Dongri Ka Raja

2.5

 ムンバイー北郊のドーングリーといえば、1993年のボンベイ同時爆破テロの首謀者ダーウード・イブラーヒームが本拠地としていた地域である。2016年11月11日公開の「Dongri Ka Raja」は、「ドーングリーの王」という意味であり、ダーウード・イブラーヒーム関連の映画だと推測できる。ただ、実際に映画を観てみると異なる映画であった。マフィアの映画ではあったが、狂おしいロマンス映画となっていた。

 監督はハーディー・アリー・アブラール。あまり名前を聞いたことがなかったが、俳優ゴーヴィンダーの従兄弟であったり、女優クムクムの甥であったりして、業界に強力な血縁を持った人物のようである。主演のガシュミール・マハージャニーはマラーティー語映画俳優ラヴィンドラ・マハージャニーの息子で、自身もマラーティー語映画界で活躍している。ヒロインは新人リチャー・スィナー。また、重要な役を、アミーシャー・パテールの弟アシュミト・パテールと演技派俳優ローニト・ロイを演じてる。他に、アシュウィニー・カルセーカル、サチン・スヴァルナー、カムレーシュ・サーワントが出演している。また、ムケーシュ・ティワーリーが特別出演、映画中では使われていないアイテムナンバー「Choli Block Buster」でミート・ブロスと共にサニー・リオーネがアイテムガール出演している。

 ラージャー(ガシュミール・マハージャニー)は、ドーングリーを支配するマフィアのドン、マンスール・アリー(ローニト・ロイ)の養子であり、殺し屋だった。ラージャーはガネーシュ・チャトゥルティー祭のときにシュルティ(リチャー・スィナー)と出会い、恋に落ちる。ラージャーは、職業を不動産ブローカーと偽って彼女と付き合い出す。

 一方、ムンバイー警察のスィッダーント・プラブー警部補(アシュミト・パテール)はマンスール・アリー逮捕を使命と考えていた。だが、マンスールやラージャーを逮捕するための証拠は何も手に入らなかった。スィッダーントの上司サダーシヴ・ダーミエー警部補(カムレーシュ・サーワント)はマンスールと通じており、彼の捜査を妨害していた。

 ラージャーはシュルティと結婚しようとする。ラージャーの義母ルクサーナー(アシュウィニー・カルセーカル)はシュルティを嫁として認めるが、マンスールは認めなかった。また、シュルティの両親からも拒絶された。そこでラージャーとシュルティは親に黙って寺院で結婚しようとする。だが、そこへスィッダーント警部補が駆けつける。実はシュルティはスィッダーント警部補の妹だった。マンスールやラージャーを逮捕するための証拠を集めるためにシュルティはラージャーに接近していたのだった。ラージャーは逮捕される。

 ところが、ルクサーナーからラージャーが本当にシュルティを愛しており、彼女のために正しい道を歩もうと決意したことを聞き、シュルティは裁判所で兄を裏切り、マンスールやラージャーに関する証拠の存在を否定する。おかげでラージャーは釈放される。マンスールからシュルティの抹殺を命じられたラージャーは、シュルティから本当にラージャーを愛するようになってしまったと聞いてもそれを信じられず、彼女を撃って逃亡する。だが、シュルティは生きていた。病院に現れたラージャーは再びシュルティを殺そうとするが、待ち構えていたスィッダーント警部補に逮捕される。

 スィッダーントはわざとラージャーを逃がし、内通者のダーミエー警部補を殺す。ラージャーとシュルティはムンバイーの外に逃げようとするが、スィッダーントが行く手を阻む。ラージャーには、ダーミエー警部補殺人の容疑が掛けられていた。ラージャーはシュルティを人質に取るが、スィッダーントはラージャーを殺す。

 脚本が散らかった作品だった。ヒロインのシュルティが実はスィッダーント警部補の妹で、殺し屋のラージャーを裏切る前半までの展開はまだ良かったが、後半になると、シュルティが兄を裏切ってラージャーのシンパになってしまうという、かなり極端な振れがあり、観客を置いてけぼりにしていた。だが、そういう極端な展開がかえってこの映画の持ち味になっていたようにも思えた。ヘタウマな絵というのがあるが、「Dongri Ka Raja」はヘタウマな映画という印象を受けた。

 殺し屋が恋をしてしまうという筋書きの映画はインド人の好みのようで、「Gangster」(2006年)から「Ek Villain」(2014年)まで、いくつか作られている。普通に考えたら、常に命を危険にさらしている殺し屋が、そう簡単に一人の女性に恋してリスクを背負うことはなく、多くの場合、悲劇で終わるのだが、いつ死ぬか分からない、はかない命の最後の煌めきのような狂おしい恋愛譚は感動を呼ぶのであろう。「Dongri Ka Raja」もその種類のロマンス映画だった。よって、マンスール・アリーやラージャーが殺人や脅迫などの犯罪に手を染めているシーンは少なく、敵マフィアと警察の標的になっているラージャーが、抜け道のない恋愛の街道を突っ走る様子が、あまり熟していない脚本と共に描かれる。

 この映画でもっとも弱いのは、シュルティのキャラクターだ。警察官をする兄のために殺し屋に接近して色目を使うところから信憑性が低いが、ラージャーの母親から一言言われただけで兄を簡単に裏切ってしまうというのは、インド社会における家族の在り方から考えると、全く有り得ない展開である。スィッダーントとシュルティの兄妹関係は特に悪くなく、こんな些細なことで兄を裏切ることは非現実的だ。シュルティは、ラージャーに銃で撃たれても、死なないばかりか、まだ彼のことを愛し続けており、呆れるほどいかれたキャラになってしまっていた。

 主演であるガシュミール・マハージャニーやリチャー・スィナーはまだまだ若く、演技に重みがなかった。落ちぶれた俳優アシュミト・パテールも、インパクトに欠けていた。だが、ベテラン俳優ローニト・ロイ演じるマンスール・アリーの存在感が圧倒的で、ほぼ独力で映画を一定のレベルに持ち上げていた。

 「Dongri Ka Raja」は、マフィアのドンに息子同然に可愛がられる殺し屋と、その殺し屋に恋してしまった女性のロマンス映画である。脚本が未熟で、物語が不自然にアップダウンするのだが、その異常な動きに慣れてしまえば、ヘタウマな脚本を楽しめるようになる。それでも、無理して観なければならない映画ではない。