2019年7月19日公開の「Penalty」は、マニプル州出身の大学生サッカー選手がウッタル・プラデーシュ州で「よそ者」として差別を受けるという筋書きの映画である。
監督は新人のシュバム・スィン。キャストは、ルクラム・スミル、ケー・ケー・メーナン、アーカーシュ・ダーバーデー、シャシャーンク・アローラー、マンジョート・スィン、タシャー・バーンブラー、ビジョウ・タンジャムなど。
舞台はウッタル・プラデーシュ州の州都ラクナウー。シュリー・ラームスワループ記念大学(SRMU)はサッカーの強豪校として知られていた。インド代表のサッカー選手になることを夢見てマニプル州からSRMUに入学したルクラム(ルクラム・スミル)は、コーチのパルト(シャシャーンク・アローラー)に才能を見出されるものの、マネージャーのヴィクラム・スィン(ケー・ケー・メーナン)は「よそ者」に対して冷たく、レギュラーの最終選考でルクラムを外す。また、ルクラムはチームメイトから暴行を受ける。傷心のルクラムは一度故郷に戻るが、両親やかつての恩師から「負け犬」呼ばわりされ、またラクナウーに戻る。 ルクラムは、孤児のサッカーチームを束ねるジュガールー(アーカーシュ・ダーバーデー)のチームに入り、サッカーを続ける。パルトも、才能ある選手が排除される腐ったシステムに嫌気が指し、ジュガールーのチームのコーチングに時間を割くようになる。寮でルクラムのルームメイトだったイーシュワル(マンジョート・スィン)もルクラムをかばったためにチームから外され、ルクラムに合流する。 州対抗の試合が開催され、ジュガールーのチームは「ストリート・アーミー」を名乗って、決勝進出チームと親善試合を行うことになる。そこでSRMUと対戦することになり、ルクラムは活躍するものの、最後にスポーツマンシップを発揮して敗北する。ヴィクラムはルクラムに、自分も「よそ者」として排除された過去があることを明かし、彼をSRMUに戻す。決勝戦でルクラムはキャプテンとして出場する。
インドは広大な国で、かつ地域ごとに多様な文化を持っており、一口に「インド人」といっても同じ国の人とは思えないほど差異がある。それ故に地域間の摩擦もある。北と南の対立、隣接する州の対立、地元民と出稼ぎ労働者の対立などなどである。
バングラデシュ、ミャンマー、ブータン、チベットなどに囲まれたインド東北部は一般に「ノースイースト」と呼ばれる。そこに住む人々は日本人と似たオリエンタルな顔つきをしているため、その他の地域に住む典型的なインド人顔の人々とはことのほか差異が目立つ。彼らの文化は南アジアよりも東南アジアに近く、メインランドのインドにおいて、どうしても差別と偏見を受けることが多くなる。彼らに対する一般的な蔑称は「チンキー」である。元々は「中国人」の蔑称であるが、中国人と似た顔つきの彼らにも適用されることが多い。
「Penalty」は、サッカーが主題のスポーツ映画ではあるが、真のテーマはノースイースト人に対する差別問題である。題名になっている「ペナルティー」も、ノースイーストに生まれた人間としてのペナルティーのことを指していると考えていいだろう。
主人公のルクラムは、インド代表のサッカー選手になることを夢見て、インターステートマッチで何度も優勝している強豪校SRMUに入学する。SRMUはウッタル・プラデーシュ州の州都ラクナウーに位置していた。SRMUのサッカークラブに入部できたルクラムは、才能を認められ、練習も真面目に取り組んでいたにもかかわらず、レギュラーの最終選考からは外れてしまう。理由は彼が「よそ者」だったからだった。
ルクラムを外した元凶は、SRMUのサッカークラブを統轄するヴィクラムであったが、彼は何の理由もなく頭ごなしにノースイースト人を嫌っているわけではなかった。彼も過去に「よそ者」扱いして選手生命を絶たれた苦い経験があったのだ。インドにおいてサッカーといえば、西ベンガル州をはじめとしたインド東部地域が盛んであった。ウッタル・プラデーシュ州出身のヴィクラムは若い頃、サッカー協会を牛耳る東インド人から「よそ者」扱いされ、インド代表に落選してしまう。その悔しさをバネにして彼はSRMUをインド最強のサッカー強豪校に育て上げたが、同時に過去の反動で「よそ者」に対するより強い差別も持つことになったのだった。
ただ、ラクナウーで会った全てのメインランド・インド人がルクラムを差別していたわけではなかった。ルームメイトでスィク教徒のイーシュワルは彼を外見で差別することなく親友として受け入れた。コーチのパルトも純粋にルクラムの才能を見て彼をレギュラーに加えるように進言した。
サッカー映画であり、役者たちがサッカーをプレイしている時間も長いが、白熱の試合があったわけでもなければ、一定以上のレベルのサッカー選手を起用したリアル志向の映画でもなかった。一方で、ノースイースト人に対する差別問題が深く掘り下げられていたわけでもなければ、何らかの解決の糸口が提示されていたわけでもなかった。着眼点は良かったと思うが、一本の娯楽映画としてまとめ上げることには失敗していた。
ヴィクラムを演じたケー・ケー・メーナンは、「特別出演」とはいいながらも、映画の中心を担う役柄を硬派に演じていた。パルトを演じたシャシャーンク・アローラーも好演していたし、マンジョート・スィンも良かった。ルクラムを演じたルクラム・スミルは、どういうツテで起用されたのか分からないが、もっと演技の勉強が必要だと感じた。
「Penalty」は、マニプル州出身の大学生サッカー選手が主人公のサッカー映画であると同時に、彼がウッタル・プラデーシュ州で人種差別に遭う物語でもある。ただ、どちらも中途半端になってしまっており、完成度は高くない。ノースイースト人が主人公のヒンディー語映画としてはレアである。