Motichoor Chaknachoor

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Motichoor Chaknachoor
「Motichoor Chaknachoor」

 2019年11月15日公開の「Motichoor Chaknachoor」は、マディヤ・プラデーシュ州の州都ボーパールを舞台にした、中産階級家庭の結婚ドタバタコメディーである。題名になっている「モーティーチュール」とは団子状のお菓子のことで、プラサード(神饌)として捧げられたり慶事に食べられたりする。それが「チャクナーチュール(粉々になる)」というのはつまり「めでたいことが台無しになる」というニュアンスになる。

 監督はデーバミトラ・ビスワール。主演はナワーズッディーン・シッディーキーとアティヤー・シェッティー。

 ナワーズッディーン・シッディーキーはいわずと知れたヒンディー語映画界切っての実力派俳優である。相手役のアティヤーは往年のスター、スニール・シェッティーの娘で、「Hero」(2015年)でデビューした。この映画の公開前後からクリケット選手のKLラーフルと付き合い始め、2023年に結婚し引退した。よって、彼女の短いキャリアの中で本作は最後の作品になっている。

 他に、ヴィバー・チッバル、アビシェーク・ラーワト、ナヴニー・パリハル、ヴィヴェーク・ミシュラー、カルナー・パーンデーイなどが出演している。また、映画中では使われていないが、プロモーション用に作られたアイテムソング「Battiyan Bujhaado」にサニー・リオーネがアイテムガール出演している。

 ボーパール在住のアニター・アワスティー、通称アニー(アティヤー・シェッティー)の夢は、NRI(在外インド人)と結婚して海外に移住することだった。アワスティー家は数年前にボーパールに移住してきて小さなビジネスをしていた。アワスティー家の隣にはティヤーギー家が住んでいた。ティヤーギー家のプシュピンダル(ナワーズッディーン・シッディーキー)はドバイで会計士として働いており、結婚相手を探しにボーパールに帰郷していた。アニーとプシュピンダルが顔を合わせたのは初めてだった。

 プシュピンダルの年齢はアニーよりも一回り上で、しかも身長はアニーの方が高かった。アニーはプシュピンダルを全く魅力的に感じなかったが、嫁に行き遅れた叔母プラバー(カルナー・パーンデーイ)からは、海外に行きたかったらプシュピンダルを捕まえろとけしかけられ、彼にアプローチを始める。

 プシュピンダルは既にお見合いをして縁談をまとめていたが、母親のインドゥ(ヴィバー・チッバル)が持参金を巡って相手の家族とケンカをしてしまい、破談となる。アニーはプシュピンダルに思わせぶりな態度を見せ、プシュピンダルも本気になってしまう。ある日二人は家族に内緒で結婚してしまう。アワスティー家の経済状況を熟知していたインドゥは、彼らから多額の持参金は得られないことにがっかりする。だが、変な噂が近所に広まる前に何とかしようと、二人の結婚を認め、改めて盛大に結婚式を行う。

 ところがプシュピンダルはドバイの会社を解雇されていたことが発覚する。彼はボーパールで再就職先を見つけた。それを知ったアニーは怒るが、プシュピンダルもアニーがドバイ行きを目的として自分と結婚したことを知って落胆する。二人はまだ初夜をこなしていないのにケンカを始めてしまう。だが、プシュピンダルが彼女の父親ケーダール(ヴィヴェーク・ミシュラー)から渡された持参金を固辞しているのを見て、アニーも考えを変える。

 そうこうしている内にドバイの会社から手紙が来て、プシュピンダルの解雇が取り消される。インドゥとアニーは喜ぶが、プシュピンダルはそれを断ってボーパールで働くと言い出す。しかもプシュピンダルはアニーと口論し彼女に平手打ちしてしまう。アニーは実家に帰ろうとするが、ケーダールは毅然とした態度で彼女を追い返す。アニーはプシュピンダルの祖母に説得されティヤーギー家に戻る。

 翌朝、プシュピンダルは誰にも告げずにドバイへ発ってしまう。それを知ったアニーはショックを受けるが、空港で考えを変えたプシュピンダルは戻ってくる。そしてアニーと顔を合わせ、二人は初夜を終わらせに走る。

