Jai Gangaajal

4.0
Jai Gangaajal
「Jai Ganjaajal」

 プラカーシュ・ジャー監督は硬派な政治ドラマを撮ることで知られた人物であり、彼の「Gangaajal」(2003年)は傑作のひとつに数えられている。2016年3月4日に公開されたプラカーシュ・ジャー監督の「Jai Gangaajal」は、その続編に位置づけられる作品だ。ただし、ストーリー上のつながりはなく、主人公も変わっている。その代わり、悪徳政治家と汚職警官が結託して一般市民を抑圧していた地方都市に赴任した実直な警視が警官たちを改心させ不正を一掃するというプロットは共通している。

 前作「Gangaajal」で正義の警視を演じたのはアジャイ・デーヴガンだったが、今作「Jai Gangaajal」の主演を演じるのはプリヤンカー・チョープラーだ。つまり、女性警視に変わっている。「Mardaani」(2014年)でラーニー・ムカルジーが勇敢な女性警官を演じ賞賛を浴びたが、その流れにプリヤンカーも乗った形だ。

 プラカーシュ・ジャー監督自身も重要な役で出演しており、準主役の位置づけである。他に、マーナヴ・カウル、ニナド・カーマト、ムラリー・シャルマー、ラーフル・バット、キラン・カルマルカル、ジャガト・スィン・ソーランキーなどが出演している。

 ちなみに「Gangaajal」とは「ガンジス河の聖なる水」のことだ。「Jai」は「万歳」「勝利」という意味である。前作では「酸」の暗喩として「ガンガージャル」が使われていた。「ガンガージャル」は罪を洗い流す聖水とされる。前作では社会悪を抹消して浄化するものとして「酸」が登場し、不正に怒った民衆が犯罪者に酸を掛けて復讐するという運動が描写されていた。

 マディヤ・プラデーシュ州バーンキープル県ラーキーサラーイでは、州議会議員のバブルー・パーンデーイ(マーナヴ・カウル)とその弟ダブルー(ニナド・カーマト)が横暴の限りを尽くしていた。バブルーは、ラマーカーント・チャウダリー内務大臣(キラン・カルマルカル)と結託して、村人たちが市場としていた土地に火力発電所を建設しようとしていたが、土地の売却を頑として拒む農民がいた。バブルーは、ダブルーや手下のムンナー・マルダーニー(ムラリー・シャルマー)を使って農民たちを脅し、言うことを聞かない者は殺して、自殺したということにしていた。

 チャウダリー内務大臣は、旧知の友人の娘であるアーバー・マートゥル警視(プリヤンカー・チョープラー)を新たにバーンキープル県の警察のトップに任命する。マートゥル警視には穏便な対応を期待していたが、彼女は犯罪者に対してゼロトレランスの態度で臨んだ。BNスィン警部(プラカーシュ・ジャー)はバブルーなどと密通し、彼らの犯罪を隠蔽する役割を果たしていたが、マートゥル警視の真摯な仕事振りを見て良心を呼び起こされる。

 土地の売却を急ぐため、ダブルーはなかなか土地を売らなかった家の娘スニーターを誘拐し、彼女を強姦した末に殺して木から吊るす。マートゥル警視はBNスィン警部が関与したと考え、彼を停職とする。だが、心を入れ替えたBNスィン警部は個人的にダブルー有罪の証拠を集めようとする。ダブルーはBNスィン警部を罵倒するが、BNスィン警部は一歩も引かず、彼を打ちのめす。そして最後に彼にとどめをさせたのがスニーターの弟ナーゲーシュだった。ナーゲーシュの復讐を見て民衆は蜂起し、悪党を「自殺」と見せ掛けて抹殺する手段を採ろうとし出す。BNスィン警部はナーゲーシュを匿うことにする。

 弟が殺されたことで激昂したバブルーは、ナーゲーシュを血眼になって探し出す。バブルーはBNスィン警部にも暴行を加え、ナーゲーシュの居場所を聞き出そうとするが、彼は口を割らなかった。しかし、遂にナーゲーシュは見つかってしまい、ムンナーに誘拐され、バブルーに引き渡される。

