ヒンディー語には以下の代名詞がある。
主格 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
1人称 | मैं 私は | हम 私たちは |
2人称 | तू お前は | तुम/आप お前たちは/あなたたちは |
3人称(近称) | यह これは | ये これらは |
3人称(遠称) | वह あれは | वे あれらは |
代名詞は格変化をするが、上表の主格(~は)の他に、属格(~の)と後置格しかない。
属格は以下の通りである。
属格 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
1人称 | मेरा 私の | हमारा 私たちの |
2人称 | तेरा お前の | तुम्हारा/आपका お前たちの/あなたたちの |
3人称(近称) | इसका 彼/彼女の | इनका 彼ら/彼女らの |
3人称(遠称) | उसका 彼/彼女の | उनका 彼ら/彼女らの |
属格は、後に続く名詞の性に従って形容詞変化する。例えば、「मेरा」は男性名詞単数形の前の形であり、これが男性名詞複数形の前だと「मेरे」、女性名詞の前だと「मेरी」になる。
後置格は、時に斜格とも呼ばれるが、後に後置詞(英語の前置詞にあたる語)が続く形のことをいう。数ある後置詞を使いこなすことで、対格(~を)、処格(~にて)、奪格(~から)などの意味を加える仕組みになっている。
後置格 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
1人称 | मुझ 私 | हम 私たち |
2人称 | तुझ お前 | तुम/आप お前たち/あなたたち |
3人称(近称) | इस これ/この | इन これら/これらの |
3人称(遠称) | उस あれ/あの | उन あれら/あれらの |
代名詞の後置格は、後に後置詞を伴って使用されるが、後置詞「को」と共に目的語となることが多い。
後置格+को | 単数 | 複数 |
---|---|---|
1人称 | मुझको 私を | हमको 私たちを |
2人称 | तुझको お前を | तुमको/आपको お前たちを/あなたたちを |
3人称(近称) | इसको 彼を/彼女を/これを | इनको 彼らを/彼女らを/これらを |
3人称(遠称) | उसको 彼を/彼女を/あれを | उनको 彼らを/彼女らを/あれらを |
「後置格+को」には「आपको」を除き、融合し短縮された形が用意されている。どちらもよく使う。
後置格+कोの融合形 | 単数 | 複数 |
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1人称 | मुझे 私を | हमें 私たちを |
2人称 | तुझे お前を | तुम्हें お前たちを |
3人称(近称) | इसे 彼を/彼女を/これを | इन्हें 彼らを/彼女らを/これらを |
3人称(遠称) | उसे 彼を/彼女を/あれを | उन्हें 彼らを/彼女らを/あれらを |
以上が一般的なヒンディー語文法の教科書に載っている事項である。
だが、口語ではこれに加えて、「後置詞+को」として、1人称単数「मेरे को」と2人称単数「तेरे को」という言い方も一般的になってきており、ヒンディー語映画の台詞や歌詞の中にもこの形がかなり見られるようになった。これらは、本来ならばそれぞれ「मुझको」「तुझको」であるべきところが、「代名詞属格(男性後置形)+को」になってしまっている。
例えば、「Agent Vinod」(2012年/邦題:エージェント・ヴィノッド 最強のスパイ)の「Pyaar Ki Pungi」ではサビの部分で「मेरे को」が使われている。
ओ मेरी जान ओ मेरी जान
मेरे को मजनू बना दे
ああ愛しい人よ
僕を狂わせておくれ
「तेरे को」の用例は歌詞には少ないのだが、映画の副題になっているものがある。「Chot – Aaj Isko Kal Tereko」(2004年)である。「傷:今日は彼に、明日はお前に」という意味である。
「मेरे को」「तेरे को」は若者言葉というよりも訛りであり、こういう言い方をすることで、田舎者の雰囲気やぶっきらぼうな感じを出すことができる。映画の中でこの言い方をするキャラは、十中八九、上流階級やインテリの設定ではないと断言できる。ただし、歌詞の中に出て来る場合、韻律を合わせるために使われることはあるかもしれない。「को」以外の後置詞、例えば「~から」という意味の「से」と一緒に使われることもある。つまり、「मुझसे」「तुझसे」の代わりに「मेरे से」「तेरे से」になる。
実は「मेरे को」「तेरे को」のかなり古い用例もある。1920年代から30年代に活躍した小説家プレームチャンドの作品の中で使われているのである。彼の短編小説「गुरु-मंत्र」(1926年)に以下のような用例が見られる。
माई मेरे को भोजन करा दे, तेरे को बड़ा धर्म होगा। ちょっと、ワシに食事をおくれ、あんたに大した果報があるよ。
サードゥ(遊行者)がサードゥらしい「टेढ़ी हिंदी(曲がったヒンディー語)」の例としてこういう言い方をしており、約100年前から存在した言い方だということが分かる。