Door Ke Darshan

3.5
Door Ke Darshan

 「ドゥールダルシャン」といえばインドの国営TV放送局およびその番組の名前で、1991年に自由化されるまでは、インドにはTV局といえばこの一局しか存在しなかった。1980年代のノスタルジーを喚起する事物のひとつとしてドゥールダルシャンはよく引き合いに出される。現在でもドゥールダルシャン(DD)はチャンネルを多角化しながら放送を続けている。

 2020年2月28日公開の「Door Ke Darshan」は、ドゥールダルシャンにまつわるノスタルジーをうまく使ったコメディー映画だ。元々映画の題名は「Doordarshan」だったが、ドゥールダルシャン側から商標侵害の訴えを受け、「Door Ke Darshan(遠くの眺望)」に題名変更をした。

 監督は「The Past」(2018年)でデビューしたガガン・プリー。キャストは、マヌ・リシ、マーヒー・ギル、ドリー・アフルワーリヤー、メハク・マンワーニー、サルドゥル・ラーナー、スプリヤー・シュクラー、ラージェーシュ・シャルマー、アルチター・シャルマーなど。もっとも有名な俳優は「Saheb Biwi aur Gangster」(2011年)などのマーヒー・ギルであろうが、マヌ・リシやラージェーシュ・シャルマーなど、コミックロールに定評のある個性派俳優たちが多く起用されている。

 時は2019年、舞台はデリー。スニール・バテージャー(マヌ・リシ)は、息子のサニー(サルドゥル・ラーナー)、娘のスウィーティー(アルチター・シャルマー)と共に、友人ゴールディー(ラージェーシュ・シャルマー)の家に居座っていた。スニールの母親ダルシャン(ドリー・アフルワーリヤー)は、1988年に交通事故に遭って以来、昏睡状態に陥っていた。スニールの妻プリヤー(マーヒー・ギル)は夫と別居中で、二人は離婚の瀬戸際にあった。

 あるとき、サニーの悪友パッピーがアダルトコミックを持ち込み、ダルシャンの前で読み上げ始めた。登場人物は「ビムラー」といった。それを聞いたダルシャンは突然反応を示す。医者の話では、もうすぐ30年振りにダルシャンは意識を回復するとのことだった。しかし、大きなショックを与えると命に危険があるとのことで、30年も経ったことを彼女に知られないように、あたかも6ヶ月だけ昏睡していただけという環境を作り出そうとする。1988年にはスニールとプリヤーも結婚していなかった。そこで、サニーとスウィーティーは使用人ということにし、レトロな家具を取り揃えた。

 遂にダルシャンが目を覚ました。ダルシャンは、太ったスニールの姿に違和感を覚えつつも、徐々に元気になる。ダルシャンはプリヤーに会いたがったため、スニールは彼女を家に連れてくる。ダルシャンはスニールとプリヤーを結婚させようとし、二人はそれに応え、ダルシャンの前で二度目の結婚式を挙げる。また、ダルシャンがドゥールダルシャンを観たがったため、スニールたちは偽のドゥールダルシャンを作って彼女に見せる。

 そうこうしている内にダルシャンは家の外に出てしまい、今が2019年であることを知ってしまう。ショックを受けるダルシャンであったが、意外にも現実をすんなり受け入れる。

 2019年の現代を舞台にしていながら、30年振りに目を覚ました祖母のために、1989年のインドを必死に作り出そうとするのがおかしいコメディー映画だった。1989年のインドといえば経済自由化前で、急速な発展はまだ経験していなかった時代である。その一方で、人と人との関係は濃厚であった。この30年間にインドが経験した変化をコメディーとしてうまく料理していた。

 やはり一番大きなアイテムといえば携帯電話である。1989年の通信手段といえば固定電話だったが、現在は各人の手元にスマートフォンがある。スニールはダルシャンの前で携帯電話を使わないように注意を払うが、ミスからダルシャンの目に触れてしまう。もちろん、ダルシャンにはそれが何なのか分からない。鏡なのかと思ってみたら、ラジオのように音も出る。しかも値段を聞いてみたら15,000ルピー。30年前とは物価も異なり、その額に目を丸くする。

 ただ、やはり映画の大きな目玉になっていたのはインド国営放送ドゥールダルシャンだった。ドゥールダルシャンが観たいというダルシャンのために、彼らは家の中にスタジオを作り出し、30年前のレトロなドゥールダルシャンを何とか再現しようとする。しかし、ニュースの中で、現在活躍するクリケット選手ヴィラート・コーリーの名前を出してしまったりする失敗もあった。

 スニールとプリヤーは離婚寸前であったが、ダルシャンが彼らの人生に戻ってきたことで、二人の関係も改善する。そもそも、この二人をくっ付けたのもダルシャンだった。予想された展開ではあったが、微笑ましかった。また、スニールの子供たちが使用人の演技をするのも面白かった。

 意外に重要な伏線になっていたのは「ビムラー」だった。元々は、アダルトコミックに登場する女性の名前だが、ダルシャンが目を覚ますきっかけになったのもこのビムラーであったため、彼女は何かとビムラーのことを口に出した。この「ビムラー」ネタは最後まで引きずられ、オチにもなっていた。

 なぜスニールが親友ゴールディーの家に居候することになったのかについては、もう少し説明が必要だと感じた。プリヤーがスニールと不仲になった原因もよく分からない。プロローグにあと少し時間を割くことで、もっとまとまった映画になったことだろう。

 「Door Ke Darshan」は、低予算かつ地味ではあるが、1980年代に一世を風靡したドゥールダルシャンなどの郷愁や時代のギャップをうまくコメディーとして料理した、アイデア勝負の映画である。演技力のある俳優たちの演技を見るのも楽しい。観て損はない作品である。