Boomika (Tamil)

3.0
「Boomika」

 普段はヒンディー語映画を中心に観ているが、たまにはインドの他の言語の映画も嗜んでおかなければと思う。とは言え、ヒンディー語映画を見尽くした暁にはそういうこともあるだろうが、今のところはよっぽど興味を引かれた映画しか鑑賞していない。

 2021年8月22日にタミル語のTVチャンネル、ヴィジャイTVで公開され、翌日からNetflixでも配信開始された「Boomika」は、初の「エコ・アクション・スリラー」映画とのことで興味を引かれた。元々はタミル語映画だが、ヒンディー語を含む多言語で作られている。鑑賞したのはヒンディー語版である。

 監督はラティンドラン・R・プラサード。主要登場人物は4-5人いるが、スター級の知名度を持つのはアイシュワリヤー・ラージェーシュのみである。他の、ヴィドゥ、スーリヤー・ガナパティ、マードゥリー、アヴァンティカー・ヴァンダナプは新人扱いである。さらに、パーヴェル・ナガギータン、プラサンナ・バーラチャンドランなどが出演している。

 野心的な建築家のゴウタム(ヴィドゥ)は、森林の中に埋もれた広大なキャンパスを持つ学校跡の開発の視察のために、妻で児童心理学者のサム(アイシュワリヤー・ラージェーシュ)、息子のスィド、妹のアーディティ(マードゥリー)、そして友人のガーヤトリー(スーリヤー・ガナパティ)と共に現地を訪れた。学校を管理するダルマン(パーヴェル・ナガギータン)が彼らを迎える。ところが、電波もなくバッテリーもない携帯電話からメッセージが届いたり、突然停電になったりと、怪奇現象が続く。敷地を出ようとしたが、自動車のエンジンが始動せず、門の外には野犬が群れを成していた。

 彼らは、この怪奇現象を起こしているのが、かつてこの学校の司書をしていたガネーシャン(プラサンナ・バーラチャンドラン)の娘ブーミカー(アヴァンティカー・ヴァンダナプ)の霊であることを突き止める。ブーミカーは自閉症の少女だったが、天才的な絵の才能を持っていた。彼女は自然そのもので、キャンパスの自然が破壊されるたびに苦痛を感じるようになった。とうとうブーミカーは、切り倒されようとする木に頭をぶつけて死んでしまう。以後、キャンパス内にはブーミカーの霊が現れるようになり、開発に関わる労働者や関係社が次々に殺された。学校は閉鎖され、周辺部からも村人がいなくなってしまった。

 恐怖のために気の触れたアーディティが、ブーミカーからのメッセージが送られて来る携帯電話を破壊したことで、ブーミカーの霊が可視化されて現れる。アーディティ、ガーヤトリー、ダルマンはブーミカーに攻撃されて気を失ってしまう。ゴウタムとサムは、一旦は自動車に乗って逃げ出すが、息子のスィドを置いて来たことに気付き、引き返す。スィドは無事だったが、ブーミカーと出会ったことで、彼は言葉がしゃべれるようになる。

 夜が明け、怪我をした人々も一命は取り留めた。だが、ゴウタムは依然として学校跡の開発計画から引かなかった。もう一度現地を訪れたゴウタムにブーミカーが襲いかかる。

 どういう点が「エコ・アクション・スリラー」なのかとワクワクしながら見始めたが、大部分は典型的なホラー映画の作りである。廃墟となった建物に主人公たちが入り込み、怪奇現象に直面するようになるのだ。最初は、交通事故で死んだはずの友人クリシュナからメッセージが送られて来るということで彼らは怯える。しかも、この辺一帯には電波が届いておらず、その携帯電話からはバッテリーが抜いてあった。にもかかわらず、死者からメッセージが送られて来るのだ。

 だが、当初はメッセージが送られて来るだけで、彼らに危害が加えられることはない。停電になったり、自動車のエンジンが掛からなくなったりはするのだが、ゴウタム、サム、スィド、アーディティ、ガーヤトリー、そしてダルマンが霊に襲われるようなことはない。しかも、サムは児童心理学者で、どんな怪奇現象が起こっても冷静に反応し、科学的に理解しようとするため、あまり恐怖が増幅されない。ホラー映画としてはハプニングに欠ける展開であった。

 彼らと交信しようとしている霊が、クリシュナではなく、ブーミカーという15歳の少女だと分かったことで、かなり物語がクリアになる。ブーミカーは自閉症の少女で、四六時中絵を描いてばかりいた。また、自然の中にいるのが好きな性格だった。と言うよりも、彼女はこの地球そのものであった。学校のキャンパスで開発が始まったことで、自然とつながる彼女は苦しむようになり、やがて自殺のような形で死んでしまう。死後は亡霊となって、キャンパスの自然を破壊しようとする者を殺し始める。

 また、ブーミカーの存在は地球温暖化とも結びつけられていた。人間の身体に病原菌やウイルスが入り込むことで、免疫が働き、発熱する。それと同じように、地球に害がもたらされたとき、地球は温度を上げ、その害の元を死滅させようとする。その現象のひとつが地球温暖化であり、より個別に自然の破壊者に制裁を加える者がブーミカーであった。ESD(持続可能な開発のための教育)やSDGs(持続可能な開発目標)という言葉があるが、「Boomika」は、力技でホラー映画にESDとSDGsのラベルを貼ってしまったような作品であった。

 発想は天才的であるが、映画としての質は最高レベルではなかった。前述の通り、ホラー映画としては中途半端な出来で、特に前半は退屈で冗長な展開が続いた。後半になり、ブーミカーの姿が現れると、ホラー映画としてのグリップ力が急増する。だが、全般的に、理屈抜きで観なければならない作品だ。細かい突っ込み所はたくさんある。例えば、自然の守護者であるブーミカーが、自然にあまり優しくなさそうなスマートフォンを通じて主人公たちとやり取りしようとするというのは、矛盾に感じた。

 演技の面で特筆すべきは、ブーミカーを演じたアヴァンティカー・ヴァンダナプである。彼女はインド系米国人で、両親はテルグ人のようだ。まだブーミカーと同じ15歳くらいの年齢だが、自閉症の少女の役を迫真の演技で演じ切った。生前、自閉症だった少女は、幽霊になっても自閉症であり、その異常な仕草が恐怖の度合いを増していた。

 「Boomika」は、初の「エコ・アクション・スリラー」を銘打ったタミル語映画である。何のことはない、基本的にはホラー映画で、そこにESDやSDGsの概念が取って付けたように盛り込まれている作品だ。変わり種の映画として、話の種にするために観てみるのも一興だろう。