Bulbul Can Sing (Assamese)

3.5
Bulbul Can Sing
「Bulbul Can Sing」

 2018年9月7日にトロント国際映画祭でプレミア上映され、インドでは2019年9月20日に公開されたアッサミー語映画「Bulbul Can Sing」は、アッサム州の農村を舞台に、10代の若者たちの友情や葛藤を描いた作品である。

 プロデューサー、監督、編集などは全てリーマー・ダースが行っている。リーマー・ダースは、「Village Rockstars」(2017年)などで知られるアッサミー語映画界注目の新進気鋭女性監督である。主役のティネイジャー3人を演じたアルナーリー・ダース、バニター・タークリヤー、マノーランジャン・ダースは、おそらくあまり演技経験のない地元の人材のはずである。他に、マーナベーンドラ・ダース、パーキジャー・ベーガムなどが出演している。

 舞台はアッサム州の農村。ブルブル(アルナーリー・ダース)は女学生で、ボニー(バニター・タークリヤー)やスマン(マノーランジャン・ダース)と仲が良かった。ブルブルの父親は音楽家で、いい声を持っている娘も歌手にしたいと思っていたが、ブルブルは人前で歌うのが苦手だった。ブルブルはパラーグから告白され、彼と付き合うことになる。ボニーにも恋人がいた。また、スマンは男性だったが、振るまいが女性っぽく、学校では「女」と呼ばれてからかわれていた。

 ある日、ブルブル、ボニー、スマン、パラーグ、そしてボニーの恋人の5人で街へ繰り出し、写真を撮る。その帰り、スマン以外の2カップルは、いちゃついている未成年を取り締まる青年たちに捕まってしまう。このニュースは村中に知れ渡り、スマン以外の4人は退学処分になってしまう。ブルブルは、見張りを怠ったスマンと絶交し、ボニーはショックのあまり、入水自殺をする。

 ボニーの葬儀が終わった後、ブルブルは、ボニーが生きていた頃に街で撮った写真を受け取る。彼女はボニーの母親に写真を届ける。

 前半はストーリーらしいストーリーがなく、ひたすらアッサム州の牧歌的な農村生活の様子が断片的に映し出される。季節は、秋のディーワーリー祭から始まり、アッサム州特有の春の祭りビフーを経て、7月頃の雨季の到来まで移ろっていくが、これは意図的にアッサム州農村部の1年を背景として組み込んでいるのであろう。学校の様子、家畜豚の飼育、沼地での漁など、淡々と描写される。

 主人公はブルブルという女学生だが、彼女を取り巻く同級生たちにも焦点が当てられている。彼らはそれぞれに思春期らしい悩みを抱えている。メインとなるのは恋愛だが、スマンについては、性同一性障害を抱えており、他の男子生徒からいじめられていた。ただ、それが物語の中心的な議題になることはなく、思春期の悩みのひとつとして、やはり淡々と処理されていた。

 事件らしい事件が起きるのは終盤になってからだ。2014年に中央でインド人民党(BJP)が与党になり、モーディー政権が誕生してから、インド社会では保守的な価値観が支配的になり、その中で、「アンチロミオ部隊」なるものが結成された。これは、公共の場でデートなどをしていちゃついている若い男女のカップルを罰する組織である。アッサム州にもアンチロミオ部隊が結成されているのかは不明だが、アッサム州政府は2016年以降、BJPが政権を担っている。

 性同一性障害を抱えるスマンには恋人がいなかったためにアンチロミオ部隊の標的にはならなかったが、ブルブルとボニーはいちゃついているところを見つかってしまい、暴行を受け、名前や学校をさらされてしまう。それが原因で彼らは学校から退学処分になる。この屈辱に耐えきれなかったボニーは自殺してしまう。

 思春期のブルブルにとっては天地がひっくり返るほどの大事件だったが、ボニーの死後も意外に大人しくストーリーが進行する。学校を追い出されたブルブルは、自然の中でボーッとしていることが多くなり、自然と歌を歌えるようになる。友人の死をはじめとした様々な事件を乗り越えて大人に成長していくティネイジャーの物語として受け止めればいいだろう。

 アッサム州の自然や風俗がリアリスティックな映像で語られており、それがこの映画の何よりの魅力だった。主役のみならず、その他の登場人物も、おそらくは実際にアッサム州で暮らす村人たちを起用しているはずである。それほどリアルであった。ただ、逆に素人を起用することで不自然さが出てしまうこともあるのだが、それをリアルのまま維持できたところに、リーマー・ダース監督の類い稀な手腕が表れている。

 「Bulbul Can Sing」は、注目の監督リーマー・ダースによる、アッサム州の農村を舞台にした、素朴な青春群像物語である。サティヤジト・ラーイ(サタジット・レイ)監督の手法を思わせるようなストーリーテーリングや映像美が魅力の佳作だ。