 スニーターを助けられなかったBNスィン警部は、ナーゲーシュだけは守ろうと、単身バブルーを追う。そしてバブルーを首吊りにして殺そうとするが、それをマートゥル警視に止められる。バブルーは逮捕され、ナーゲーシュは救出される。

 前作で社会悪を浄化するアイテムとして登場したのが「酸」であり、これが「ガンガージャル」と呼ばれていた。今作で「酸」の代わりになっていたのは「吊り輪」だ。

 インドでは借金漬けになった農民の自殺が後を絶たず、社会問題化している。だが、ラーキーサラーイを支配する悪党たちはこの社会問題を悪用し、火力発電所建設用地となった土地の売却を拒む農民を殺した上に自殺ということにして、法の裁きから逃れていた。しばらく民衆はその横暴に黙って耐えていたが、新しく赴任したマートゥル警視、心を入れ替えたBNスィン警部、そして父や姉を殺された少年ナーゲーシュの復讐などを目の当たりにして、「自殺」には「自殺」で対抗することを決める。つまり、犯罪者たちを殺し、遺体を木から吊して、「自殺」ということにしようとしたのだ。

 前作「Gangaajal」では、アジャイ・デーヴガン演じるアミト・クマール警視は、民衆による私刑から犯罪者を守り、法に則った裁きを受けさせようとするが、結局は彼らの命を救うことができなかった。だが、この「Jai Gangaajal」では、諸悪の根源であるバブルーを殺さずに結末を迎えていた。BNスィン警部がバブルーを首吊りにしようとするが、それをマートゥル警視が止めたのである。ただし、記者からバブルー逮捕の理由を聞かれたマートゥル警視は、彼が自殺未遂をしようとしたと答える。ちなみにインド刑法(IPC)309条において自殺未遂は犯罪として規定されている。

 プリヤンカー・チョープラーは女性警視役を凜とした演技で演じ切った。犯罪者と通じた汚職警官だらけの警察署に赴任したが、新米であること、また、女性であることを全くハンデと感じさせず、汚職警官や犯罪者たちに対して常に毅然とした態度で臨んだ。その姿はとてもかっこいい。終盤で一瞬だけ弱さを見せるシーンもあるのだが、9割以上はどんなことが起こっても眉一つ動かさず果敢に立ち向かった。「Mardaani」でラーニー・ムカルジーが演じたシヴァーニー・シヴァージー・ロイ以上に勇敢な女性警官であった。

 ただし、プリヤンカーが演じたマートゥル警視は常に正論すぎて、映画のキャラとしては面白味がない。そういう意味では、プラカーシュ・ジャー監督自身が演じたBNスィン警部の方が面白いキャラだった。汚職警官として登場するが、マートゥル警視の毅然とした警官振りに感化され、今までの悪事を返上すべく、心を入れ替えて事件に当たり出す。マートゥル警視には一旦、汚職警官としてレッテルを貼られてしまったので、なかなか信頼してもらえないのだが、彼はひたすら行動によって自分の変革を証明する。最後にはマートゥル警視も彼を認める。彼はスニーターを助けようとして助けられず、強い無念を抱いた。よって、弟のナーゲーシュは必ず助けると決意する。ストーリーの進展と共にもっとも成長を見せたのはBNスィン警部であり、この映画でもっとも観客の注目を集めるのも彼である。

 もちろん、勧善懲悪型の映画では悪役の存在感も重要だ。マーナヴ・カウル、ニナド・カーマト、ムラリー・シャルマーなどが憎々しく悪役を演じ、映画を異なる方向から支えていた。

 「Jai Gangaajal」は、プラカーシュ・ジャー監督が得意とする政治ドラマであり、「Gangaajal」と似たプロットの映画だ。前作では実現できなかったことが今作で実現しており、暴力では暴力は解決しないというメッセージが明確になっている。主演プリヤンカー・チョープラーの演技はもちろんのこと、ジャー監督自身も出演している上に、実はプリヤンカーよりもおいしい役を演じており、注目だ。必見の映画である。