2015年5月29日公開の「P Se PM Tak」は、売春婦が州首相に、果ては首相になるという、突拍子もないストーリーの政治風刺コメディー映画である。題名は「PからPMまで」という意味だが、「P」は「Prostitute（売春婦）」、「PM」は「Prime Minister（首相）」の頭文字であり、つまり「売春婦から首相になる」になる。
監督は「Jaane Bhi Do Yaaro」（1983年）や「Dil Hai Tumhaara」（2002年）で知られるクンダン・シャー。主演はミーナークシー・ディークシト。南インド映画の女優であり、日本で公開されたテルグ語映画「Baadshah」（2013年／邦題：バードシャー テルグの皇帝）にも出演していた。ヒンディー語映画に出演するのはこれが初である。
他に、インドラジート・ソーニー、バラト・ジャーダヴ、ヤシュパール・シャルマー、アンジャーン・シュリーワースタヴ、アキレーンドラ・ミシュラー、ヴィーレーンドラ・サクセーナー、プレールナー・ワーンヴァリーなどが出演している。
プネーの売春宿で売春をして生計を立てていたカストゥーリー（ミーナークシー・ディークシト）は、警察の急襲から逃げ、サターラーにやって来る。早速バス停で客引きを始めるが、たまたまその場に私服でいた警察官ラージャン警部補（インドラジート・ソーニー）に捕まってしまう。 ラージャン警部補は、有力政治家ワーマン（バラト・ジャーダヴ）の姪ラシュミー（プレールナー・ワーンヴァリー）の許嫁だった。補欠選挙が近づいており、有権者にアピールしたかったワーマンは、ラージャン警部補とラシュミーを集団結婚式で結婚させようとするが、盛大な結婚式を夢見ていたラシュミーは怒ってどこかへ行ってしまう。そこでワーマンたちはラシュミーの代わりに牢屋にいたカストゥーリーを連れ出して、ラージャン警部補と見せ掛けだけの結婚式を挙げさせる。 ラージャン警部補と挙式したことでカストゥーリーは本気で彼に恋してしまう。だが、ラージャン警部補は売春婦を妻にするなどもってのほかと考えていた。用済みになったカストゥーリーは捨てられる。そこでカストゥーリーはワーマンのライバル政治家たちに接近する。ジャーデージャー（ヤシュパール・シャルマー）は州首相の座を狙っており、ワーマンの政党を飛び出て、ロークバンドゥ（アキレーンドラ・ミシュラー）率いるライバル政党に合流していた。ロークバンドゥたちはカストゥーリーを使ってワーマンを誘惑させ、その様子を動画に収め、スキャンダルにしようとする。ところがワーマンは興奮して死んでしまう。 ワーマンに取り入っていたDD（アンジャーン・シュリーワースタヴ）たちは何とかワーマンを生きていることにしなければならなかった。科学者のクリシュナムールティ（ヴィーレーンドラ・サクセーナー）を使ってワーマンをロボット化する。そして、カストゥーリーをワーマンの姪ラシュミーということにして、公衆の面前に出す。州首相とジャーデージャーはそれぞれワーマンの暗殺を殺し屋に依頼する。ワーマンは撃たれるが、既に死んでいたために倒れず、リモートコントロールにより踊り出す。この混乱の中で、州首相、DD、ロークバンドゥなど、カストゥーリーとジャーデージャー以外の政治家や実業家たちが殺されてしまう。 ジャーデージャーは自身の操り人形にするため、カストゥーリーを州首相に就任させる。だが、カストゥーリーが売春婦のための政策を打ち出したため、彼はすぐにカストゥーリーに辞表を提出させようとする。そのため、ジャーデージャーは本物のラシュミーと結婚までしており、クリシュナムールティの協力を得て、殺した州議会議員をロボット化にし、自身の州首相就任を強引に成し遂げる。カストゥーリーとラージャン警部補は野に下る。 数年後。とある政党の政治家たちが、隠遁生活を送っていたカストゥーリーを訪ね、彼女に下院議員への立候補を依頼する。彼らは彼女を首相にするとまで言った。カストゥーリーは有権者に人気の政治家になっていたのだった。
主演のミーナークシー・ディークシトは、タポーリー・バーシャーと呼ばれる下層民のしゃべる言葉を使いこなし、常に前向きで溌剌とした売春婦を熱演していた。死んだ政治家ワーマンが科学力によってロボット化され、撃たれても撃たれても倒れず、ステージの上で踊り続けるシーンは後半のハイライトであり、この映画でもっとも抱腹絶倒できる時間帯であった。それでも、全体として安っぽさは否めなかった。
主人公のカストゥーリーはプネーからサターラーにやって来て、地元政界のごたごたに巻き込まれる。だが、彼女にとってそれはチャンスでもあり、報酬と引き換えに偽の花嫁を演じてみたり、政治家を籠絡してみたりした。そうこうしている内に彼女は有力政治家の姪ということで固定され、多くの政治家たちが一度に暗殺されたことで、州首相に上り詰めてしまう。
そこまでのストーリーはまだ筋道が通っていたが、その後はかなりやっつけ仕事で終わらせてしまっていた。州首相になったカストゥーリーがどんなことをしたのかは駆け足で語られるだけだったし、彼女を傀儡に使用としたジャーデージャーとの確執や、州首相を失脚させられた後の境遇など、ほとんどまともに語られることはなかった。製作費が尽きてしまったのか、完成を焦ったのかは分からないが、映画の完成度を低めてしまっていた。そして結局彼女は首相にはなっていない。題名は誇大広告である。
「P Se PM Tak」は、過去に名作コメディー映画を送り出したクンダン・シャー監督の最新コメディー映画である。しかしながら、既にシャー監督の全盛期は過ぎたといわざるを得ない。もはや時代遅れの映画監督になってしまった。所々に爆笑できるポイントはあるものの、この程度の完成度の映画では、現代の観客にはそっぽを向かれてしまうだろう。