ネパーリー語というとどうしてもネパールが思い浮かぶが、インドにもネパール人は住んでおり、ネパール語を話す人々が住んでいる。「Pahuna」はネパーリー語映画だが、インドで作られており、女優プリヤンカー・チョープラーがプロデューサーの一人になっている。2017年9月7日にトロント国際映画祭でプレミア上映され、ネパールでも2018年12月7日に公開されているが、インドで公開されたという情報はない。Netflixで配信されている。
題名の「Pahuna」とは「来訪者」という意味で、副題の「The Little Visitors」と同じような意味になる。監督はパーキー・A・タイヤワーラー。「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)などの監督アッバース・タイヤワーラーの妻であり、「プナルナヴァー・メヘター」の名前で「Yeh Kya Ho Raha Hai?」(2002年)に出演していた女優である。
キャストは、イシカー・グルング、アンモール・リンブ、マンジューKC、サラン・ラーイ、マヘーンドラ・バジガイー、ビノード・プラダーン、ウッタム・プラダーン、バニター・ラグンなど。全く知らない俳優たちである。また、スィッキム州出身のサッカー選手、バイチュン・ブーティヤーが特別出演している。
ネパールの故郷から逃げ出したアムリター(イシカー・グルング)とプラナイ(アンモール・リンブ)の姉弟は途中で両親とはぐれてしまう。彼らは叔母に連れられてインドのスィッキム州ペリンを目指すが、叔父から、ペリンの教会の神父は赤ちゃんを食べると脅されたため、途中で一団を離れ、まだ赤ん坊の弟ビシャールを連れて逃げ出す。三人は森の中で見つけた古いバスを住処にして生活を始める。 プラナイは山羊飼いの老人の仕事を手伝うようになり、報酬にミルクをもらうようになる一方、アムリターは妊婦のギーター(バニター・ラグン)の家で小間使いをしインドルピーを稼ぐ。二人は交替で仕事をしていたが、あるとき目を離した隙にバスがレッカー車に持って行かれてしまう。プラナイは必死で追い掛けてレッカー車を止めるが、ビシャールは神父に預けられたことを知る。 アムリターとプラナイは勇気を出して教会に潜入しビシャールを探す。二人は神父に捕まってしまうが、そこで両親とも再会する。もちろん、神父は赤ちゃんなど食べず、優しい人だった。
「Pahuna」は子供向け映画であり、ストーリーに極端な起伏はなく、小学校低学年の姉弟の視点から、小さな大冒険が描かれる。彼らの家族がなぜネパールの故郷を捨ててインドに逃げなければならなかったのか、明示はなかったものの、思い付くところでは、2000年代に起きたマオイストによる騒乱である。ギャーネーンドラ国王とマオイストの間で対立が激化し、国王が国民の支持を失った結果、王制が廃止された。ただ、「Pahuna」は、そういう政治的な背景を掘り下げるべき映画ではなく、やはり主人公のアムリターとプラナイのサバイバル生活を中心に捉えるべきである。
アムリターは3年生だと語っていたため、おそらく7-8歳くらいの年齢だと思われる。弟のプラナイはそれよりも年下になるが、二人の間で大きな年齢差は感じなかった。二人は、ネパールからインドへの逃亡途中に叔父から聞いた「ペリンの神父が赤ちゃんを食べる」という法螺話をすっかり信じ込んでしまい、インド行きを恐れて途中で逃げ出してしまう。そして森の中で見つけた廃バスに住み始める。彼らは、赤ん坊の弟ビシャールも連れていた。
子供たちだけで森の中で生活するのは困難に思われたが、意外に彼らにはサバイバル能力があり、料理もすれば、あるもので工夫して生活もする。そして慣れてくると、近くに住む人の手伝いをして報酬を受け取る。このまま長く生きて行けそうなくらい、生きる力が備わっていた。そして、母親の言い付け通り、姉弟同士協力し合って生き抜いていた。
子供向け映画なので、極端な不幸もない。ビシャールと離れ離れになってしまうものの、それがきっかけで彼らは教会に立ち入ることになる。そしてその教会には彼らの両親も辿り着いており、感動の再会になる。父親の死も示唆されていたが、怪我をしただけで生きていた。こうしてハッピーエンドになるのである。
なぜプリヤンカー・チョープラーがこのネパーリー語映画をプロデュースしたのか不明なのだが、彼女はこれより以前に「Mary Kom」(2014年)でマニプリー人女性ボクサー、メリー・コムを演じており、ノースイーストに縁ができたのかもしれない。映画の大部分はスィッキム州で撮影されているようである。
「Pahuna」は、小学生くらいのネパール人姉弟が両親からはぐれ、インドに越境して、スィッキム州の森の中で赤ん坊を育てながらサバイバル生活を送るというストーリーの子供向け映画である。ハラハラする展開ではあるが、深刻な悲劇はなく、牧歌的な雰囲気の中で進む微笑ましい作品だ。大人が観ても十分に楽しめる。