Shorgul

3.0
shorgul

 インドは普段は異なる宗教コミュニティーが共存している社会なのだが、時々たがが外れ、大きな暴動となることがある。2013年のムザッファルナガル暴動は、ウッタル・プラデーシュ州の北西部にある都市ムザッファルナガルにて、ヒンドゥー教徒とイスラーム教徒の間で起こったコミュナル暴動であった。きっかけは交通事故や女性への嫌がらせのような些細なことだったようなのだが、それが宗教色を帯び、両コミュニティー同士の大規模な衝突に発展した。少なくとも62人の死者が出たとされている。

 2016年7月1日公開の「Shorgul(騒乱)」は、ムザッファルナガル暴動を基にして作られた政治ドラマ映画である。監督は新人のプラナヴ・スィン。キャストは、アーシュトーシュ・ラーナー、ジミー・シェールギル、アニルッド・ダヴェー、スハー・ゲゼン、ナレーンドラ・ジャー、ヒテーン・テージワーニー、サンジャイ・スーリー、アイジャーズ・カーン、ディープラージ・ラーナーなどが出演している。また、リシター・バットがアイテムナンバー「Mast Hawa」にアイテムガール出演している。

 舞台はウッタル・プラデーシュ州マリーハーバード。チャウダリー(アーシュトーシュ・ラーナー)は人々から尊敬されるジャートの政治家であった。マリーハーバードではヒンドゥー教徒とイスラーム教徒の間で緊張が高まっており、チャウダリーと対立する州議会議員ランジート・オーム(ジミー・シェールギル)は、宗教カードをうまく使って国会議員になろうとしていた。

 チャウダリーの息子ラグ(アニルッド・ダヴェー)は、隣に住むイスラーム教徒の女性ザイナブ(スハー・ゲゼン)に片思いをしていた。だが、ザイナブは、サリーム(ヒテーン・テージワーニー)と結婚することが決まっていた。サリームは、ラグがザイナブのことを好きだと気付き、そのことを彼女にも言う。そして、ラグとはもう話さないように指示する。しかし、ザイナブはラグに気持ちを問いに行く。二人が橋の上で会っているところを、サリームと従兄弟のムスタキーム(アイジャーズ・カーン)に見つかってしまう。ムスタキームはラグを刃物で刺し、川に捨てる。チャウダリーは息子の死を知って悲しむが、ヒンドゥー教徒とイスラーム教徒の間でこれ以上緊張が高まらないように努める。

 ところが、ランジートはヒンドゥー教徒を煽ってイスラーム教徒に対する暴動を扇動する。また、ムスタキームはザイナブを殺そうとし、彼女を守ったサリームを殺してしまう。ムスタキームは警察官(ディープラージ・ラーナー)に殺される。ザイナブは暴動の起きた町の中を駆け抜け、チャウダリーに匿われる。

 チャウダリーはザイナブを町の外へ送り届けようとするが、彼女の居所を嗅ぎつけたランジートがやって来て、彼女を引き渡すように要求する。チャウダリーは追い返すが、やはり暴徒はザイナブを狙っており、チャウダリーはザイナブを連れて逃げる。チャウダリーはランジートの刺客によって殺されてしまうものの、何者かに助けられる。

 半年後。ヒンドゥー教徒の票を集めたランジートは選挙に勝利し、国会議員になった。実は彼の勝利には、イスラーム教徒を煽っていたマウラーナーも関わっていた。だが、凱旋パレード中にランジートはイスラーム教徒の女性に殺されてしまう。それはザイナブであった。そして、裏で手を引いていたのは、ランジートの側近だったシヴァーであった。

 ヒンドゥー教徒男性ラグとイスラーム教徒女性ザイナブの異宗教間恋愛が、前からくすぶっていた両宗教間の緊張状態の起爆剤となり、町が暴動によって血に染められて行く様子が描かれた映画だったが、決してそれは自然発生的な暴動ではなかった。間もなく行われる選挙を有利に進めるためのアジェンダとして宗教ネタを欲しがっていた政治家ランジートが煽ったものだった。

 映画の登場人物は、宗教で人を色分けする原理主義者ばかりではなかった。チャウダリーはヒンドゥー教徒であったが、イスラーム教徒の隣人とも親しく、宗教の上にヒューマニズムがあるというリベラルな考え方をしていた。ザイナブの許嫁サリームも、イスラーム教は人と人をつなげる宗教だと信じており、イスラーム教原理主義に染まって行く従兄弟のムスタキームに警戒していた。だが、この二人は暴動の中で命を落としてしまう。

 さらに皮肉なのは、暴動を煽ったランジート自身があまり宗教的な人間ではなかったことだ。映画の最後で明らかにされるのは、イスラーム教徒側で暴動を煽っていたマウラーナーがランジートと通じていたということだ。つまり、ランジートとマウラーナーは結託して両宗教間での対立を煽り、それぞれのコミュニティーの票を集めることで、選挙を有利に進めようとしていた。彼にとって宗教は単なる政争の道具でしかなかった。果たして、元々州議会議員だったランジートは国会議員に選出され、その代わりにマリーハーバード選出の州議会議員となったのがマウラーナーであった。

 しかも、ランジートはザイナブによって殺されてしまう。ザイナブはランジートの煽った暴動によって許嫁のサリームを殺され、実の叔父さんのように慕っていたチャウダリーも殺され、家族も失ってしまった。その復讐のために拳銃を手に入れてランジートに発砲したわけだが、それを裏から操ったのは、ランジートの側近のはずだったシヴァーであった。足が悪いシヴァーは、ランジートが国会議員となった暁には自分が州議会議員になるものだと考えていたが、ランジートは彼が障害を抱えていることを取り上げて一笑に付す。それを恨みに思っていたシヴァーは、暴動から逃亡中だったザイナブを密かに救出して刺客に育て上げたのだった。ちなみに、シヴァーはヒンドゥー教徒であり、ザイナブはイスラーム教徒である。

 映画の大部分はヒンドゥー教徒とイスラーム教徒の間の暴動に費やされているが、結局、両宗教間の対立はあまり宗教に関心のない政治家によって引き起こされており、政争の現場では宗教の別なく離合集散が繰り返されている。宗教の映画というよりは完全な政治ドラマであった。

 「Shorgul」では、普段過小評価されている演技派俳優たちの演技を楽しむことができる。アーシュトーシュ・ラーナー、ジミー・シェールギル、サンジャイ・スーリー、ディープラージ・ラーナーなどである。ヒロインのスハー・ゲゼンはドイツ生まれのインド人女優のようだが、あまり情報がない。頑張っていたが、オーバーアクティングに思われる場面も少なくなかった。ラグを演じたアニルッド・ダヴェーやサリームを演じたヒテーン・テージワーニーはTVドラマ俳優である。

 「Shorgul」は、2013年のムザッファルナガル暴動を着想源にして作られた政治ドラマである。コミュナル暴動が政治家たちの政争に使われている様を映し出していた。普段過小評価されている俳優たちがここぞとばかりに表舞台で伸び伸びと演技をしている。人が死にすぎで救いがないところが玉に瑕だが、悪い映画ではない。