も北インドに集中している。「Karthikeya 2」がクリシュナを物語の下地に選んだのも、テルグ語圏だけでなく、汎インド的なアピールと受けを狙ってのことだと想像できる。神話において、晩年のクリシュナが統治したとされるドワールカーや、クリシュナ幼少時のエピソードに登場するゴーヴァルダン山などが映画の舞台になっており、テルグ語映画ながら、舞台のほとんどは北インドである。また、クリシュナを「万能の科学者」と呼び、彼の遺物に古代科学技術の粋が秘められているという超解釈の設定も面白かった。
問題は、次から次に事件が起きる中で、彼らが何をしているのか段々分からなくなってくることだ。2020-22年の新型コロナウイルスによるパンデミックを思わせる言及があるが、元々は疫病の世界的大流行を防ぐために、クリシュナがウッダヴァに託した足首飾りが必要で、それを探しているということだった。だが、足首飾りに辿り着くためにまずは孔雀の彫刻を手に入れ、次に望遠鏡を手に入れと、あまりに踏まなければならないステップが多く、それらが怒濤の如く流れていく。さらに、その合間にアビーラーによる襲撃や警察などによる妨害も入り、しかも途中でヒロインのムグダーが裏切ったと思われるシーンもあって、話の筋を見失ってしまう。
チャンドゥー・モーンデティ監督は、デビュー作の「Karthikeya」でいきなりヒットを飛ばし注目を集めたが、たまたま低予算で作られた映画がまずまずの興行成績を上げて利益を上げただけで、監督としての熟成が足りていなかった。その後の映画はフロップ続きであり、「Karthikeya 2」でようやく再びヒットを送り出すことができた。この映画にしても大した作品ではなく、その成功の理由は不明だが、今後、彼は「Karthikeya」シリーズしか作れない監督になっていくのではないかと危惧される。
主演のニキル・スィッダールタは、テルグ語映画界にひしめく大スターの数々に比べたら地味な俳優だ。やはり「Karthikeya」の成功で波に乗り、この「Karthikeya 2」の大ヒットで名実共にスターの仲間入りをしている。ヒロインのムグダー役を演じたアヌパマー・パラメーシュワラムは、登場シーンと中盤の裏切りシーンで多少の出番は与えられていたものの、人物設定がしっかりしておらず、何だかよく分からない人物で終わってしまっていた。
「Karthikeya 2」は、前作で寺院の謎を解明した医師が、今度は世界を救うためにクリシュナの遺物を探し出そうとするアドベンチャー映画である。興行的には大ヒットしているのだが、中身は薄く、その成功の原因をうまく分析することができない。内容はともかくヒットした映画を押さえておきたいならば観てもいい作品である。