ヒンディー語映画界にホラーがジャンルとして確立して、もうすぐ20年が経とうとしている。だが、インドのホラー映画は、映像と音で観客を驚かし怖がらせることに主眼が置かれており、日本のホラー映画のような「侘び寂び」が感じられないことが長年の不満であった。2020年12月11日からAmazon Prime Videoで配信された「Durgamati」は、最新のインド製ホラー映画である。大ヒットしたテルグ語・タミル語ホラー映画「Bhaagamathie」(2018年)のリメイクであり、どこまでインド製ホラー映画が発展したか、楽しみであった。
監督はテルグ語映画界で活躍するGアショーク。ヒンディー語映画を監督するのは初めてである。主演は「Dum Laga Ke Haisha」(2015年)のブーミ・ペードネーカル。トップスター扱いではないが、技巧を要する役柄を好んで演じており、面白い女優である。他に、アルシャド・ワールスィー、ジーシュー・セーングプター、マーヒー・ギルなどが出演している。
舞台は、マディヤ・プラデーシュ州の密林の中に存在するドゥルガーマティーの邸宅である。かつて、近隣地域を支配していたドゥルガーマティーという女性封建領主の住居だったが、不幸な事件が起こって自殺し、その後、彼女の亡霊が住み着いていると村人たちからは怖れられていた。
ある日、インド行政官僚(IAS)のチャンチャル・チャウハーン(ブーミ・ペードネーカル)がこの邸宅に連行されて来る。チャンチャルは夫シャクティを殺害した罪で服役中だった。彼女が邸宅に連れて来られた理由はこうである。ここのところ、近隣の村で寺院から神像が盗まれる事件が発生していた。また、地元で尊敬を集めるイーシュワル・プラサード(アルシャド・ワールスィー)という政治家を追い落とそうとする動きが活発化していた。中央捜査局(CBI)のサタークシー・ガーングリー(マーヒー・ギル)は、イーシュワルの秘書だったチャンチャルを非公式に尋問して彼の不正を暴こうとしており、チャンチャルの収容場所として、誰も近づかないこの邸宅を選んだのだった。チャンチャルの管理を任せられたのは、シャクティの兄で警官のアバイ・スィン(ジーシュー・セーングプター)であった。導入部は以上の通りである。
幽霊が登場するホラー映画では、幽霊を実在させるか、それとも何らかのトリックとするかで、だいぶ味付けが異なる。幽霊がいるということにすると、その映画はロジックから離れることとなり、完全なるフィクションの娯楽映画とするしかなくなる。一方、幽霊はトリックだとすれば、ロジックが通った作品になり、社会的な要素なども組み込みやすくなるが、娯楽映画としての境界線がどこかに生じる。インド映画では、その中間の道、つまり、トリックなのだが幽霊の実在も匂わせる、というまとめ方の作品が割とある。「Om Shanti Om」(2007年)がその典型例だ。「Durgamati」はこの中間の道を行くホラー映画であった。
単に幽霊屋敷を舞台にホラーに特化するのではなく、政治家イーシュワル、IASのチャンチャル、活動家シャクティとその兄アバイなど、各登場人物の前日譚があって、ドラマがあり、それらが現在に絡むストーリーとなっていたため、奥行きがある映画になっていた。大きなどんでん返しが少なくとも2回あり、そのひっくり返し方も度肝を抜くものであった。よくできた脚本だと感じた。
しかし、編集に未熟さがあり、シーンとシーンがスムーズにつながっていないところがあった。ヒンディー語映画ではあるが、その作りや味付けは完全に南インド映画のものであるのも気になった。確かに「Baahubali」シリーズはヒンディー語圏でも受けたが、南インドのテイストが常に北インドの観客にもしっくり来るかというと、そういう訳でもないだろう。ヒンディー語映画として「Durgamati」を観ると、どうも濃すぎて違和感があった。コメディーシーンや歌のシーンの挿入の仕方も、南インド映画を引きずっていた。南インド映画をそのままリメイクするのではなく、ヒンディー語映画の観客向けにアレンジすることも必要なのではないかと改めて感じた。監督が「Bhaagamathie」と同じテルグ語映画の監督であるため、その辺りのさじ加減が分からなかったのではなかろうか。
何より残念だったのは、この「Durgamati」も、映像と音で観客を驚かせるタイプのホラー映画だったことだ。残念ながら、インド製ホラー映画は20年前からほとんど進化していない。
ブーミ・ペードネーカルは、ドゥルガーマティーが憑依したチャンチャルの演技など、迫真の演技を見せていた。演技力のある女優なので、どんな役でもこなせるだろう。だが、もっと長身でスタイルのいい女優がチャンチャルの役を演じていたら、もっと迫力が出ていたのではないかとも思った。
「Durgamati」は、テルグ語・タミル語映画「Bhaagamathie」のヒンディ-語リメイクであり、演技力で定評のある女優ブーミ・ペードネーカルが主演を務めるホラー映画である。娯楽映画としては見所があるし、インド製ホラー映画の最前線を確認する意味では鑑賞する価値があるが、期待していたほどの出来とまではいかなかった。