Kashmir Daily

1.5
Kashmir Daily

 「Kashmir Daily」はジャンムー&カシュミール州で作られた映画である。ヒンディー語映画とされているが、その言葉はむしろウルドゥー語とした方がいい。2017年にシュリーナガルでプレミア上映され、2018年1月5日にインド全国のPVR系列映画館で上映された。インド全国で公開された初めてのカシュミール発映画になる。

 カシュミール人映画監督のフサイン・カーンが「Kashmir Daily」のプロデューサー、監督、脚本を手掛けている他、重要な脇役も演じている。キャストは、ミール・サルワール、ラジンダル・ティックー、ニーラム・スィン、サナム・ズィヤー、シャヒーダー・アルヴィー、ランジート・スィン、イムラーン・ファールーク、ラーヒー・カーン、シャーヒド・グルファームなど。

 ジャンムー&カシュミール州では若者の失業問題が深刻化していた。日刊紙「Kashmir Daily」の編集長フサイン・ドゥッラーニー(ミール・サルワール)は、就職斡旋詐欺を行うリヤーズ・マリク(シャーヒド・グルファーム)の黒幕が、強大な権力を持つ実業家グル・カーン(ラジンダル・ティックー)だということを突き止め、インタビューで彼を糾弾する。

 次にフサインは、カシュミール地方の若者がドラッグ中毒になっていることを取り上げ、その裏にもグル・カーンがいることを察知する。だが、グル・カーンはリヤーズをフサインのところへ送り込み、嘘の情報を渡して、フサインを罠にはめ、彼に役人のスパイ容疑を掛ける。警察に追われる身となったフサインと仲間は地下に潜り、リヤーズとコンタクトを取る。フサインはリヤーズと密会するが、そこにグル・カーンが現れ、彼を殺す。

 フサインの兄ハイダル(フサイン・カーン)は弟の遺志を継ぎ、グル・カーンの悪事を暴こうとする。実はフサインは死ぬ間際にスパイカメラが仕込まれたペンを胸に挿しており、一部始終を録画していた。ハイダルはそのペンを見つけ出し、マスコミやSNSを使ってキャンペーンを張る。グル・カーンは遺体で発見され、リヤーズは逮捕された。

 技術的には非常に未熟な作品だ。機材、編集、人材など、あらゆる面でジャンムー&カシュミール州の映画産業が立ち後れている様子が見て取れる。映画学校の学生の方が映像的には何倍もマシな作品を作るのではなかろうか。だが、当地の映画産業がこれから発展していく上で踏み出した記念すべき一歩を象徴する映画であり、そういう意味では映画史に記録すべき作品だといえる。

 ジャンムー&カシュミール州が舞台の映画というと、どうしてもテロ問題やカシュミーリー・パンディト問題がメインになるが、カシュミール人が作ったこの「Kashmir Daily」が取り上げていたのは、意外にも若者の失業問題であった。カシュミール地方の若者が職にあぶれており、それがこの地域の治安悪化を引き起こしている現実が提示されており、逆にいえば、失業問題さえ解決すれば、「地上の天国」と呼ばれたカシュミール地方がかつての平和を取り戻せる可能性が示唆されていた。また、ジャンムー&カシュミール州が直面する現在の問題を外部に責任転嫁していなかったことも印象に残った。解決の糸口が見えない不幸な事件を映画にするのではなく、敢えて具体的な問題を指摘することで、カシュミール地方を良い方向へ持って行こうとする意思が感じられ、いかにも内部からの視点で作られた映画だと感じた。

 登場人物の多くはイスラーム教徒であったが、ヒンドゥー教徒やスィク教徒のキャラも若干名いた。特に、「Kashmir Daily」のオフィスで働くヒンドゥー教徒の女性プージャーは、騒乱が始まって以来、家族や親戚が次々に立ち去って行った後もカシュミール地方に留まっていた。ジャンムー&カシュミール州の人口の97%はイスラーム教徒だとされているが、彼女のようにヒンドゥー教徒も生活していることがわざわざ主張されているのも、カシュミール地方で作られた映画という印象を強くした。

 当然のことながら実際に州都シュリーナガルで撮影が行われており、ローカルな視線でロケが行われていた。ハズラトバル・モスクやダストギール・サーヒブなどの歴史的な建築物も映っていたと思うが、大部分はシュリーナガルの何でもない風景を背景にして撮影されており、その点もローカル映画の特徴だと感じた。

 主演のミール・サルワールは、シュリーナガル生まれの俳優であり、「Bajrangi Bhaijaan」(2015年/邦題:バジュランギおじさんと、小さな迷子)など、数多くの映画に出演している。「Kashmir Daily」のキャストの中ではもっとも知られた俳優である。逆にいえば、その他の俳優はほぼ無名の者ばかりである。

 「Kashmir Daily」は、カシュミール地方で作られたユニークな映画である。素人が見よう見まねで作ったような映画であり、決して質は高くない。だが、カシュミール発の映画としては初めてインド全土で公開された作品になっており、カシュミール地方の映画界にとって記念すべき映画だ。また、カシュミール地方の失業問題を取り上げていた点にも興味を引かれた。映画としては期待すべきではないが、カシュミールの社会を知る上でヒントになり得る映画である。