Prassthanam

3.0

 1993年に発生したボンベイ連続爆破テロへの関与により逮捕されたサンジャイ・ダットは、テロ関与への容疑は晴れたものの、違法に武器を所有していた件で有罪となり、2013年から2016年まで服役した。彼が刑期を終えて釈放されてから立ち上げた映画制作会社がサンジャイ・S・ダット・プロダクションズで、その第1作となったのが、2019年9月20日公開のヒンディー語映画「Prassthanam(出発)」である。

 この映画は、2010年公開の同名テルグ語映画のリメイクであり、原作で監督を務めたデーヴァ・カッターが引き続きヒンディー語版も監督をしている。主演は当然のことながらサンジャイ・ダット。その他のキャストは、アリー・ファザル、ジャッキー・シュロフ、マニーシャー・コーイラーラー、チャンキー・パーンデーイ、サティヤジート・ドゥベー、アマーイラー・ダストゥール、ザーキル・フサイン、MKラーイナー、アヌープ・ソーニー、チャーハト・カンナー、ディープ・ラージ・ラーナー、ディヴィナー・タークルなどである。また、イシター・ラージ・シャルマーがアイテムソング「Dil Bevda」にアイテムガール出演している。

 ウッタル・プラデーシュ州マリーハーバード選挙区で過去4回連続当選の州議会議員バルデーヴ・プラタープ・スィン(サンジャイ・ダット)の家族は複雑な構成となっていた。元々、兄のシヴ(アヌープ・ソーニー)が政治家だった父親ジャイプラカーシュ(MKライーナー)の後継者として政界に進出していたが、ライバルとの抗争の中で命を落とした。シヴには、妻サロージ(マニーシャー・コーイラーラー)との間に2人の子供、パーラク(チャーハト・カンナー)とアーユシュ(アリー・ファザル)がいた。弟のバルデーヴは、父親の願いもあって、サロージと結婚し、兄の2人の子供を自分の子供とした。バルデーヴとサロージの間にはヴィヴァーン(サティヤジート・ドゥベー)が生まれた。バルデーヴは、自身の後継者として、実子であるヴィヴァーンよりも兄の子であるアーユシュの方を買っていたが、ヴィヴァーンにとってはそれが不満の種となっていた。また、パーラクは、バルデーヴと再婚した母親に反感を抱いていた。

 また、バルデーヴの右腕としてバードシャー・カーン(ジャッキー・シュロフ)が常に控えていた。バードシャーの娘アスマー(ディヴィナー・タークル)は、バルデーヴの計らいによりレストランのマネージャーに就職した。また、スィン家と遠縁にあたるシヴィー(アマーイラー・ダストゥール)がラクナウーにやって来て、政治学の研究のためにアーユシュと行動を共にしていた。

 選挙が近づいていた。バルデーヴは出馬し、アーユシュを青年部のリーダーに任命した。それが面白くないヴィヴァーンは荒れ狂う。酒に酔ったヴィヴァーンはアスマーをオーバードーズさせてレイプし、しかも交通事故で殺してしまう。ヴィヴァーンの件が世間に流布し、バルデーヴは選挙で敗北しそうになる。そこでバルデーヴは、ヴィヴァーンを勘当すると共に、腐れ縁だった実業家バージワー・カトリー(チャンキー・パーンデーイ)と手を組み、何としてでも選挙に勝とうとする。

 一方、逮捕されたヴィヴァーンはバージワーによって釈放され、バードシャーは娘の仇であるヴィヴァーンを殺すために姿をくらましていた。バルデーヴは、かつての右腕だったバードシャーを、サーラング警視(ディープ・ラージ・ラーナー)の手で暗殺しようとするが、果たせなかった。逃亡中のヴィヴァーンは姉パーラクの家に現れ、彼女とその夫を殺害する。しかもバルデーヴまで殺そうとするが、アーユシュに阻まれる。二人の間で乱闘となるが、そこへサーラングら警察が現れる。ヴィヴァーンは連れ去られ、アーユシュも勘当される。

