Ok Jaanu

3.5
Ok Jaanu
「Ok Jaanu」

 アーディティヤ・ロイ・カプールとシュラッダー・カプールが初共演した「Aashiqui 2」(2013年)は大ヒットとなり、二人はヒンディー語映画界の若手有望株として以後も活躍するようになった。意外にも二人の共演作はしばらく作られず、2作目の共演作となったのが、2017年1月13日公開の「Ok Jaanu」である。この映画は、マニ・ラトナム監督のタミル語映画「O Kadhal Kanmani」のリメイクである。

 「Ok Jaanu」の監督は、「Bunty Aur Babli」(2005年)などのシャード・アリー。著名な芸術家ムザッファル・アリーの息子であるシャード・アリー監督は依然、マニ・ラトナム監督のタミル語映画「Alaipayuthey」(2000年)をリメイクし、「Saathiya」(2002年)を撮っている。彼がラトナム監督の映画のリメイクをするのはこれが2回目である。アリー監督は、ラトナム監督の助監督として映画業界に入っており、ラトナム監督は彼の師匠にあたる。

 主演は前述の通りアーディティヤ・ロイ・カプールとシュラッダー・カプール。二人の共演は「Aashiqui 2」以来である。他に、ナスィールッディーン・シャーやリーラー・サムソンなどが出演している。

 米国で仕事をすることを夢見て、そのステップとしてムンバイーにやって来たアーディ(アーディティヤ・ロイ・カプール)は、駅でターラー(シュラッダー・カプール)という女性と出会う。ターラーはパリで建築を学ぶことを夢見ていた。二人はその後再会し、連絡を取り合う内に付き合うことになる。

 アーディは、兄のつてで、著名な裁判官ゴーピー(ナスィールッディーン・シャー)の家に居候していた。ゴーピーの妻チャールー(リーラー・サムソン)も著名な声楽家であったが、アルツハイマー症候群を発症しており、物忘れが酷かった。だが、ゴーピーはチャールーに愛情もって接していた。

 アーディはゴーピーとチャールーに掛け合って、ターラーと同棲することを許してもらう。半年間、二人は幸せな時間を過ごした。だが、アーディは米国に転勤となり、ターラーもパリの大学から入学許可が下りた。別れのときがやって来ていた。

 アーディとターラーは元々結婚するつもりがなかったが、ゴーピーとチャールーの仲睦まじさを見て考え直し、海外へ行く前に結婚することにする。

 インドを代表する映画監督であるマニ・ラトナム監督は、「Bombay」(1995年/邦題:ボンベイ)や「Guru」(2007年)のような硬派な映画も作るのだが、意外に軽めの娯楽映画も撮っており、この「Ok Jaanu」を観る限りでは、原作のタミル語映画「O Kadhal Kanmani」も後者の部類に入る映画だったのではないかと思われる。もちろん、シャード・アリー監督の作風もあるだろうが、「Ok Jaanu」はライトなノリのロマンス映画だった。

 結婚を否定する若い男女が紆余曲折を経て結婚するに至る、というプロットは、インド映画で過去に腐るほど繰り返されて来たものだ。序盤で男女が結婚を否定すればするほど、結末にてこの二人が結婚する確率は上昇する。「Ok Jaanu」も全くそのパターンであった。

 重要となって来るのは、なぜ二人は結婚を忌避し、どういうきっかけで二人が結婚を決意するに至ったか、である。「Ok Jaanu」のヒロイン、ターラーが結婚を否定していた理由は明確だった。彼女の両親は彼女が子供の頃に離婚しており、そのときに彼女は子供心に結婚はするまいと誓ったのである。アーディが結婚から逃げる理由は明確ではなかったが、プレイボーイということでいいだろう。

 アーディとターラーは、居候先の老夫婦、ゴーピーとチャールーの仲睦まじさに感服する。チャールーはアルツハイマー症候群を発症していたが、ゴーピーは辛抱強く愛情を持って彼女と接していた。理想の夫婦の姿を彼らに見出したアーディとターラーは、結婚を決意するのである。いかにも美しくまとまった改心のきっかけであったが、斬新さに欠けるのは否めない。

