Calendar Girls

3.0
Calendar Girls
「Calendar Girls」

 リアリスティックなフィクション映画を撮ることで知られるマドゥル・バンダールカル監督。毎回センセーショナルな主題を選び、その裏舞台を赤裸々に映し出すのを持ち味としている。2015年9月25日公開の「Calendar Girls」は、その題名の通り、カレンダーガールを主人公にした映画である。インドにおいてカレンダーガールといえば、ユナイテッド・ブリュワーズが製作しているキングフィッシャー・カレンダーが有名だ。水着の女性モデルの写真が使われ、モデルにとっては登竜門となっている。

 映画で取り上げられるカレンダーガールは5人。全員新人の女優たちで、アーカーンクシャー・プリー、アヴァーニー・モーディー、カーイラー・ダット、ルーヒー・ディリープ・スィン、サタルパー・パーイネー。他に、キース・サキーラー、ディーパク・ワードワー、インドラニール・セーングプター、ヴィクラム・サカルカル、ミーター・ヴァシシュトなどが出演している。

 水着を着た美女の写真が売りのカレンダーに今年も5人の美女が選ばれた。ハリヤーナー州ロータク在住のマユーリー・チャウハーン(ルーヒー・ディリープ・スィン)、コルカタ在住のパローマー・ゴーシュ(サタルパー・パーイネー)、ハイダラーバード出身のナンディター・メーナン(アーカーンクシャー・プリー)、パーキスターンのラホール出身ロンドン在住のナーズニーン・マリク(アヴァーニー・モーディー)、そしてゴア出身のシャロン・ピントー(カーイラー・ダット)である。五人はモーリシャスで撮影を行い、カレンダーが完成した。カレンダーが発表されると、五人は一躍有名人となった。

 上昇心の強いマユーリーは女優の道を突き進む。現場のスタッフに気配りを忘れず、日常の些細なこともSNSでファンに報告し、全ての人の心を掴んだ。マユーリーはマドゥル・バンダールカル監督に取り入ることにも成功する。

 パローマーは、コルカタ時代の恋人ピナキー(キース・サキーラー)と再会する。ピナキーはクリケット界に人脈を持っていた。ピナキーはクリケット賭博に関わっており、パローマーを使って選手の買収をする。だが、中央捜査局(CBI)はクリケット賭博の捜査を進めており、パローマーも関係者として逮捕される。そのときピナキーは既に国外逃亡した後だった。パローマーは釈放されたものの、家族からも見捨てられてしまい、自殺を考えた。そのとき、リアリティーショー出演のオファーを受ける。

 ナンディターは、大富豪ハルシュ・ナーラング(ヴィクラム・サカルカル)に求婚され、モデルを止めてハルシュと結婚する道を選ぶ。だが、ハルシュは結婚後も女遊びを止めず、ナンディターは孤独感を強めていた。

 ナーズニーンは女優としての道を歩み始めるが、印パ関係の悪化により降板させられる。その後はエスコートガールとなって生計を立てるが、ナンディターの夫ハルシュとも寝なければならず、自己嫌悪に陥る。最後には事故で死んでしまう。

 シャロンはアニルッドをマネージャーにするが、彼と仲違いし、業界から追放される。ニュース番組で働くシャシャーンク(インドラニール・セーングプター)と出会い、彼の勧めで娯楽番組のアンカーを務めるようになる。それが好評で、彼女はデリーでニュースアナウンサーとなる。

 「Calendar Girls」という題名ではあるが、この映画が描こうとしているのは、女性たちがカレンダーガールになるまでの苦労ではなく、カレンダーガールに選ばれた女性たちのその後である。ある年のカレンダーガールとなった5人の女性たちは、各者各様の人生を歩むことになる。それぞれのエピソードはほぼ独立しているが、いくつかは交差するものもある。ハッピーエンディングと呼べるのは2つだけで、残りの3つはバッドエンディングといえるだろう。マドゥル・バンダールカル監督によると、この映画のエピソードの75%は真実だという。どこかで聞いたような話が含まれている。