 「Motichoor Chaknachoor」は驚くほど前時代的なストーリーの映画である。まず、ヒロインのアニーは結婚を海外移住の手段としか考えていない実利主義的な女性である。確かに1990年代くらいのインド映画にそういう価値観は観察されたが、21世紀も20年ほど過ぎた今でもまだこういうキャラを無批判にヒロインとして登場させてしまう時代錯誤に卒倒せざるをえない。しかも、アニーは特に仕事をして稼いでいるわけでもなさそうだった。確かにモデルのように高身長でスタイルも良く美人だが、それだけを武器に自ら働かずNRIとの結婚をものにして海外移住を実現しようとしていた。どこからどう見ても「地雷女」である。また、「Motichoor Chaknachoor」では縁談に際して持参金があからさまに語られる。インドにおいて持参金の受け渡しは法律で禁止されており、セリフの中にもそういう内容のやり取りはあったが、かといって持参金撲滅を訴えるような社会的なメッセージも希薄であった。

 当然、公開時にも酷評を浴び、興行的に失敗に終わった。だが、2020年1月24日にNetflixで配信開始されると話題になり、意外な再生数を獲得したという。この現象は検証すると面白い。Netflixで映画を観る層は、映画館に比べたら女性の比率が高いと推測できる。なぜならインド社会において伝統的に女性は外で働かず家で家事に従事していることが多いからだ。そういう背景を念頭に「Motichoor Chaknachoor」の人物配置を眺めてみると、その主な舞台は隣り合う2つの家庭になっており、どちらもジョイントファミリー(合同家族)の形態を取っていて、さらにどちらの家にも家事しかしていないような女性たちが複数いる。そして、彼女たちが話すのは未婚者の結婚の話題ばかりだ。おそらく大半のインド人女性たちは、いくら社会が女性の自立を推し進めようとも、このようなドメスティックかつ身近な主題の、「驚くほど前時代的な」映画を好むのだと思われる。現にTVドラマの作り手たちは完全に主婦層を狙い撃ちした作品作りをしている。この乖離は肝に銘じておかなければならない。

 そうすると、一見全く取り柄がないほど古風に見える「Motichoor Chaknachoor」も実は需要に的確に応えた作品であることが分かる。持参金も、いくら法律で禁止されているとはいえ、多くのインド人にとっては現実に直面する問題であろうし、海外移住への憧れもインド人の多くの心にいまだに根強く残っている切実な思いなのかもしれない。この映画の主人公アニーにとって、プシュピンダルは普通ならば考えられない結婚相手だ。彼女より10歳以上年上であるし、身長も彼女より低い。おまけに色黒だ。相手があまりに近所に住んでいるという状況もインドでは通常は忌避される。だが、彼はドバイに住んでいる。ただその一点だけに注目し、アニーは彼との結婚を承諾した。彼女にとって海外移住は、そのような数々の悪条件を我慢できるほど強い願望だったのである。

 ただ、男性の立場からしたら、アニーの選択には落胆しかない。自分に好意を寄せているからではなく、海外に住みたいがために自分との結婚を承諾した。しかも海外移住の動機が女友達に自慢したいからと来た。アニーのような美人と結婚できるならば、そんな幼稚な魂胆は無視してもいいと思える豪気な男性もいるかもしれないが、プシュピンダルはいかにも人が良さそうなナイーブな男性だ。アニーがドバイ移住を目的に自分と結婚したと知って彼が怒り落ち込むのも無理はない。ここまではいいのだが、そこからが分からない。アニーとの関係回復は不可能にも思え、実際に彼はアニーを残してドバイに去ろうとするが、なぜか途中で彼は思い直し、そんな身勝手なアニーを受け入れるのである。思い直した理由はよく分からなかった。

 もっといえば、アニーがプシュピンダルを人柄で夫と認める過程も謎だった。アニーが彼を見直すきっかけになったのは、彼が持参金の受け取りを固辞したことであった。それは分かった。だが、プシュピンダルが勝手にドバイへ行ってしまったことを知って、彼女は本格的にプシュピンダルの価値に気付き、彼を欲するようになる。この心変わりがよく分からなかった。

 普段はキレキレの演技をするナワーズッディーン・シッディーキーも、この未熟な映画では心なしか気持ちが入っていなかった。なぜどこから見ても駄作にしかなりそうにないこの映画への出演を彼は承諾したのだろうか。アティヤー・シェッティーにも特筆すべき点はほとんどない。アニーに同情できないため、彼女にも感情移入できない。

 「Motichoor Chaknachoor」は、インド映画がこれまで定型化してきた結婚のドタバタを21世紀の今でもしつこく繰り返している作品だ。それだけでも陳腐になるのは避けられないが、ヒロインがまた酷く、海外移住のために悪びれもせず結婚を利用しようとしていておよそヒロインとは思えない。演技派俳優のはずのナワーズッディーン・シッディーキーの演技もいまいちだ。しかしながら、こういう古風な映画を支持する層がインドには一定数いることも理解しなければならない。映画自体はともかく、ケーススタディーとして面白い作品である。