Tum Bin 2

3.5
Tum Bin 2
「Tum Bin 2」

 2001年に公開されたロマンス映画「Tum Bin(君がいなくては)」は、恋人の突然の死に沈む女性の前に新しい男性が現れるという筋書きの物語で、低予算の割にはそこそこの成功を収めた映画であった。また、この作品はアヌバヴ・スィナー監督のデビュー作でもあった。あれから15年の歳月が過ぎ、「Tum Bin 2」が2016年11月18日に公開された。インドではよくあることだが、「~2」と付いていながら、ストーリー上のつながりがある続編ではなく、キャストにも連続性はない。だが、アヌバヴ・スィナー監督が前作に引き続き監督を務め、プロデューサーもTシリーズのブーシャン・クマールで変わらない。

 前作の主要キャラ3人を演じたのは、プリヤーンシュ・チャタルジー、サンダリー・スィナー、ヒマーンシュ・マリクという新人・若手俳優たちであった。この中でプリヤーンシュに関しては、その後も一定の活躍をしているが、それ以外の俳優たちは、正直言って業界に定着できずに消えて行った。「Tum Bin 2」の主演は、アーシム・グラーティー、ネーハー・シャルマー、アーディティヤ・スィールである。アーシムは新人だが、他の二人は過去にも出演作がある。

 他に、カンワルジート・スィン、ソニア・バラーニー、メヘル・ヴィージなどが出演している。また、前作のヒロイン、サンダリー・スィナーが特別出演している。さらに、ダンスナンバー「Ki Kariye Nachna Aaonda Nahin」では、歌手ハーディー・サンドゥー、ラフタール、ネーハー・カッカルが特別出演し、モウニー・ロイがアイテムガール出演している。

 英国エジンバラに住むタラン(ネーハー・シャルマー)は、許嫁のアマル(アーシム・グラーティー)と共にスコットランドのスキーリゾートに出掛けた。ところが、アマルはスキー中に行方不明となる。アマルの父親(カンワルジート・スィン)がリゾートに駆けつけ、救助隊からの報告を待つが、アマルは見つからなかった。二人は失意のままエジンバラに帰る。

 タランもアマルの父親も、アマルの死を受け容れようとしていた。そんなとき、アマルの父親はタランに、友人の息子シェーカル(アーディティヤ・スィール)を紹介する。タランはペーストリー店を開業しようとしており、ケーキを焼くのが得意なシェーカルが彼女のサポートをする。タランの姉、マンプリート(メヘル・ヴィージ)とグルプリート(ソニア・バラーニー)もシェーカルのことが気に入る。やがて、タランとシェーカルは恋仲になる。

 ところが、アマルが生きていることが分かり、8ヶ月振りに帰って来る。アマルの父親は大喜びするが、シェーカルを愛し始めていたタランは動揺する。そしてアマルに、タランがいなかった間、シェーカルを愛するようになったことを打ち明ける。アマルは潔く身を引き、タランをシェーカルに譲ろうとする。

 しかし、今度はシェーカルが動揺した。実は彼は、アマルの事故の原因となった人物で、その罪滅ぼしのためにタランの前に現れたのだった。シェーカルはタランを置いて立ち去ろうとする。タランは空港までシェーカルを追い掛ける。だが、シェーカルの気持ちは変わらず、タランをアマルに託して去って行く。

 許嫁の突然死から始まる恋の三角関係という点では、前作「Tum Bin」と導入部は共通していた。題名が「君がいなくては」なので、恋人がいなくなる前提のロマンスであることは頷ける。ただ、三角関係の構成は異なっていた。前作では、死んだ許嫁が復活することはなかったが、本作では死んだと思われた許嫁がインターバル後に復活し、彼がいない間にヒロインと恋仲になった第三の男と火花が散ることになる。

 ただ、「Tum Bin」シリーズは上品なロマンス映画である。恋の三角関係に身を置くことになり、嫉妬に駆られた男性が、相手の女性や別の男性に極端な手段に出ることはない。むしろ、自分の愛する女性を別の男性に譲ろうとする。女性としては、2人の男性が自分を巡って争い合うのも困りものであろうが、2人の男性が自分を譲り合うというのも、かなり困ってしまう事態ではないかと思われる。許嫁だったアマルは、8ヶ月間、タランを苦しめたことの責任を感じ、その間彼女を支えたシェーカルにタランを譲ろうとする。一方、シェーカルは、アマルの事故の原因を作ったことに責任を感じており、一時はタランと愛し合うことで、彼女の悲しみを洗い流そうとするのだが、アマルが生還したことで、身を引くことを決める。果たしてタランはアマルと結ばれた方が良かったのか、シェーカルと結ばれた方が良かったのか。賛否両論の結末であろうが、個人的にはシェーカルと結ばれた方が良かったのではないかと感じた。

 登場人物はそんなに多くないのだが、人間関係は特殊だった。アマルの父親は、息子の許嫁であるタランの姉妹ととても仲が良く、彼女たちを頻繁に訪ねている。彼女たちからも「パパジー(お父さん)」と呼ばれているので、一瞬彼がどちらの実の父親なのか分からなくなるが、アマルの父親で正解のようだ。また、アマルの父親ならば、アマルとタランを結婚させようとするはずだが、彼もとても思いやり深い人物で、シェーカルにも十分に配慮し、シェーカルとタランが結婚することを推すような動きもあった。この辺りも、とても上品な映画に仕上がっていた原因だったと思う。

 とにかく「Tum Bin 2」の登場人物の中には利己的な行動に出る者がおらず、インド映画のお約束であるドロドロした人間関係がほとんどないのである。まるで雪山の澄み切った空気のように清浄なロマンス映画であった。

 ただ、タランの姉グルプリートがパーキスターン人と結婚しようとしている部分にはインド映画らしさが出ていた。グルプリートの姉マンプリートは、妹がパーキスターン人と結婚することに大反対であった。しかしながら、会ってみると、相手のハリーは意外に好人物であった。しかもヒンドゥー教徒のパーキスターン人という珍しい設定であった。パーキスターンの人口の大半はイスラーム教徒だが、他の宗教を信仰する人々も少数派ながら存在する。ヒンドゥー教徒の人口は2.14%とされている。パーキスターンのヒンドゥー教徒が主題の「Ramchand Pakistani」(2008年)というパーキスターン映画も過去にあった。

 Tシリーズ製作の映画であるため、音楽が非常に良かった。特にテーマソングとも言える、ジャグジート・スィンとレーカー・バールドワージが歌うガザル曲「Teri Fariyad」は最高傑作だ。この曲は、前作で「Koi Fariyad」という題名で使われていたもののリメイクである。劇中で何度もリフレインされ、映画を盛り上げていた。

 「Tum Bin 2」は、2001年に公開され一定の成功を収めたロマンス映画「Tum Bin」の続編にあたる。ストーリー上の連続性はないが、前作と似た導入であり、恋の三角関係を中心に展開する点でも共通している。登場人物がほとんど利己的な行動を起こさないため、とても上品なロマンス映画に仕上がっている。インド映画らしくない上品さで、かえって欠点に感じるくらいだ。近年、ヒンディー語映画界では正統派ロマンス映画が減っているので、貴重な作品と言える。