By the River (Australia)

2.0
By the Film
「By the River」

 アジアンドキュメンタリーズで配信中の「By the River」は、ウッタル・プラデーシュ州ヴァーラーナスィーにおいて、ガンガー河沿いに点在する「死のホテル」を取り上げた短編ドキュメンタリー映画である。監督はノルウェー系ブラジル人ダン・ブラガ・ウルベスタッド。映画の国籍はオーストラリアで、オーストラリアのアンテナ・ドキュメンタリー映画祭において2019年10月20日にプレミア公開された。邦題は「バラナシ 死のホテル」である。

 ヴァーラーナスィーには、死期を迎えた人々が宿泊する施設がある。ヒンドゥー教徒の間では、ヴァーラーナスィーで死に、ガンガー河の河畔で荼毘に付されて遺灰がガンガー河に流されると、その人の魂は、苦痛の多い輪廻転生の鎖から解き放たれ、解脱できると信じられている。元々は老人や病人の死期が迫るとガンガー河の河畔に放置されたそうだが、英領時代に英国人が街の衛生改善のために死期を迎えた人々のための宿泊施設を造った。それが「死のホテル」や「死を待つ人の家」と呼ばれる施設の起源である。

 以前、「Mukti Bhawan」(2017年/邦題:ガンジスに還る)という映画が日本でも公開され、「死のホテル」はよく知られるようになった。「Mukti Bhavan」はフィクション映画だったが、この「By the River」はドキュメンタリー映画であり、実際に「死のホテル」に住んで死期を待つ人々のインタビューなどが収められている。

 「By the River」の中で取材が行われていた施設は、アッスィー・ガートのムムクシュ・バワン(Mumukshu Bhawan)と、ガウドゥーリヤー・チョーク近くのカーシー・ラーブ・ムクティ・バワン(Kashi Labh Mukti Bhawan)であった。それぞれの施設に住む人々やその運営者のインタビューが行われていた。中には、取材の2週間後に亡くなった人もいた。ちなみに、後者のムクティ・バワンは見学したことがある。

 映像は美しかったが、手厳しいことをいえば、物見遊山な外国人監督が「神秘のインド」を踏襲して映像作品を作り、そのイメージを再生産しているに過ぎないドキュメンタリー映画に映った。「死のホテル」以外にもカメラは観光客目線でフラフラと動き、火葬人カーストであるドームのインタビューが入っていたりと落ち着きがない。「Mukti Bhawan」と併せて鑑賞することでシナジーが期待できるかもしれないし、「死のホテル」の存在を初めて知る人には興味深い映像になるかもしれないが、それ以上の作品ではない。