 一番単純なエピソードはマユーリーのものだ。マユーリーはハリヤーナー州のロータク出身。出身地からは田舎娘というイメージだが、5人の中ではもっとも野心的で、自分の売り込み方をもっとも心得ている女性であった。周囲に対して徹底的な気配りをし、ちょっとしたチャンスを大きな成功に変える力を持っていた。マユーリーのその後には全く障害がなく、順風満帆な人生が暗示されている。

 ナンディターのエピソードもよくあるものである。大富豪との結婚という幸運に恵まれるが、それと引き換えに彼女はモデルを止めなければならなかった。夫のハルシュは女好きで、孤独感を強めて行く。義理の両親に相談しても、「これがナーラング家の伝統だ」と逆に説得されてしまう。結婚と引き換えに夢を諦めた女性の行く末がダークなトーンで描かれていた。

 シャロンはカレンダーガールになった後、アップダウンを経験している。有能なマネージャーを獲得し、これからどんどん売り出して行こうとしたときに、マネージャーのアニルッドがプライベートな事柄を友人に言い触らしていたことが分かり、クビにする。業界に影響力を持っていたアニルッドがシャロンを村八分状態にしたため、シャロンは八方塞がりとなる。だが、「捨てる神あれば拾う神あり」という諺の通り、TV業界に活路を見出し、ニュースレポーターに転身した。自分の価値について妥協せず、常に前向きに生きることで、どんな困難な状況でも新たな道が拓けることを示していた。

 5人の中でもっとも不幸なその後を経験したのはナーズニーンであろう。パーキスターン人ながらインドの娯楽産業に飛び込み、成功を掴みかけるが、印パ関係の悪化という不可抗力によって行く道を塞がれ、エスコートガールに身を落とす。ナンディターの夫ハルシュも顧客であり、彼と寝なければならなかったことで、ナーズニーンは自己嫌悪に陥る。最後は交通事故死する。

 パローマーも基本的には不幸を経験した女性だ。恋人のクリケット賭博に巻き込まれ逮捕されるのだが、そのおかげで世間の注目を集めるようになり、今度はリアリティーショー出演のオファーが舞い込む。視聴率のためだったら、とにかく世間で話題になっている人を何としてでも引き込もうとする貪欲なTV業界の姿は、現在のインドの現実である。だが、パローマーのように転落した人物にとってのラストチャンスになっていることも確かだ。これがきっかけでパローマーは立ち直ることが暗示されていた。

 2時間ほどの映画に5つのエピソードを詰め込んだため、それぞれのエピソードを深く掘り下げることはできていなかった。また、カレンダーガールになった女性たちのその後に焦点を当てたことで、カレンダーガールという文化そのものについて何かを語ろうとする映画になっていなかった。どちらかといえば、一夜にしてセレブリティーになった女性たちにどのようなことが起き、どのように生き残っていくべきなのかを考えさせられる内容になっていた。

 新人の女優たちを一斉に起用した起用法は英断だった。有名な女優を一人でも起用してしまったら、他の人のエピソードが霞んでしまうし、誰がハッピーエンディングとなるのかも大体予想できてしまう。一方で、5人もスター女優を起用するような作品でもなかった。それよりは、フレッシュな顔ぶれを揃え、それぞれのエピソードを白紙から楽しむ今回のような作りが最上であった。5人の中では、シャロンを演じたカーイラー・ダットが伸びそうだった。

 「Calendar Girls」は、実話を巧みに消化してフィクションにし、娯楽映画として仕上げる手法に長けたマドゥル・バンダールカル監督が、カレンダーガールになった5人の女性たちのその後をそれぞれ描いた、オムニバス的な作品であった。バンダールカル監督のベストの作品とまでは行かないが、それぞれのエピソードの展開を楽しめる作品になっている。