Kuldip Patwal: I Didn’t Do It!

2.5
Kuldip Patwal: I Didn't Do It!
「Kuldip Patwal: I Didn’t Do It!」

 「Delhi-6」(2009年)や「Hindi Medium」(2017年)などで個性的な脇役を演じ注目を集めたディーパク・ドーブリヤールは、どんな小さな役でも味を出すことのできる才能ある曲者俳優である。そのディーパクがおそらく初めて単独で主演を務めたのが、2018年2月2日公開の「Kuldip Patwal: I Didn’t Do It!」である。

 監督は新人のレミー・コーリー。ディーパク・ドーブリヤールの他には、グルシャン・デーヴァイヤー、ラーイマー・セーン、パルヴィーン・ダバス、プリヤンカー・セーティヤー、アヌラーグ・アローラー、ジャミール・カーン、ナターシャ・ラストーギー、VKシャルマーなどが出演している。

 架空の街バーラトサルで州首相ヴァルン・チャッダー(パルヴィーン・ダバス)が暗殺され、現行犯でクルディープ・パトワール(ディーパク・ドーブリヤール)が逮捕される。彼の弁護人となった弁護士プラデュマン・シャープリー(グルシャン・デーヴァイヤー)はクルディープに動機を聞く。

 クルディープは下級官吏に応募していたが、チャッダー州首相が公務員の採用に低カースト者のために留保制度を導入したため、クルディープはあぶれてしまった。そこで屋台で野菜売りを始め、商売が軌道に乗ったところで結婚もするが、チャッダー州首相が屋台の排除を警察に命じたため、彼のその商売もできなくなってしまった。クルディープは諦めずに雑貨屋を始めるが、今度はチャッダー州首相がショッピングモールの建設を始めたため、またも彼の商売が妨害されようとしていた。また、彼には双子の子供が生まれるが、人工呼吸器の不備のために死んでしまう。

 裁判で州検察官となったのが、亡きチャッダーの妻で弁護士のスィムラト(ラーイマー・セーン)であった。プラデュマンは弁護をする中で、実業家ラメーシュ・アガルワールが裏で手を引き、クルディープに銃を渡したジートゥー(ジャミール・カーン)の関与も取り上げる。判決でクルディープは5年の禁固刑となるが、ジートゥーには7年の禁固刑が言い渡され、さらにラメーシュや保健大臣などが逮捕された。

 しかし、真犯人は別にいた。スィムラトであった。

 若くして州首相に就任したチャッダーが打ち出す政策により人生を狂わされたクルディープは、チャッダーを暗殺し、逮捕される。クルディープの有罪は避けられなかったが、弁護人となったプラデュマンは刑罰を軽くするために事件の真相に迫ろうとする。こんな筋書きの映画だった。

 非常に興味深かったのは、カースト制度の裏側が物語の起点になっていたところだ。カースト制度の表側は、不可触民などの低カースト者に対する差別である。だが、独立インドでは不可触民などに対する優遇政策である留保制度が採られており、入学や就職の際に一定の枠が社会的に地位の低い人々専用に割り当てられている。当初は指定カースト(SC)および指定部族(ST)と呼ばれる人々にこの留保枠が適用されていたが、これが次第に拡大していった。それに伴い、いわゆる「ジェネラル・クオータ)と分類される上位カースト者が不利益を被る事態に陥っている。

 クルディープはクシャトリヤに属する上位カーストで、「ジェネラル・クオータ」であった。採用試験の成績も優秀だったが、留保制度のせいであぶれてしまい、就職することができなかった。そこから彼の人生の転落が始まり、刑務所に入ることになってしまう。映画中では、留保制度に対する抗議デモのシーンも描かれており、映画自体が過度の留保制度を批判しているように感じた。

 普段は曲者を演じるディーパク・ドーブリヤールだが、「Kuldip Patwal: I Didn’t Do It!」では珍しくシリアスな役柄を演じていた。しかしながら、こういう影のあるキャラもしっかり演じることのできる俳優であることを改めて証明した。グルシャン・デーヴァイヤーの演技には弱さを感じたのだが、既にベテランの域に達している女優ラーイマー・セーンは迫力があった。

 本来ならばこれだけの俳優が揃っていれば素晴らしい映画になったところだ。序盤から、複数の時間軸を行ったり来たりしながら丁寧に事の真相に迫っていく手法も成功していた。クルディープの視点とチャッダー州首相の視点の両面から物事が語られることで一方的な展開になるのを回避できており、好感が持てた。だが、終盤になって急に駆け足になってしまい、最後は急転直下の意外な幕切れになっていた。なんと真犯人はスィムラトで、クルディープとも通じていたことが示唆されるのである。そうなると、クルディープは何の利益があってチャッダー州首相の暗殺を引き受けたのか、よく分からなくなる。観客を置いてけぼりにするような納得いかない結末だった。

 「Kuldip Patwal: I Didn’t Do It!」は、曲者俳優ディーパク・ドーブリヤール主演のクライム・サスペンス映画である。中盤まではかなり巧みな展開なのだが、まとめ方が唐突すぎたため、全てが台無しになっていた。留保制度反対のメッセージが読み取れるのは興味深い。