 目新しさがあったのは、アーディとターラーが、ゴーピーとチャールーに直談判して同棲を認めてもらうシーンだ。インド社会ではまだまだ未婚の男女が同棲することは容認されていない。二人の両親に認めてもらった訳ではないものの、ガーディアンからきちんと了解を取って同棲するというのは面白かった。ゴーピーは断固反対するものの、チャールーがターラーの声楽の才能を気に入ったため、一転して二人の同棲は認められる。

 結婚するか否かという命題に加えて、アーディとターラーが直面したのは、仕事を取るか、恋愛を取るか、という難しい選択であった。二人ともそれぞれの夢を追っており、恋愛を選ぶことは、両方が、もしくは片方が、夢を諦めることとほぼ同義であった。同種のテーマを扱った映画には「Love Aaj Kal」(2009年)などがあるが、恋愛映画である以上、仕事よりも恋愛を重視する終わり方をするのが普通だ。「OK Jaanu」では驚くべきことに、二人は結婚をした後、それぞれ米国とフランスに旅立つ。そして離れ離れの生活はエンドクレジットにてアニメで足早に語られる。どちらかというと、こちらの方がより掘り下げて欲しかったテーマだったので、この締め方は手抜きに感じられた。

 アーディティヤ・ロイ・カプールとシュラッダー・カプールの相性は抜群であった。二人とも主演を張れるスターではあるのだが、どちらかと言うと庶民っぽさがあって、インドの若者にアピールする映画にピッタリである。特にシュラッダーは、すねた顔の中に笑みを浮かべるような表情を上手に表現していた。彼氏の前でわざとすねて立ち去るが、その彼氏が追いかけて来たのを見て、彼氏に顔を見せずに微笑む、と言ったシーンがいくつかあり、シュラッダーの可愛さがにじみ出ていた。

 ナスィールッディーン・シャーも助演ながら重要な役で、映画にウィットをもたらしていた。職業は裁判官ながら音楽の愛好家であり、古典声楽家である妻を心から愛する優しい老人を演じていた。役の名字はシュリーワースタヴァ。カーヤスト・カーストに典型の名字で、彼の家系はウルドゥー語を使いこなす文官系であることが分かる。妻のチャールーを演じたリーラー・サムソンはバラタナーティヤムの舞踊家である。

 音楽はARレヘマーン。大半の曲は原作「O Kadhal Kanmani」の使い回しであり、歌詞だけグルザールが新たに書き起こしている。一昔前のレヘマーンらしい、透明感のある聞き心地のいい曲が多い。注目なのは「Bombay」で使われた「Hamma Hamma」のリメイク「The Hamma Song」だ。「Bombay」の音楽もARレヘマーンが作曲したので、セリフリメイクとなる。

 ターラーは建築家志望で、アハマダーバードに行くシーンがあった。アハマダーバードには中世から現代にかけて重要な建築物が集まっており、建築学史上、重要な地位を占めている。アハマダーバードの旧市街はユネスコ世界遺産にも登録されている。また、アハマダーバードのシーンで建築について講義をしていたバールクリシュナ・ドーシーはインドを代表する建築家で、本人が出演していた。ル・コルビュジエの弟子で、インドのモダニズム建築家の代表だ。実際に彼の関わった建築物でもロケが行われていた。

 一方、アーディはゲームクリエイターであった。インド映画の主人公の職業としては変わっている。彼は「Mumbai 2.0」という3Dアクションゲームを作り、高く評価されていた。彼の携帯電話の呼び出し音は、日本のゲーム会社コナミの「魂斗羅」である。

 「Ok Jaanu」は、マニ・ラトナム監督のタミル語映画を、その弟子のシャード・アリー監督がヒンディー語でリメイクした作品だ。結婚を否定する若い男女が同棲を経て考えを変え、結婚するまでを描いたライトタッチのロマンス映画で、ARレヘマーンによる音楽も心地よい。ただ、最後はかなり強引にまとめてしまっていた印象で、必ずしも完璧な映画ではなかった。