Surkhaab

3.0
Surkhaab
「Surkhaab」

 インドは欧米諸国に多くの移民を送り出している国だが、中には違法な手段で渡航する不法移民もいる。2015年4月24日公開の「Surkhaab」は、インドからカナダへ不法移民した女性の物語である。

 監督はサンジャイ・タルレージャー。ほぼ無名の監督である。キャストにも名の知られた俳優はいない。主演のバルカー・マダンは過去に「Bhoot」(2003年)などに出演していたようだが、全く知らない女優である。彼女はこの映画のプロデューサーにも名を連ねていた。他に、スミト・スーリー、ヴィニーター・マリク、ナレーシュ・ゴーサーイン、アーシュー・シャルマー、ニシャーント・ベヘル、カンザ・フェリスなどが出演している。

 ちなみに、題名の「Surkhaab」とは渡り鳥のアカツクシガモのことである。不法移民する主人公に重ね合わせられているのだろう。

 パンジャーブ州に住む女性ジート(バルカー・マダン)は、大臣の息子に目を付けられ、母親(ヴィニーター・マリク)の勧めに従って、弟のパルガト(ニシャーント・ベヘル)が出稼ぎするカナダへ逃げることになる。不法移民を斡旋するバルビール(ナレーシュ・ゴーサーイン)に金を払い、書類を偽造して、彼の甥クルディープ(スミト・スーリー)と共にトロントに降り立つ。ジートはバルビールとクルディープにカバンを持たされていた。

 空港の外で落ち合うはずだったクルディープは見当たらず、ジートは代わりに他の不法移民と共に隠れ家に連れて行かれる。そこで警察の急襲に遭うものの、ジートは逃亡に成功する。ジートはパルガトの働くレストランに行く。パルガトはそこで皿洗いの仕事をしていた。8年振りの再会を喜んだのも束の間、パルガトは何物かに誘拐されてしまう。

 その後、ジートは二人組の男に狙われるようになる。彼らはジートがインドから持たされてきたバッグを狙っていた。しかも、クルディープとその男たちはグルだった。ジートは、パルガトの働くレストランで歌手をするマリヤム(カンザ・フェリス)の助けを借りながらパルガトを探す。また、ジートはバルビールに連絡を取る。バッグの中には大量のダイヤモンドが入っていた。どうもクルディープは、そのダイヤモンドを独り占めしようとしてジートからバッグを奪い取ろうとしているようだった。

 ジートとマリヤムはパルガトを見つけ出して救出する。そしてダイヤモンドを、カナダに駆けつけたバルビールに渡す。バルビールはお礼にダイヤモンドをひとつくれた。ジートはそのダイヤモンドをマリヤムにプレゼントし、彼女もレストランで働き出した。

 無名の監督、無名の俳優の映画だが、構成に工夫があり、最後まで見入ってしまう映画になっていた。主人公のジートがなぜカナダに来たのか、そしてジートが持たされたバッグにどんな秘密が隠されているのか、まるでページを1枚ずつゆっくりめくるように、過去の回想シーンが断片的に、しかも時間を巻き戻していく形で差し挟まれ、少しずつ謎が明らかになっていくサスペンス性があった。

 インド映画ではよくあることなのだが、他国に偽造パスポートや偽造ヴィザなどを使って違法に移民したり、密入国したりする行為には、ほとんど罪悪感が感じられない。それを罪と思っていない節がある。むしろ、不法移民同士の連帯や、置かれた境遇の困難さなどに焦点が当てられていた。移民を受け入れる国の側の観点では、違法に移民してきて、移民先でトラブルに巻き込まれるのは自業自得としか思えない。結末でも、ジートは不法移民のまま仕事を始め、めでたしめでたしで終わっていた。不法移民を是としている人でなければ、この終わり方をすんなり受け入れることはできないだろう。

 また、ジートが意外に万能な女性だったのにも違和感を感じずにはいられなかった。ジートは柔道や空手の使い手であり、屈強な男性をも易々と打ち負かしてしまう。また、カナダで意思疎通に困らないくらいの英語力があるし、初めてカナダを訪れた割には、バスや地下鉄を乗りこなし、ヒッチハイクまでして、やたら旅慣れていた。このぐらいの才能を持った女性ならば、インド本国で何らかの真っ当な職を得ることができるのではなかろうか。

 ジートが預かったバッグには大量のダイヤモンドが隠されており、ジートはその密輸の片棒を担がされていた。密輸の仕事はバルビールが牛耳っていたが、その甥のクルディープは、叔父を騙してダイヤモンドをネコババしようと考えていた。それがカナダに着いたジートに降りかかった災いの元だった。クルディープは手下を使ってジートからバッグを奪おうとする。だが、ジートからなかなか奪えない。ジートに柔道や空手の心得があったからという設定なのだろうが、複数の男性が寄ってたかって飛びかかればバッグのひとつやふたつ奪えないことないだろう。この辺りも観ていて疑問に感じた点である。

 主演のバルカー・マダンは、アイシュワリヤー・ラーイやスシュミター・セーンと同世代のミスコン出身女優である。よって、撮影時には既に40歳以上だったはずだ。だが、彼女の演じたジートはどう見ても20代くらいの女性の役で、かなり無理があった。見知らぬ土地に舞い降りたインド人女性を精いっぱい演じていたが、オドオドしている割には強いし、サバイバル能力に長けているしで、何だかチグハグな人物になってしまっていた。それは彼女の演技の方向性にも問題があったのではないかと感じた。

 「Surkhaab」は、カナダに不法移民したインド人女性がトラブルに巻き込まれるという筋の物語である。意外にサスペンス性があるが、不法移民を肯定的に描いているといわれても仕方がないような内容で、日本人としてもすんなり受け止めたくない気がする。スター性も皆無で、観る動機付けが難しい映画だ。その割には意外に楽しめるのは、構成の勝利であろう。