 バルデーヴは僅差で選挙に勝つ。アーユシュはヴィヴァーンを探し出して殺そうとするが、とどめを刺したのはバードシャーであった。また、バードシャーはアーユシュにある秘密を打ち明ける。実は、アーユシュの実父シヴの息の根を止めたのはバルデーヴであった。アーユシュはそれを確かめにバルデーヴのところへ行く。確かにそれは事実であった。アーユシュが去った後、バルデーヴは自殺する。

 複雑に絡み合った人間関係の一家を中心に展開する政治ドラマであった。肝となるのが、サンジャイ・ダット演じるバルデーヴであった。過去4回当選のカリスマ政治家であり、常に庶民に寄り添った正しい政治を行う人物のように見える。だが、その実体はもっと複雑で、終盤になるにつれ、彼の本当の姿が徐々に明らかになって来る。彼は過去に、政治家だった父親の遺産を受け継いで政治家になるため、政敵によって撃たれ瀕死の兄を殺していた。その秘密を唯一知るのはバードシャーであった。それから25年、バルデーヴは、ウッタル・プラデーシュ州の政界の重鎮に成長したが、因果応報からは逃れられないという最後であった。

 バルデーヴには3人の子供がいた。その内、上の2人は兄の子供であり、兄の死後、兄嫁と結婚したことで、義理の子供となった。3人目の子供は、バルデーヴにとっては実子にあたる。政治家としての素質は兄アーユシュの方があり、バルデーヴは彼を後継者と目していた。だが、ヴィヴァーンはそれに不満で、ぐれた青年となってしまっていた。それでもバルデーヴは、アーユシュよりもヴィヴァーンの方を愛していた。政治家としてはアーユシュの方が上だったが、どちらを優先して守るかと言えば、やはりヴィヴァーンであった。

 バルデーヴは、ヴィヴァーンを勘当してはいたものの、ヴィヴァーンの命を守るため、まずはバードシャーを殺そうとし、次にアーユシュすらも殺そうとした。一見、アーユシュの方を可愛がっていたように思えたバルデーヴのこの行動は混乱を招くのだが、最後まで観ると、バルデーヴ自身も兄を排除して父親の後継者に成り上がった過去を持っており、納得の行動となる。

 ただ、原作では3時間あった映画を、ヒンディー語版では2時間ちょっとでまとめていた影響で、人物描写や人間関係の説明が不足していたところがあり、決して完璧な出来の政治ドラマにはなっていなかった。南インド映画をヒンディー語でリメイクする際、いくつか気を付けなければならない点があるのだが、まだ上映時間が長めの南インド映画を、2時間ほどの上映時間が一般的となっているヒンディー語映画のフォーマットに合わせて短縮して作り替える上で、カットする部分を相当よく考えなければならない。「Prassthanam」はそれに失敗した作品だと言える。

 サンジャイ・ダット、ジャッキー・シュロフ、マニーシャー・コーイラーラーなど、2世代前の俳優たちが久々に共演し、存在感を見せていた一方で、アリー・ファザルやアマーイラー・ダストゥールと言った新世代の俳優たちの台頭も感じさせられた映画だった。

 ウッタル・プラデーシュ州の政界が舞台になっているだけあって、同州のいくつかの観光名所でロケが行われていた。アーグラー近くのファテープル・スィークリー、ラクナウーのバラー・イマームバーラーやダリト・プレールナー・スタルなどが確認できた。

 「Prassthanam」は、同名のテルグ語映画を原作とした、サンジャイ・ダット主演の政治ドラマである。人間関係が複雑かつ非常に興味深い様相を呈しているが、実際には3時間ほどの上映時間を要する脚本の映画であり、もっと壮大な物語の抜粋のような印象を受けた。興行的にも失敗に終わっている。