2018年9月21日公開の「Ishqeria」は、ニール・ニティン・ムケーシュとリチャー・チャッダーが主演のロマンス映画である。題名の「Ishqeria」とは、「恋愛」という意味の「Ishq」を、「ジフテリア」とか「クラミジア」のように、病気の名前のようにした造語のようだ。観てすぐに気付いたが、ニールやリチャーが若い。どうも撮影は2012年から14年の間に行われたようである。
監督は新人のプレールナー・ワーダワン。当初は2015年に公開予定だったこの映画が2018年になってようやく公開となったのは、監督の結婚があったからとされている。ニール・ニティン・ムケーシュとリチャー・チャッダーの他に、ラージ・バッバル、マニーシュ・アーナンド、ジュビー・デーヴァスィヤー、グルバーニー、ムルドゥラー・サーテー、ムリナーリニー・シャルマーなどが出演している。
舞台はウッタラーカンド州マスーリー。本屋を経営するクフー・スィン(リチャー・チャッダー)は、7年振りにラーガヴ・ダールミヤー(ニール・ニティン・ムケーシュ)と再会する。ラーガヴは7年前に米国に渡った後、音信不通になっていた。 7年前、クフーはマスーリーの大学に入学したての新入生だった。寮のルームメイト、ラヴリーン・チャウダリー(ジュビー・デーヴァスィヤー)などと仲良くなったクフーは、上級生のラーガヴに恋したことを打ち明ける。ラヴリーンらクフーの友人たちはクフーとラーガヴをくっ付けようと画策する。おかげでクフーはラーガヴと付き合うようになる。 ラーガヴの父親ダールミヤー氏(ラージ・バッバル)はマスーリーの名士で裕福だったが、父親と不仲で、父親の財産に頼らずに米国に留学しようと勉強に勤しんでいた。そして、留学のための奨学金を申請していた。奨学金が認められるが、クフーの生理が止まってしまったため、ラーガヴは渡米の夢を諦め、クフーと結婚する。しかし、妊娠は勘違いで、その後クフーに生理が来た。ラーガヴは怒り、クフーをマスーリーに残して米国に去って行ってしまった。 7年振りにマスーリーに戻ったラーガヴは、3年前から付き合っている許嫁ラーディカー(ムリナーリニー・シャルマー)と共に来ていた。そしてラーガヴがマスーリーに戻った理由は、クフーと離婚するためだった。しかし、ラーディカーはラーガヴが未だにクフーを愛していることを感じ取り、彼の元を去る。ラーガヴの父親もクフーを家に連れてくるように言う。ラーガヴはクフーに会いに行き、彼女を抱きしめる。
女性監督の作品であるため、女性視点の映画だった。主人公のクフーが、大学で優秀な成績を収めるラーガヴに恋をし、彼女の友人たちが恋のキューピッド役になって奔走するというのが回想シーンの大筋である。だが、現在の時間軸はそれから7年後になっており、クフーとラーガヴの間に何か深刻な事態が起こったことが暗示される。その真相は観客に徐々に明かされていく。
主演のリチャー・チャッダーは今でこそ演技派女優として名を知られているが、その代わりにヒロイン女優として自身を売り出す道は既に諦めている。ところが「Ishqeria」の撮影が行われた2010年代前半の彼女は、まだヒロイン女優の王道を突っ走っているところであることが見て取れる。また、この頃の彼女には演技力に難がある。現在の視点からリチャーを見ると違和感を感じる。
相手役のニール・ニティン・ムケーシュも同様で、「Prem Ratan Dhan Payo」(2015年/邦題:プレーム兄貴、王になる)でサルマーン・カーンの弟役を演じたことに象徴されるように、既に主演を張れるスターを目指そうとする気概は彼から感じられなくなっている。しかしながら、「Ishqeria」ではクフーの憧れの先輩を演じており、隔世の感を感じる。
主演二人の演技がどうも浮き足だっていたが、おそらく監督が経験不足だったためではないかとも思う。リチャーが演じるクフー、ニールが演じるラーガヴなど、キャラクターに一貫性と深みがなく、ストーリーも筋が通っていない。とてもまずい仕上がりになっていた。
プレールナー・ワーダワンにとって、今のところ「Ishqeria」は最初で最後の監督作である。この作品を観ただけで彼女に監督としての才能はないことが分かる。これを作っただけで監督業を辞めたのは賢明な判断であろう。
「Ishqeria」は、リチャー・チャッダーとニール・ニティン・ムケーシュが主演のロマンス映画である。2018年に公開されているものの、撮影は2010年代に行われたため、主演の二人が若い。だが、監督の経験不足などから全く観る価値のない作品になっている。